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リアクション
11,奪われた力
「ちっ、余裕かましてこれじゃあな!」
奪われたプラヴァーをちらりと見て、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は愚痴をこぼした。
蛮族の襲撃なんて怖くない。護衛に参加した多くはそう感じていたし、実際にラルクもそう考えていた。だから本命にだけは注意しなければならない。
果たして、そうそううまく切り替えて行動できるだろうか。個人の話であれば、それは個人の力量に寄ってくるだろう。だが、全体の空気としてそうなっているのなら、そう易々とは切り替えなどできはしない。
この作戦は始終、弛緩した空気に包まれていた。ほとんどの人間はそれに対して、苦言を呈することはしなかった。ごくごく少数が気に留めていただけだ。
その結果が、これだ。
「まさかコックピットに直接乗り込んでいくとはな」
緋桜 ケイ(ひおう・けい)は驚嘆したように言う。もっと上品な、転送装置のような手段を警戒していた身としては、あまりにも原始的な手法はむしろ斬新だ。
「それででどうする、あれ相手に戦うか? 弱点は見えているぞ」
悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が言うように、コックピットのハッチをこじ開けられたプラヴァーは、運転する漆黒のパワードスーツの姿がはっきりと見える。
「一人で扱ってるってことは、性能は半減してる。やってやれないことは無いと思うが……」
プラヴァーに限らず、イコンは二人乗って初めてその性能を引き出すことができる。一人しか搭乗していないプラヴァーは、コックピットハッチを損失している事も含めてかなり性能がダウンしているだろう。
「どうやら、考えてる時間は与えてくれないようであるな」
プラヴァーを奪い取ったら即座に撤退するような事はなく、むしろそれを利用して戦場を荒らしてきている。
「来るぞ」
カナタとケイの二人は空に避け、ラルクは射線から横に飛んだ。三人の居た場所を銃剣付きビームアサルトライフルのビームが通り過ぎ、その後ろにあったトレーラーを一台吹き飛ばした。
「このまま放っておくわけにはいかねぇな」
ラルクは奪われたプラヴァーへと向かう、ケイとカナタも空から接近を試みた。
「コックピットが丸見えならあるいは」
まず仕掛けたのはカナタだ。光術をコックピットに向けて放った。強烈な閃光は人の視界を奪う。
「プラヴァーを返してもらうぞ!」
そこにケイが飛び込み、アルティマ・トゥーレを付与した龍骨の剣でコックピットの中に突き立てた。だが、その手に手ごたえはなく、返って来たのはレーザーバルカンの弾幕だった。
歴戦の立ち回りをもって、なんとか被弾を抑えて退避する。
「大事ないか」
「かすり傷だ。目くらましは通じてないな」
「おい、避けろ!」
ラルクの声が、プラヴァーの裏拳よりも早く届く。強烈な風圧は、回避した二人を吹き飛ばすには十分だった。
「なんとか避けたみたいだな」
少し飛ばされたが、二人はそこで体勢を立て直していた。声をかけたかいというものがあったということだ。
「さて、こっちはどうするかだな」
声を出したおかげで二人は助かったが、ラルクの居場所はそれによって丸分かりとなった。近くに援護してくれるような誰かは無い。
銃剣付きビームアサルトライフルの大きな銃口が、ラルクを捉えている。
「させないっ!」
そこに飛び込んできたのは、もう一機のプラヴァーだった。
「プラヴァーの相手は、こっちでやるわ。これなら五分と五分よ」
瀬名 千鶴(せな・ちづる)は通信ではなく、外部スピーカーでそう伝えると、眼前のプラヴァーにすぐに意識を切り替えた。
「やれますか?」
テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)の声は落ち着いている。
「あの状態じゃ、プラヴァーのパイロットサポートシステムは死んでるようなものよ。圧勝よ」
自信を持って、千鶴は答えた。
「……それは、敵もわかってるはでございます」
デウス・エクス・マーキナー(でうすえくす・まーきなー)は注意を促すように、落ち着いた声で言う。
「そうかしら? どうせ一機手に入れたから欲が出ただけよ」
サブパイロットも登場し、万全の状態のプラヴァーに対し、コックピットハッチを損傷しているプラヴァーでは雲泥の差がある。
「動いた」
