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リアクション
土下座までどれくらい
「上空の敵は私も向かいます。チャンスがあれば赤い糸にも」
静かにそう言い置いたウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、ルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)と共にワイバーンに乗って飛び立った。
ウィングのワイバーン【エステリア・メネルドール】は、彼の指示通りに真っ直ぐに龍騎士へと向かう。
「回り込まれないよう、気をつけよ」
「はい」
鎧となってパートナーを守るルータリアの注意に、ウィングは一度周囲へ視線を巡らせると、もっとも手薄なところへ目を付けた。
「オレ達も行くぞ!」
瓜生 コウ(うりゅう・こう)が1000人の配下に号令を飛ばす。
さらに改造されたスパイクバイクに乙旗を掲げ、特攻服仕様に仕立て直したリーブラ・クロースの裾が風にはためく。
「しっかりついてこいよ、フォロー・ミー!」
軽快なクラクションは直後、配下の怒号にかき消されたが、すぐに背後から同様の音が鳴り響く。
コウはウィングの動きをよく見た。
ワイバーンの鋭い鉤爪にバランスを崩した龍騎士を見つけたコウが、すかさず奈落の鉄鎖で地面に引きずりおろす。
「全員、突撃ーッ!」
パラリラパラリラと快音を撒き散らしながら、コウが示した標的へ1000人が殺到する。
落ちたのは従龍騎士で、一対一なら敵うべくもないが1000人が相手となれば話は別だ。
地平線を砂煙で埋めながら迫ってくるコウ達に、従龍騎士の顔から血の気が引いていく。
逃げようと、ワイバーンを飛び立たせようと浮いた瞬間、何かに足を掴まれたように再び地面に落とされた。
諦めて敵勢に向き直り槍を構えたが、間もなく彼はスパイクバイクの群に蹂躙された。
その間もウィングは攻撃の手を休めなかった。
ルータリアが敏感に敵龍騎士の攻撃の気配を感じ取り、ウィングに回避の指示を出すが、すべてをよけられるわけではない。
「魔法が来る。距離を取れッ」
数人の龍騎士、従龍騎士の手に魔法の輝きを見たルータリアが叫んだ時、ウィングは懐から赤黒い宝石を取り出し祈りを捧げた。
すると、今にも放たれようとしていた魔法の輝きが急速に失われていく。
戸惑う龍騎士達はそのままに、背後からの殺気に気づいたウィングは、ワイバーンを反転させ、その勢いを借りて騎手を刀で斬りつけた。
気の乱れた龍騎士達に、突如、銃弾が浴びせられる。
リーゼロッテ・フォン・ファウスト(りーぜろって・ふぉんふぁうすと)がメインパイロットを努めるイーグリット【ブリュンヒルデ】のアサルトライフルから紫煙が立ち上っていた。
「ロールアウトしたブリュンヒルデのテストにちょうどいい相手だ。……いけるな、フィア」
「フィアなら、大丈夫……」
抑揚のないフィア・シュヴェスター(ふぃあ・しゅう゛ぇすたー)の返事だが、リーゼロッテは満足そうに微笑んだ。
武器をビームサイズに切り替え、ウィングの加勢に飛ぶ。
しかし、従龍騎士がブリュンヒルデの行く手を阻む。
真っ直ぐ突っ込んでくるワイバーンの鉤爪が陽光に反射した。
「敵機接近……回避します……」
フィアの示す通りにイコンを操り、鉤爪の一撃をかわす。
わずかに機体をかすめたが、リーゼロッテは攻撃の後の一瞬の隙を見逃さず、ビームサイズを振り下ろした。
それはワイバーンの翼を切り裂き、騎士もろとも落下させた。
「複数の目標、接近中です……」
「いったん引いて一機ずつ相手する」
「了解……」
囲まれたら勝ち目はないと、リーゼロッテは判断した。
追ってきたワイバーンは三体だが、なかなか思うように散らすことができない。
どうするか、とリーゼロッテがモニターを見つめた時、不意に一体のワイバーンが態勢を崩した。
確認すると、地上からクェイルが発砲したことがわかった。
リーゼロッテはすぐに行動を決めた。
