リアクション
13,作戦終了、そして
シャンバラ教導団の無数にある会議室のうちの一つに、長曽禰 広明と裏椿 理王(うらつばき・りおう)と桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)とセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)の姿があった。
「彼をご存知なんですか」
「まぁ……な。けど、名指しで指名されるような間柄だったとは、俺も驚きだ」
演説をしている最中の映像を確認したのち、ため息交じりに長曽禰少佐はそう言った。
「でも、相手はそうは思ってないみたいだぜ?」
理王がノートパソコンの画面を長曽禰少佐に見せた。
表示されているのは、先日襲撃された兵器施設の管理コンピューターのアクセス履歴である。本作戦中、許可をもらって施設のアクセス履歴の調査及び、不審な人物が存在していなかったかなどの内偵を行っていたのである。
「うわぁ」
思わずセリオスは声を漏らした。
表示されているアクセス履歴は、防犯システムの解除時に必要とされるIDとIDに登録されている氏名なのだが、そのIDは全てばらばらなのに、氏名は全て長曽禰 広明となっている。
「……」
呆れたように屍鬼乃がため息をする。
これではいたずらだ。他人のコンピューターに侵入し情報を改ざんするような人間は、こういったジョークを好む傾向は確かにあるのだが、立場が危うくなるような任務を遂行している最中にこのようなものを見せられると、結構くるものがある。
ひとまず、施設を調査した結果怪しい人間の名前は浮かび上がってこなかった。今後の方針次第ではあるが、一旦は二人の任務は終了している。
「さすがに、こういうのは気分が悪くなるな……こんなもんがあるから、俺は別室に呼び出されているってわけか」
「誰も少佐を疑ってないと思いますけど。単に、この気持ち悪い履歴をあまり多くの人に見せないように、って配慮だろ」
「だといいんだがな。で、そっちは?」
クローラが頷いて、一歩前に出る。
「アルベリッヒ・サー・ヴァレンシュタイン。国籍はイギリス、若干22歳でサーの称号を授与される天才鍛冶師。少佐の知る人物と、相違はありませんか?」
「ああ、ここしばらくは全然連絡を取ってなかったが、あの赤い髪も目つきも昔のまんまだ。いい腕持ってると思ってたんだが、何やってんだかな」
「では、同一人物で間違いありませんね」
「たぶん、探せば昔の写真の一枚でも出てくるはずだが、探すとなるとちょっと時間がかかるな」
「いえ、今は結構です」
「で、俺とあいつの繋がりについて、これから根掘り葉掘り尋ねるってわけか。頭が痛くなるな」
「そのような命令は受けていません。今後、少佐に護衛をつける可能性があるとの通達をしに参りました」
「俺に、護衛?」
「ブラッディ・ディバインのリーダー、アルベリッヒは少佐に強い執着を持っていると考えられます。それは、先ほどの履歴と映像から容易に推測できます。人選などは今後の話になるため、まだ詳細についてはわかりませんが、それまでの間もなるべく身辺に気を使うように、とのことです」
何をするかわからない連中が、唯一見せたのが長曽禰少佐への対抗心である。留意するのは、むしろ当然の考えだ。
「結局頭が痛くなりそうな話しだな。とりあえず了承した」
「すみません。我々が任務を達成できていれば、このような不便をおかけすることもなかったのですが」
撤退を行うブラッディ・ディバインに対して行われた追撃は、途中で断念された。
追撃部隊の消耗も決して軽くなかったことと、殿にまわっていた二体のパワードスーツによるものである。その後、発信機を頼りに隠れ家と思わしきバラックを発見するも既にもぬけの殻となっていた。発信機による追跡調査はまだ続いてはいるものの、キマク中心に向かっていったところを見ると、発信機は発見されて囮が運んでいると見るのが妥当なところだ。
「仕方ねぇさ。終わっちまったことだ。むしろ、物の被害で済んだだけマシだ。戦闘中の映像はざっと目を通したが、殺そうと思えば殺すこともできていたはずだ」
「けが人を放置するわけにはいかないって理由で、追撃隊の人数を削ることになったからな。狙い通りってわけか」
「所在も掴めなまま―――結局、振り出しにもどっちゃたね」