先に動いたのは、敵の機体だ。だが、敵の狙いは正面に立つイコンではなく、別の方向に銃口を向けた。その先にあったのは、トレーラーだ。対処する間も無く引き金が引かれ、トレーラーを破壊される。
「こっちは眼中に無いってわけね」
「足を潰して、逃走の下準備をしたいようですね。これ以上好きにさせるわけにはいきません」
「当然よ。最悪破壊してでも、止めるわ」
「詩穂様!」
セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が悲鳴にも似た声をあげる。
プラヴァーの攻撃を受けたトレーラーは爆発炎上し、パートナーの姿もその中に巻き込まれてしまった。
「そんな声出さなくても大丈夫だよ」
「一瞬、終わったかと思ったけんのう」
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)と清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)はほぼ無傷で、セルフィーナのもとに姿を現す。
ほっとするセルフィーナの横で、銃型HC弐式で周囲の生体反応を確かめようとしてみるが、体温感知式は先ほど爆発の影響で使い物にならなくなっているようだ。近くで戦っていた仲間の安否が心配だ。
「おい、黒い奴はどうした。姿が見えんぞ」
爆発に巻き込まれて、というのは無いだろう。トレーラーへの距離で言えば、詩穂達の方がずっと近かった。その程度でなんとかなるなら、もっと手早く話は終わっている。
「すみません、詩穂様の安否が心配で」
「目を離しちゃったってわけね。いいわ、仕方ないもんね」
逆の立場だったら、やはりパートナーの安否に気がいってしまうだろう。
「やっぱり、イコンは先に壊しておいた方がよかったかもね」
イコンを前もって稼動しないようにする。奪われない為に教導団に提案してみたものの、それは却下された。こうしていいように使われている状況から考えれば、その判断は誤りだと思う。だが、そもそもこんな事態は誰も想定しなかったのだろう。
「悔やむのは今じゃのうて、それより、今はけが人を回収するべきじゃのう」
銃型HC弐式が使えない以上、人の目をもって周囲を探索するしかない。幸か不幸か、この場から漆黒のパワードスーツは居なくなり、他の敵も半ば撤退しはじめている。後ろから襲われる危険は無いだろう。
「そだ、あいつに触れることはできたの?」
「はい、それはできたのですが……」
「なんじゃ?」
「……人の名前が、読み取れましたわ」
「パワードスーツの中身の名前?」
「恐らく、違いますわ。長曽禰広明と」
「それって、教導団の人よね」
「考えるのはあとじゃけん、この場を立て直せんともしも次の突撃があれば総崩れじゃ」
さすがに、一人でしかも破損したイコンでは勝負の行方など見えていた。
思った以上に時間はかかったが、漆黒のパワードスーツの乗るプラヴァーを転倒させることができた。倒したあと、銃剣付きビームアサルトライフルを持つ腕を足で抑え、コックピットにこちらの銃剣付きビームアサルトライフルを向ける。
「投降しなさい」
マイクで呼びかける。
だが、漆黒のパワードスーツは一向にコックピットから出ようとはしない。
「これは脅しではありません。もしも従わないのでしたら、コックピットをこのまま破壊します」
テレジアの言葉にも、まるで聞こえていないかのように反応が無い。
「……もしかして、死ぬ気?」
返答を期待した呟きではなかったが、それに律儀に返事が返って来た。
ぎちぎちと悲鳴をあげて、コックピットハッチが無理やり開かれたのだ。そこに、もう一機の漆黒のパワードスーツの姿がある。
「仲間が既に取り付いていたのなら、投降しないのは当然なのですよー」
「そういうわけです。そちらこそ、素直に明け渡していただければ、こちらとしても助かるのですが?」
パワードスーツから発せられる声は、余裕を感じさせるものだった。
「……いいでしょう」
テレジアが毅然と立ち上がると、パワードスーツは一礼をして道を明けた。千鶴とデウスもそれに伴って外に出る。
「ただし、プラヴァーは渡しません!」
三人が外に出たところで、千鶴は前もって仕掛けてあった機晶爆弾を起爆させた。イコンの各関節に仕掛けられたそれは、イコンを吹き飛ばすような威力はないものの、脆弱な間接部分を稼動不可能にする程度の力はある。
「……勿体無いことをする人達ですね」
間接部分を破壊され、文字通り自身の体を支える糸を失ったプラヴァーはその場に崩れ落ちた。
「最低でも二機は持って帰りたかったのですが、残念です」
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