リアクション
● 全ては終わったかのように見えたが、実を言うとそうでもなかった。 お互いの無事を確認し合って合流した討伐隊の面々の前に突き出されたのは、ロープでふん縛られたイルーム、それにアクシューミだった。「あでっ」と、アクシューミはそれまでの様相とは見事に違う悪態を晒し、まるでしけた商人のような顔になっていた。 「この人、グランドプロスが出てきたらまっさきに逃げだしてね」と、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が言った。「怪しいな〜と思って追いかけてみたら、案の定……イルームとつながってたってわけさ」 「どういうこと?」と、ルカが聞いた。 「全部、こいつの入れ知恵だったということだ」と、佐々木 八雲(ささき・やくも)が弥十郎の代わりに答えた。「リリアンテ家に嫁ぐからには、民衆の心を揺るぎないものにしておかないとならない。だからこいつは、イルームにグランドプロスの存在を教え、わざとメルを攫わせたんだ。自分が救出することも、織り込みずみでな」 「だけど、予想外のことが起きた」と、弥十郎。「ワタシたちが参加したことだよ。メルは契約者たちに救われるし、このままだと自分の活躍はほとんどなくなってしまう。だから、いっそワタシたちみんなを葬るつもりで、グランドプロスを復活させたんだね」 「アクシューミ、あなたという方は……」 メルは愕然として、アクシューミを睨みつけた。しかしアクシューミは、反省するどころか、なんと笑いはじめたのだった。 「フ、フフフ……証拠でもあるのか?」 「なに?」と、レン。 アクシューミは強気の態度に打ってでた。 「証拠もないというのに、私を非難するとはお門違いだ。私はあくまでメルさまを助けようと力を尽くしていただけに過ぎんよ。そう、この男の謀略からな」 「なにぃ!? き、貴様……裏切るつもりか……!」と、イルームは憤った。 だが、アクシューミは痛くもかゆくもない。むしろその憤りが心地良い音色かのように、笑みを濃くするだけだった。 「最初から裏切ってなどいない。私はアクシューミだ。英雄、アクシューミ! メルさま、このような戯言を信じるのはおやめなさい! 証拠もなにもなく、私を疑うとは信じられない行為! 貴族にあるまじき失態ですぞ!」 「証拠ならあるよ」 と、いきなりかかった声は、予想外のものだった。 討伐隊に参入していた炎羅が、にやりと笑っているのだ。彼は隣にいたピアニッシモをうながした。 「さ、ピアノ。あれを見せてあげな」 「はいなの、マスター」 ピアニッシモの目が光りだし、メモリープロジェクターの映像を地面に映しだした。そこにはグランドプロスから逃げだした直後、縛られているイルームのもとへ向かって彼を罵るアクシューミの姿があった。「貴様ぁ! わかっているのか! この計画に失敗すれば、私も貴様も終わりだ! この責任は必ず取ってもらうぞ!」などと、悪態をついている。 アクシューミは愕然となり、すっかりそれまでの威勢の良さは失われた。 「アクシューミ」と、メルが声をかける。 「お、おお、メル様!」アクシューミは最後の希望を見出したかのように言い寄った。「聡明なメル様ならば、きっと私の無実をわかってくださいますね! あれは嘘です! きっと、なんらかのトリックで、やつらが私たちをおとしめようとしているに違いありません! そもそも、契約者などという地球の輩が、私たち貴族に刃向かおうなどというのが間違っているのです!」 「この……」まくしたてたところで、八雲は我慢ならなくなって拳を振りあげた。「お前という男は!」 が、その拳がアクシューミの顔を打つ前に、ひとりの少女の手がアクシューミの顔をはたいていた。それはメルの手だ。ビンタ一発。赤く腫れあがった頬を押さえ、信じられないという顔をするアクシューミに、メルは言い放った。 「人として、最も恥ずべきことしているのはあなたですわ、アクシューミ。地球がなんです、貴族がなんです。たしかにわたくしたちは格式と伝統を誇りに思わねばなりませんが、そこに他者を蔑んでよい格差などあるはずがありません。わたくしは感謝しております。地球の契約者の方々に。それだけでも、あなたは彼らよりもはるかに劣っておりますわ!」 アクシューミは意気消沈した。もはや彼に、尊厳などは存在しなかった。 (そしてもちろん、あなたにも……) メルはグランドプロスのことを思った。彼女は巨人の過去を見たわけではなかったが、どこかでグランドプロスの目に優しさと悲しみを感じ取っていた。 (自分の運命の答えを、自ら見つけ出したあなたにも……わたくしは感謝していますわ) 魔石に眠る巨人はなにを思うだろう。 その運命が、まるで歯車のように、かちりとかみ合ったことに。そのことを巨人は、まだ知らない。 |
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