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我を受け入れ、我を超えよ

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我を受け入れ、我を超えよ

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 暗い空間の中、ひっそりとたたずむ神社の社。
 その社の中から鳴き声が聴こえている。

『えーん……えーん……ひぐ。いたいよ……こわいよぉ』

 村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)はその声に聞き覚えがある。
 聞き覚えがあるも何も、昔苛められて神社の社に籠って泣いてたあの頃の自分であるのだから。

「ねぇ、臆病で傷だらけの私。私は今は少しだけ友達も出来た。でも怖いものや、嫌なものはまだまだ沢山。その内の一つがあんた……私よ。あんたを受け入れて、乗り越えるために、怖いけど一人で此処に来たの! 解りなさいよ!」

 大声で社に向かって叫ぶ蛇々。
 社の扉は開かない。
 聴こえてくるのは鳴き声だけである。

「怪我したり罵声浴びたりで怖いだろうけど、あんたの辛さや怒りを全力で私にぶつけて来なさいよ! ……………わ、私だって自分と対峙するのは怖いけど、あんたと戦うわ! あんたの想いはちゃんと受け止める……だから私の想いも分かって!」

 鳴き声が止む。
 辺りには静寂が包みこまれる。

 蛇々はもうひと押しだと感じ、声を張り上げる。

「さあ、薄暗い社から出てきて戦うのよっ! 二人で一緒に変わる為に!」


ーーーキィ……


 軋んだ音を立てながら社の扉が開く。
 恐る恐る中から除くのは傷だらけの小さな蛇々。

『二人で変わるの?』
「そうよ。私だけが変わるんじゃなく、あんたが変わるんじゃなく、二人で変わるの。一緒にね」
『わかった』

 社から出てくる小さな蛇々。
 二人の蛇々は何も言わず、突如張り手や拳といった叩き合いが始まる。

 示し合わせたように叩き合う二人。
 お互いが涙を流し、頬を腫らし、それでも叩くのは止めない。

 それぞれが叩き合う音が響き渡る。
 長いようで短い、それでいて長かったように感じる時間が流れ、今までにあった感情や思いを昇華させていった二人。

『これはきっかけ』
「私もあんたもこれから変わっていく。分かっているわ」

 想いが昇華されると、小さな蛇々は蛇々に溶け込むようにして消えて行った。



◇          ◇          ◇




 何も無い暗い空間。
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は自分と瓜二つの彼女と対立していた。

「いよう、久しぶりだな……いや、久しぶりでもないか。 つい、この間も会ったな?」
『そうだな。だが、こうして向かい合ったのも何かの縁だ。そうだろ?』
「だな。まぁ、いつ会ったかなんてどうでも良いか。ほら、呑めよ?」

 胡坐をかいて持って来た酒の徳利を彼女の杯に傾ける。
 くっと飲むと、今度は彼女が徳利を垂の杯に傾けた。
 それを垂が飲み、今度は垂が。といった様に酒盛りが始まる。

「お前にはいつも世話になってるもんな……この左腕を失った時だってそうだ」
『大切な人を守る為・未来への道を切り開く為。 理由は確かな物だし、望んでその為に命を懸けて戦っているけど、やっぱり怖ぇもんは怖ぇもんな』
「そんな時はいつもお前に出てきて貰っちまってるからな……」

 ついと出てきてもらっていたあの時の事を思い出す垂。
 左腕があった時から、なくなってからも、事あるごとに声として、その存在として共にあった彼女。
 だからこそ、ナニを言うまでもなくこうして深い会話が出来るのだ。

『弱い自分……弱い心』
「お前はいつも俺を引き止めてくれる。『本当にやるのか? 傷つくのは目に見えてるだろ? お前がやらなくても、誰かがやってくれるさ』ってな」
『だからこそ、俺は恐怖心を退けて前へと進んで行く事が出来るんだ。仲間を守る事が出来る』
「お前の言葉はそのまま他の皆の言葉とも言えるからな……人の意識の最下層にある、防衛本能とでも言うべきか?」
『だからこそ、仲間にそんな事をさせたくない! って気持ちになるんだよ』

 杯を握ってない方で拳を作る彼女。
 それに頷く垂。

 このまましばらく無音の時を噛みしめる二人。

「いつも助けてくれて悪いな……ありがとう」

 囁くように、それでいて最大限の感謝の気持ちを込めて、垂は彼女の杯と自分の杯の縁を当てた。
 チンッと小気味いい音を立てると、垂と彼女は再び杯を煽り始めた。

 なにも言わなくても、伝えなくても、彼女と垂の間には絆があるのだから。
 そうして飲み続けていると、ついに持って来た酒が尽きた。

「なくなっちまったか」
『そうだな。なかなかに美味い酒だったぞ』
「そうか。ありがとよ」
『じゃ、またな』
「あぁ、また」

 あっさりと、別れではなく再会を誓ってそれを告げると、気付いた時には空間が元に戻っていた。