「フィア、あのクェイルの射程内で片付ける」
「はい……」
フィアもパートナーの考えを察して、計器類の数値に集中した。
地上のクェイル【Soldat】では、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)がエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)からダメ出しをくらっていた。
「……目標をセンターに入れてスイッチ、じゃないの?」
「その前に、敵の動きの予測、だ。だからよけられたんだろ。向こうは常に動いてるんだから」
「むぅ」
エヴァルトの指摘にロートラウトは唇を尖らせる。
彼の言う通り、ブリュンヒルデを追うワイバーンは弾がかすっただけだった。
「じゃあ、オートロックオンは解除しとくよ。う〜ん、ちょっと上を狙ったほうがいいのかな……」
ぶつぶつと呟きながら、改善点を検討するロートラウト。
ワイバーンが羽ばたいた時のわずかな隙を見つけたエヴァルトだった。
「機会があれば騎手も狙え」
「わかった」
「あのイーグリットもこっちに気づいてるようだ。やりやすいだろう」
「うん」
上空を大きく旋回したブリュンヒルデがSoldatの頭上を通り過ぎる。
羽を広げたワイバーンが羽ばたきの姿勢を見せた。
チャンスを逃すまいと、ロートラウトの目がモニターを凝視する。
エヴァルトに言われたことを意識して──アサルトライフルのトリガーを引かせる。
「当たった!」
喜んだ直後、ブリュンヒルデが撃たれたワイバーンをビームサイズで斬りつけた。
ワイバーンは耳障りな声を上げ、それでも落下はせずにフラフラと離れたところへ不時着した。
「気を抜くな! まだ残ってるし、そろそろ俺達にも来るぞ」
「うわわっ」
エヴァルトは敵が迫っていないか素早く確認し、ロートラウトはあたふたと攻撃態勢を整えにかかった。
すぐにどうこうするような敵はいなかったのだが、油断は危険であるというエヴァルトの戒めだった。
彼らの戦いを見ていた秋月 葵(あきづき・あおい)も、乙王朝側に立ったからにはがんばらなくては、と燃えていたが、彼女には東シャンバラ国ロイヤルガードという立場がついていた。
「堂々と戦うのは問題だよね……むむむ。あっ、そうだ!」
ぽんっ、と手を打ち、マジカルステッキをくるりと回す。
「変身すればいいんだよねっ。これでバレない。うん、バレないよ」
誰かに言い聞かせた葵は、変身! と、ステッキを振った。
もちろん、人の目がない岩陰で。
淡い光に岩が縁取られる。
ふと、不審な光がと気づいたミツエがそちらへ目を向けた時、
「華麗に登場! 愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおい!」
きらり、と輝きを走らせたあおいが躍り出てきた。
「……葵?」
「突撃魔法少女リリカルあおい、だよっ」
口をへの字にしたあおいに、ミツエは「バレない」ってあたしに言ってたのね、と納得した。
それが通じたのか、あおいは空飛ぶ魔法↑↑で浮き上がると、帝国側龍騎士との空中戦を繰り広げている箇所を迂回して、運命の赤い糸が見える位置を目指す。
すかさず彼女に気づいたアイアスが龍騎士を差し向けた。
「ちょっと眠っててねっ」
あおいのヒプノシスに、騎士の体が揺れ、ワイバーンの制御を失う。
そこにエステリアが突っ込んできて、ワイバーンを地上に叩き落した。
あおいは手をあげて礼をすると、次に赤い糸へ向けてシューティングスター☆彡を放った。
空から輝く星のようなものが赤い糸へ降り注ぐ。いくつも波紋を作り、紫電が弾けた。
が、赤い糸に変化は見られない。
「効いてない……?」
思わず赤い糸を凝視した直後、鋭い羽ばたきの音と銃撃音があおいの耳を打った。
びっくりして耳をふさぎ、身を縮ませたすぐ頭上を帝国側龍騎士のワイバーンが跳ね上げられていく。
「大丈夫か!?」
と、下からの声はエヴァルトだ。
あおいは大きく手を振って無事を知らせた。
