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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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10,大きすぎる力



 暴走したルレーブの戦況は、傍から見ても芳しくなかった。暴走という役を演じる必要があるため、あまり知能的な行動を取るとこちらの真意がばれてしまう。現時点で、十分疑いを持たれている中で、それ以上のマイナスを出せば漆黒のパワードスーツの一行に回収される前に、彼らに拿捕されてしまうだろう。
「あれか、もらった金の分は働かないとな」
 山田 太郎(やまだ・たろう)はルレーブを見て言う。
 金さえもらえれば、文字通り何でもこなす何でも屋の彼の今日の雇い主は、国軍ではなく寺院の残党だ。
「三対一か、厄介だな」
 ルレーブは本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)早見 涼子(はやみ・りょうこ)、それにマーゼンの三人を相手に大立ち回りをしている。
 ルレーブはこちら側の人間だ。最終的には、こちらで回収する手はずになっている。あの赤髪の旦那と呼ばれる優男は、こと人材集めに関してはかなり力を入れている。この戦いに募った国軍に悪意ある集団にも、丁寧に対応し装備を与えている。所詮は蛮族という態度は一切見せていない。
 真意では捨て駒にするつもりなのかもしれないが、その考えを一切出さずに通しきった態度はそれだけで評価できる。そのため、今回限りの協力ではなく、スカウトに応じる者が多くいる。
 敵陣の中にあって、暴走という形で協力を行うルレーブを必ず回収する。それが依頼だ。
「ちょっといいかい?」
 まるで道を尋ねるような気軽さで、太郎は声をかけてみた。
「っ! 何者ですの?」
 気配に気付かなかったのか、驚いたように涼子がこちらを睨む。
「敵?」
 飛鳥も同じく、反応をしめした。
「そっちのでっかいのは、あんたらの仲間じゃなかったのかい?」
「何を仰ってますの?」
「おかしいんだよなぁ。話しじゃ、もっと上手くやってくれる事になってたんだ。まるで、誰かが悪いことするってわかってておまえ達が待ってたみたいな手際のよさだよな」
「どういう意味かな?」
「悲しいねぇ……ああ、悲しいねぇ……人を信じられないのは悲しいねぇ」



「だめ、味方に当たっちゃう!」
「……っ!」
 エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)の言葉に、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)は引き金を引くのを躊躇った。
 輸送されているデフォルトプラヴァーの武装は、銃剣付きビームアサルトライフルだ。その威力は調節ができるとはいえ、当たれば命の保障はできない。
 ほとんど生身かつ、プラヴァーを守るために背中を向けている状態で、この武装は気軽に使うことができない。かといって、十全に戦える場所に移動するという事は、自ら孤立するということだ。
 こちらに向かっている敵は、漆黒のパワードスーツが一つ。たった一人、それだけなのにうまく動けないという理由で近づいてくるのを止められない。
「あーもう! こんなのイライラする」
「……接近戦を」
 もう撃ち落してなどと言ってられる距離ではなくなっていた。
 間違いなく、敵はこちらが引き金を引くのが難しい理由をわかっているのだ。
 銃剣付きビームアサルトライフルを剣として振るう。振り下ろした剣は、大地を抉りまるで爆発のようだ。
 剣を持ち上げ、振り下ろした地点を確認する。そこに、敵の姿はなく、その残骸も見つからなかった。その居場所は、モニターに目を向ける前に判明した。コックピットのハッチが、悲鳴のような音をだして無理やり開かれたからだ。
「レジーヌに手を出したら許さないんだから!」
 庇うように体を前に出すエリーズ。
 漆黒のパワードスーツは、力任せに二人を排除するでも、また攻撃を加えるでもなく一度コックピッドの中を見渡した。
「……失礼」
 落ち着いた様子で一歩踏み込むと、睨みつけるエリーズも機会を伺うレジーヌも眼中に無いかのごとく、コックピットの手前、モニターの裏に手を伸ばし何かを取り出した。
「……機晶爆弾」
「ええ、その通りのようですね。ご存知ありませんでしたか?」
 突然現れた爆発物と、いやに落ち着いた声で話す漆黒のパワードスーツに二人は一瞬返答につまった。がすぐにエリーズが、
「今回のは盗難防止用に自爆システムを積んでるって……」
「……? そのようなものは、読み取れませんでしたが」
 言いながら、パワードスーツは自分の手を一瞥する。
「奪われないようにと言いましたが、これはむしろパイロットを殺すためとしか思えませんが……もっとも、この程度の玩具ではこのパワードスーツに傷をつけるのも難しいでしょうが。お二人には危険ですね、こんなものは捨ててしまいましょう」
 ぽいと外に機晶爆弾を放り投げた。
「私としては、あまり手荒な真似はしたくありませんので、素直に降りていただけると有難いのですが」
「……そんな事言わなくても……実力で排除できますよね?」
「ちょっと、レジーヌ?」
 漆黒のパワードスーツは顔が見えないので、まっすぐに見ることができた。
「悪い生き方をすれば悪い死に方をすると言いますからね。あなた方が我々をどう思うかは自由ですが、少なくとも私個人は私のやり方を通したいと思います」
「ドロボーだって悪いことだよ!」
「全くもって、返す言葉がありませんね」
 この限定された空間の中、パイロットとして座っている状況で漆黒のパワードスーツに抗うのは簡単な事ではない。座して死ぬか否かの選択とも言ってもいい。



