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運命の赤い糸

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運命の赤い糸

リアクション

 赤い糸が見つけたのは吸精幻夜でミツエの生気を吸った菫だった。
 レイチェルを瀕死に追いやった赤い糸は、姿の見えないミツエではなく、何となくミツエの気配のする菫に襲い掛かる。
 レイチェルを見てしまった菫の背筋が寒くなるが、多少なりともミツエの気配があるなら、ひょっとしたら契約できちゃったりするかも、と小さく期待した。
 風を切る音と共に迫る赤に菫は思わずきつく目をつぶる。
 彼女の意識はそこで途切れた。
 次に目を覚ますのは病院になるが、それはもう少し後のことになる。

 雷火【是空】からその様子を見ていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、はっきりと嫌悪をあらわす表情で赤い糸を睨みつける。
「『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ』ってよく言うけどさ、今回ばかりはちょっと……いや、あれは違うだろ」
 恋を暴力と表現することもあるが、赤い糸にはそれ以上に傲慢さが見える。
 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)も不快をあらわにしていた。
 ミツエが走っていった道に構えた是空に、赤い糸が真正面から突っ込んでくる。
 是空はジャンプするとホバーユニットを起動させ、赤い糸の表面に乗るように浮かぶと鬼刀をそこに突き立てた。
 そして、まるで水面を走るように駆け、鬼刀で赤い糸を切り裂きながら叫ぶ。
「運命の赤い糸は無理矢理繋ぐもんじゃねぇ! 生まれたその時から結ばれているものなんだよ!」
 鬼刀の軌跡に合わせ、赤い飛沫が散った。
 是空の特攻により形を歪められた血の大河に、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がとどめを刺すべくインドラを飛ばす。
「朱美、準備して!」
「おっけー」
 那須 朱美(なす・あけみ)は鎧となり祥子の身を覆う。
 ここでこのようにするのは訳があった。
 通常の攻撃では赤い糸を破壊できないと判断した祥子は、イコンごと中に突っ込みエンジンを臨界突破させて自爆させようと考えたのだ。
 その機会をずっとうかがっていた。
 リリカルあおいはすでに機体から離れている。
「行くわよ!」
 インドラのモニターが赤一色に染まった。
「外に出たらちょっと覚悟だね」
「あら、もしかしたら契約しちゃうかもよ」
 祥子の軽口に朱美が明るく笑った。
 ミツエの傍についていた天華は、少しでも時間を稼ごうと月英にミツエを託すことにした。
「どうにもならないかもしれないが、仲間はたくさんいる。最後まで諦めるな」
 ミツエは大反対したが、月英に引っ張られてその場から引き離された。
 残った天華の横に、姫宮 和希(ひめみや・かずき)が軽い足音をさせて現れた。
「おまえ一人にやらせはしねぇ」
「なら、お互い最大の技で挑むとしよう」
「こんなことでミツエの夢を終わらせてたまるかよ。あいつは、中原を救うんだ」
 天華は魔法のために精神を集中させ、和希は則天去私のタイミングを計るために呼吸を整えた。