「奴らはわざわざ自分達の素性を明かして、宣言布告してきたんだ。振り出しになんか戻ってない。奴らの目的が月なら、必ず俺たちの前に姿を現す」
「そん時に、今回のお礼をたっぷりしてやらないとな」
「そういう事だ」
「お墓ですか?」
ロサ・アエテルヌム(ろさ・あえてるぬむ)がアルベリッヒの背中に尋ねる。
傍らにはパートナーの山田太郎の姿もある。既に支払いを受け取ったので、別れの挨拶にとアルベリッヒの姿を探していたところだった。
彼の前には、抱きかかえるぐらいの大きさの石と、パワードスーツの腕部が置かれている。こういう時は、ヘルメット部分だと思うが、それはビームの直撃によって吹き飛ばされてしまっている。
「ええ、その通りです。本来なら土葬にて葬るべきなのですが、亡骸を掘り返してでも情報を得ようとする不届き者がいるかもしれませんので」
漆黒のパワードスーツの内の一人は、戦場で死んだ。遺体は放置せずに回収され、葬られた。太郎もロサも、葬式のような何かが行われていた記憶は無い。こっそりと火葬し、そのまま埋められたようだ。
「でしたら、そのパワードスーツの腕も回収した方がよいのではないですか?」
「ここには、さして面白い情報はありません。先ほどサイコメトリを試みてみましたが、爆発の瞬間以外は何も。それに、何か縁のものを置かないとさびしいではないですか」
「そうですね、出すぎた事を」
「構いませんよ。同じ戦場で戦った仲間じゃないですか、ふふ、こういう台詞ちょっとあこがれていたんですよ」
「仲間ねぇ、俺は金しか信じないが」
「それはそれは、ふふふ、しかしあなた方の手際のよさには随分と助けられました。あれだけ勇敢な人を集める手腕は、ご教授願いたいものです」
計算の上では、相手のイコンを奪う作戦は失敗しても当然だった。
それが成ったのは、捨て駒と想定していたここの蛮族の人間がかなり踏ん張ってくれ、多くの契約者が賛同し参加してくれたからだ。
「この土地には、まだ過去の遺恨が強く根付いている。燻っている火種があるのなら、それをちょっとした火にするぐらいなら造作もないことだ」
「様々な勢力が立ち、危ういバランスで成り立っている土地ですから。国軍に対する不信感がそうそう拭えません、過去に一度見捨てられたというのは小さくは無いんです」
「状況がよかった、と。謙遜なさらなくても」
「謙遜じゃないさ。少なくとも、俺達には轟かす異名なんてないからな。何も無いところから、軍団を作り出せるなんて夢のようなことはできやしない。最も、今後はここでもやり辛くはなるだろうけどな。ここの有力者の考えに、恐らくあんたらは好まれてはいないさ」
「ご忠告、受け取っておきましょう。どうです? 我々と共に来ませんか?」
「アルベリッヒ様、プラヴァーの整備から運用までご用命がありましたら、次回もお声掛け下さい」
「あくまで依頼としてなら、ですか。わかりました、ではまた何かありましたら、是非ともよろしくお願いします」
一礼をし、二人はその場から立ち去った。
「標準装備の銃剣付きビームアサルトライフル程度で大破する程度では、まだまだ傑作には程遠い……しかし、いいデータにはなってくれました。本当に、ふふふ、ありがとうございます。ふふふ、楽しみにしていてください。あなたの残したデータは、今後の開発に必ずや僕が役に立てましょう。ふふふ、ははは、あーっはっはっは―――」
本格的に寒さがやってまいりました。私の秋はどこにいったのでしょうか、野田内廻です。
はてさて、今回の結末はいかがだったでしょうか。ここは最後のページになるわけですのでネタバレにはなるのですが、大損害でしたね。
ただ当初の目的である敵の素性を明かすことには繋がっております。少々高い支払いになってはしまいましたが、失敗というわけではありません。
さて今回は、次に繋がるシナリオとなっておりますので以下事務通達になります。
ブラッディ・ディバイン側に付いて称号を得た方は、今週公開を予定している【ニルヴァーナへの道】のシナリオで、ブラッディ・ディバイン側として参加できます。誤解でブラッディ・ディバイン側に付いた場合は、同じく【ニルヴァーナへの道】のシナリオで誤解を解くことが出来れば放校は解除されます。
また、正体を明かしてブラッディ・ディバイン側に付き、交戦した方は放校とさせていただきます。
通達は以上となります。
また機会と縁がありましたらお会いしましょう。
ではでは