「赤い糸がダメならミツエちゃんを守るかな」
あおいは一瞬赤い糸を睨みつけると、地上へ降りていった。
その頃、地上ではアイアスの指示に従う龍騎士が、ミツエの確保のために動き出そうとしていた。
そして、そのミツエを守るため──というか、饕餮の中の孫権を守るために周瑜 公瑾(しゅうゆ・こうきん)はセンチネル【Night−gaunts】に搭乗していた。葵の立場を考慮して、機体は赤く塗装されている。
「饕餮には孫権が乗っています。イングリット、準備はいいですか?」
「おっけーにゃー」
イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)が明るく答え、取扱説明書をポイッと後ろへ放る。内容を理解したわけではない。途中で飽きたのだ。
公瑾に見つかったら怒られそうだが、幸い彼女は今、自分の担当分のチェックで手一杯だ。
とても不安なメインパイロットの態度にはまるで気づいていない。
と、さっそくドラゴンが一体接近してきた。
「我が名は周瑜、字は公瑾! 貴公らに恨みはないが、戦場ゆえご容赦願おう!」
ドラゴンの騎士に名乗る公瑾に合わせて、イングリットがNight−gauntsにスピアを構えさせる。
ふと、イングリットは公瑾が堂々と名乗ったことに疑問を覚えたが、まあいいかと流した。
名乗ったことやNight−gauntsの背に括り付けられている『周』の幟、わざわざ機体を赤くした意味を台無しにしているのだが、今のところ二人も龍騎士も気づいていなかった。
「饕餮には近づけさせません!」
「うん? あれぇ? 師匠、饕餮が動いてるにゃー」
え、と公瑾の注意がそれる。
直後、Night−gauntsはドラゴンに突き飛ばされ、倒れこんだ。
受けた衝撃に顔をしかめながらモニターを確認する公瑾は、確かに空を飛ぶ饕餮を見た。
メインパイロットはミツエのままだが、リモコン仕様のためそれさえあれば饕餮を操作するのは誰にでもできるのだ。
饕餮はまっすぐに空中で戦っている味方へと接近している。
ミツエの敵となったアツシが操作している以上、彼らを攻撃すること以外に考えられない。
「孫権、抵抗しなさい! イングリット、追いかけますよ!」
「はいにゃー!」
とどめを刺しに来たドラゴンをきれいにかわし、Night−gauntsは饕餮を追って走った。
空中を動き回る饕餮だが、誰も気づかないうちに人が二人、繋がれていた。
朝野 未沙(あさの・みさ)とミツエである。
「ちょっと、どういうつもりよ!」
「どういうつもりって、あたしがミツエさんを守るつもりよ」
「今、掛け値なしに危機なんだけど!?」
「大丈夫よ。あの血の大河はあたしの1000人が知恵を絞って防ぐから」
ミツエが知らない間に攫われたりしないようにと、考えた未沙は見た中で一番重量のありそうな饕餮がちょうどいいところにいたので、その足にロープを繋いだ。さらに、そのロープで自分とミツエを結んだのだった。
そして、饕餮は飛んでしまった。
アツシも二人が凧のように飛んでいるとは思っていないし、事実、気づいていない。
饕餮は空中の激戦地へ向かっている。
運命の赤い糸どころではない状況にも関わらず、未沙はミツエと密着していることに、しだいに妙な気持ちになってはていた。
「ミツエさん、絶対に離さないからね」
するすると未沙の手がミツエの胸に伸びる。
むにっ、と揉まれる感触にハッと気づいたミツエがその手を叩き落そうとするが、二人の距離が近すぎて難しい。
「あんまり成長してない? でも、安心してあたしに任せて」
「こんなことしてる場合じゃないでしょ!」
「気持ちよかったら遠慮しなくてイイノヨ……」
「全力で遠慮するわ! もうっ、余計な危険ばっかりじゃない!」
頬を上気させた未沙に胸を揉まれながら、ミツエは「キーッ!」と叫び声をあげた。
同時に饕餮が旋回し、ジェットコースターよりも怖い体験をすることになったのだった。
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