 月英と逃げていたミツエが足を止めて振り返る。
「饕餮!」
 リモコンを使い、呼び寄せようとしたのだが。
 突然、ミツエの体が何者かに担ぎ上げられた。
 声を上げる間もなく赤い糸へ逆戻りさせられる。
「男人の望む小事のために全てを捧ぐ、これぞ漢女の浪漫!」
「冗談じゃないわよ! 下ろせー!」
「ダメダメ。このまま行っくよ〜♪」
 騒ぐミツエに笑って返すミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)
「あんたもぶっ倒れたいの!?」
「何とかなるって」
 泰輔達や菫は不幸なことだった、自分はたぶん大丈夫……という気持ちだったかどうかはともかく、ミルディアは走るスピードを緩めない。
 月英も追いかけるが、彼女の足では追いつけなかった。
「誰かこいつを止めろー!」
 と、ミツエが叫んだ時、タイミングを待ってたかのように空飛ぶ箒に乗ったアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が体当たりしてきたため、ミツエとミルディアは派手に吹っ飛ばされた。
「イタタタ……誰? なんてことするかな!?」
 打ち付けた腰をさすりながら犯人を睨み上げたミルディアに、空飛ぶ箒の上からアキラが同じような表情で見下ろす。
「それはこっちの台詞だ。いったいミツエ殿をどこに連れて行くつもりだったのかな?」
「そりゃあ、素敵なところだよ」
「ふぅん、そう。──昔の人は、こう言った。人はそれぞれ天から授かった定め、天命というものがあり、その天命を自らの運で切り開いていくのが『運命』だと。そして、天命は変えることはできないが、『運命』なら変えられると」
 急な展開の話に、ミルディアもミツエもぽかんとしてアキラを見ていた。
 アキラの声に力がこもっていく。
「ならば、アスコルド皇帝の間に引かれた運命の赤い糸を、俺の『運』で切り開き、そして変更させて俺がアスコルド皇帝とパートナー契約を結んでやるぜ!」
 びっくりする二人を置き去りに、じゃあな、とアキラは空飛ぶ箒を赤い糸へ向けてかっ飛ばした。
 ミルディアが慌てて立ち上がる。
「ダメだよっ。漢女の浪漫は男には無理だよっ」
「女にも無理だっての!」
 腕を掴んだミルディアの手を叩くミツエ。
 両者を引き離したのは、さらわれたミツエを追いかけてきた風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)だった。
「望まないパートナー契約は、どちらも不幸になるだけです」
「優斗!」
「ミツエさん、みんなであの赤い糸を破壊しましょう。すでにダメージは負っているようですから、あと一押しです」
「饕餮を動かすなら早くしてくれ。そのうち死人が出るぞ」
 優斗と共にいた双子の弟の風祭 隼人(かざまつり・はやと)がライフル銃を担いでミツエを促す。
 二人に阻まれてはミルディアもミツエに手を出すことはできなかった。
 ミツエは優斗と隼人に礼を言うと、リモコンに手をかけた。
 その時、ミツエの携帯が鳴った。
 劉備からだ。
『ハッチを開けてください。夏侯淵さんとルカルカさんが入りたいそうです』
「話しが全然見えないんだけど」
 まあいいわ、とリモコンを操作してハッチを開ける。この二人なら問題ないと思ったからだ。
 ミツエがミルディアに担がれ、アキラに突き飛ばされた頃、饕餮には龍騎士達の戦闘をかいくぐったルカルカ・ルー(るかるか・るー)夏侯 淵(かこう・えん)がへばりついていた。
 中からは何もできないと知った夏侯淵は、レーザーブレードでハッチをこじ開けようとしたがうまくいかず、今度はチャージブレイクを追加して挑んだがこれも貫通には至らなかったので、中の英霊達に呼びかけたのだった。
 開いたハッチから先に潜り込んだ夏侯淵から「こんなに狭いのか!?」と驚きの声があがる。
 ルカルカは自分達をここまで運んでくれたワイバーン【セイ】に、命のうねりでここに着くまでに負ってしまった傷を癒しながら撫でて、
「ありがとね。安全なところまで逃げてね」
 と、戦場からの離脱を命じた。
 セイが見えなくなったのを確認したルカルカも中へ入り──。
「狭っ!」
 パートナーと同じことを言った。
 劉備達三人でも身動きもままならないほどギュウギュウだったのに、さらに二人追加されたのだ。
 とても過酷な状況となった。
「おまえ達、何しに来たのだ?」
「そりゃないぜ! ミツエ殿がこいつで赤い糸をぶった斬るって言うから協力しに来たのに」
 夏侯淵に軽く睨まれた曹操は、たいして悪いと思ってないくせに「悪かった」などと言った。
 それからやや引きつった笑みで忠告した。
「洗濯機の中を想像して、覚悟しておけ」
「お、おう。どんな状況だろうと、俺の力、全部提供するぜ!」
 夏侯淵はあえて数分後の惨状を想像することを拒否した。

 劉備からルカルカと夏侯淵の回収が終わったことを告げられると、ゲイ・ボルグ アサルトの御剣 紫音(みつるぎ・しおん)から準備が整ったことが伝えられた。
 紫音も優斗同様にみんなで赤い糸に攻撃することを提案している。
「一斉攻撃よ──!」
 ミツエが掲げた片手を振り下ろす前に、轟音を立てて迫り来る赤い糸の一部が突然破裂した。
 インドラが爆発したのだ。
「かかれーッ!」
 天華のバニッシュ、和希の則天去私が赤い糸の先端を打ち、続けて優斗が聖剣エクスカリバーで斬りつけ、駄目押しに隼人のグリントライフルが一点に撃ち込まれる。
 リリカルあおいは残しておいた力で、爆発箇所にシューティングスター☆彡を落とした。
「試し撃ちには最高だな!」
 ゲイ・ボルグ アサルトに装備された大型ビームキャノンから閃光が走り、すぐ後に二門のマジックカノンの砲撃が追う。
 そして、ルカルカと夏侯淵の力も追加した饕餮が頭上で組んだ腕を振り下ろした。
 そんな中、大帝との契約を望むアキラは、
「壊すくらいなら俺が契約するーッ!」
 と、悲痛な叫び声をあげて突っ込んでいった。
 一斉攻撃を食らった赤い糸は大爆発を起こした。
 饕餮もイコンも龍騎士達もミツエ達も、何もかもが爆風に吹き飛ばされ、赤い糸もすっかり消えてしまった。