 漆黒のパワードスーツと戦っていて、朝霧 垂(あさぎり・しづり)がわかった事は、軽いという事だ。比喩としての表現ではなく、パワードスーツを装着した状態で質量がかなり抑えられている。
 足りないパワーを補うために、細かく繊細な出力調整が行われている。剣術だけではなく、武術全般において基本としている体重移動を完全に無視した動きをしながら、威力はしっかりとある。
「一歩間違えたら、間接がへし折れるんじゃないか」
 機械によって補正されているため、中身はそうでもないのかといえば、恐らくそうではない。レーザーブレードの握り方や、攻撃に対する対処への勇敢さは機械に振り回されている人間ができるようなものではない。
 使い捨てられるほど、安い中身ではないのだ。外側だけでなく、中身も失えばイコンを武力行使で集めなければならないような集団にとって、その損失は計り知れない。だからこそ、疑問が湧く。
 漆黒のパワードスーツが活躍する場は戦場なのだ。戦う場面では、常に万全の状態を保てるとは限らない。被弾などの外部からの問題によって、システムに狂いが生じる可能性が無いとはずがない。
 その機械への信頼なのか、それとも単に壊れるわけがないと妄信しているのか。そんなわけがあるはずがない。彼らはその危険性を理解しているはずだ。そうでなくては、あれほど防御に的確な対応を取ってはこない。過信ならば、もっと傲慢な動きになっているはずだ。
 戦場に身を置くのなら命をかけるというのは事は当然のことだろう。そうだとしても、自らの身を食らう魔剣を好む者は少ない。
「お前は誰だ、何の目的で戦力を集めている?」
 何故そこまでして、戦うのか。決して攻撃の手を休めることなく、垂は尋ねた。
「戦うためです」
「なら、なんで戦う?」
「むしろ尋ねましょうか、何故戦わないのですか?」
「質問を質問で返すのは反則だぜ!」
 時折、ちらほらと漆黒のパワードスーツは剣術の基礎を見せる。癖になっている部分があるのだろう。
「おっと、それは失礼しました。さて、何て返答すべきでしょうか。世界征服とでも口にすれば、納得していただけるでしょうか?」
「そういうのは、冗談ぽく言うと滑稽になるだけだぞ」
「手厳しい人ですね。あまり話してしまうと我々の今後の活動に支障が出てしまうのでかいつまんで―――証明するためです」
「証明?」
「ええ、それは正義かもしれませんし、あるいは信念かもしれません。もしくは、鏖殺寺院の無能なんてものかもしれませんね。いずれわかる事ですので、もうしばしお待ちください。できるだけ早くと望むのでしたら、道を譲っていただければ」
「誰が通すか!」
 エリアルレイブで連続攻撃を仕掛ける。急所を狙って繰り出した連撃は、二つがレーザーソードによって流され、一つは肩のパーツで受けられる。
「状況が変わりました、そちらに敵に簒奪されたプラヴァーが向かっています。注意してください」
 一度間合いを取り直したところに、夜霧 朔(よぎり・さく)からの通信が入る。
「なんだって? 対策は施したはずだろ?」
「脱出したパイロットの証言によれば、調査した様子はなく最初から仕掛けの位置を知っていた様子であったとのことです」
「おいおい、冗談だろ。あれを知ってるのは」
「恐らく、サイコメトリによるものかと。今回輸送されるイコンはロールアウトしたばかりの―――」
 そこで通信が途切れた。通信している場合ではなくなったからだ。
 コックピットのハッチが無くなり、パイロットの姿が見えるイコンがこちらに向かって銃剣付きビームアサルトライフルを発射した。
 コックピットハッチが無くなり、目視で撃ったからだろうが直撃にはならず、数メートル離れた場所に着弾する。轟音と爆風によって、通信の音が聞こえなくなり、砂煙が舞い上がり視界が一時的に塞がれる。
 その中、気配が垂を追い越していくのを感じた。
 すぐに反転、イコンに近づこうとするその漆黒のパワードスーツを追った。
「中々しつこいですね」
「こんな美人に追っかけられるんだ、悪い気分じゃないだろ? な〜んてな!」