リアクション
暗い空間の中、ひっそりとたたずむ神社の社。 ◇ ◇ ◇ 何も無い暗い空間。 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は自分と瓜二つの彼女と対立していた。 「いよう、久しぶりだな……いや、久しぶりでもないか。 つい、この間も会ったな?」 『そうだな。だが、こうして向かい合ったのも何かの縁だ。そうだろ?』 「だな。まぁ、いつ会ったかなんてどうでも良いか。ほら、呑めよ?」 胡坐をかいて持って来た酒の徳利を彼女の杯に傾ける。 くっと飲むと、今度は彼女が徳利を垂の杯に傾けた。 それを垂が飲み、今度は垂が。といった様に酒盛りが始まる。 「お前にはいつも世話になってるもんな……この左腕を失った時だってそうだ」 『大切な人を守る為・未来への道を切り開く為。 理由は確かな物だし、望んでその為に命を懸けて戦っているけど、やっぱり怖ぇもんは怖ぇもんな』 「そんな時はいつもお前に出てきて貰っちまってるからな……」 ついと出てきてもらっていたあの時の事を思い出す垂。 左腕があった時から、なくなってからも、事あるごとに声として、その存在として共にあった彼女。 だからこそ、ナニを言うまでもなくこうして深い会話が出来るのだ。 『弱い自分……弱い心』 「お前はいつも俺を引き止めてくれる。『本当にやるのか? 傷つくのは目に見えてるだろ? お前がやらなくても、誰かがやってくれるさ』ってな」 『だからこそ、俺は恐怖心を退けて前へと進んで行く事が出来るんだ。仲間を守る事が出来る』 「お前の言葉はそのまま他の皆の言葉とも言えるからな……人の意識の最下層にある、防衛本能とでも言うべきか?」 『だからこそ、仲間にそんな事をさせたくない! って気持ちになるんだよ』 杯を握ってない方で拳を作る彼女。 それに頷く垂。 このまましばらく無音の時を噛みしめる二人。 「いつも助けてくれて悪いな……ありがとう」 囁くように、それでいて最大限の感謝の気持ちを込めて、垂は彼女の杯と自分の杯の縁を当てた。 チンッと小気味いい音を立てると、垂と彼女は再び杯を煽り始めた。 なにも言わなくても、伝えなくても、彼女と垂の間には絆があるのだから。 そうして飲み続けていると、ついに持って来た酒が尽きた。 「なくなっちまったか」 『そうだな。なかなかに美味い酒だったぞ』 「そうか。ありがとよ」 『じゃ、またな』 「あぁ、また」 あっさりと、別れではなく再会を誓ってそれを告げると、気付いた時には空間が元に戻っていた。 |
||