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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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 18 切り離された魂の行方〜土偶再び〜

「ここですね……。懐かしいというか何というか」
 ザカコはかつての中枢部に着くと、光る箒を通路に置いてノクトビジョンを装備した。コードだらけの室内を、一通り見回す。続いて入ってきたヘルは、頭についた土の欠片を首を振って落とした。
「思ったより手間取っちまったな。ああも道が塞がれてるとは思わなかったぜ」
「夕方になってしまいましたね。コードが多いですから採光も良くありませんし……。とにかく、機晶石を探してみましょう。ヘルもゴーグルを着けてください」
「ああ……」
 そうして、ヘルもノクトビジョンを着けた。機晶石に何かが残っていれば光を放っているかもしれない。その場合、光術で照らしながら探すよりも暗視ゴーグルの方が探しやすいだろう。
「さて、ここからはネタは封印です。真面目に探しますよ」
 そう言って、ザカコは室内に声を響かせながら機晶石を探し始めた。
「……ファーシーさん、もし聞こえていたら反応をお願いします。自分達は貴方を助けにきました」
 一度言葉を切り耳を澄ませ――
「あれ? 声が聴こえませんね……。怪しいものではありません。是非、居たら返事を……居なくても返事をお願いします」
「ネタは封印って、今言ったばかりだよな……?」
 とりあえずツッコミを入れて、ヘルは足元に目を凝らす。
「ものの見事に砕けたように見えたけどな……。崩壊の衝撃や空気の流れとか、誰かの服についていったとかもあるだろうけど……まあ、ザカコもああ見えて自分に出来る事で力になりたいみたいだしな。何とか石を見つけ出したいぜ」

                           ◇◇

「結構時間使ったよな……今、何時だ?」
 製造所内は、徐々に暗くなってきていた。そろそろ引き上げ時か……と、現在時刻を確認する為に携帯を出す。17時前。そこに、タイミング良く着信があった。リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)からだ。何だ? とは思ったが、コール1回に満たないうちに反射的に指が通話ボタンを押していた。
『あ、早っ!』
「大荒野って携帯繋がらないんじゃなかったのか? ……いや、一箇所あるのか」
『そう、廃研究所からライナスさんの所に戻ってきたの。で、一応報告しておこうと思って』
「……別にいいのに」
『やる気無いわねーーー。でも、そうもいかないのよ、追加で探して欲しい物があるの』
「……は?」
 自分の耳を疑った。……これから? また、何か別の物を探せと? しかし、そう抗議する前にリーンは喋り出す。機晶石の相性について書かれていた研究者の手記について。
『……だから、最初にその巨大な石を元に造られたのかどうか確認したいの。拾ってきた石と比較すれば判るでしょ? ファーシーが来る前に、出来るだけのことはしておきたいし』
「……………………」
『って、聞いてる? あれ? 電波……繋がってるわよね。あれ?』
「……聞いてる。……分かったよ、探せばいいんだろ探せば。すっっっっげえ面倒くせえ……」
『まあそう言わないの! あとね、アクアについても色々判ったのよ。実験データとかも回収出来たわ。日記とかも……』
「……それはいい」
『え?』
 答えを待つ前に、ラスは一方的に通話をぶち切った。ついでに電源もぶち切った。
 皆が車座になっている所に混じると、ケイラが持っていたお弁当を中央に広げていた。ちょっと小さめな、お正月用の3段お重だ。
「非常食にと思って作ってきたんだ。3人前くらいだから、おなかいっぱいにはならないかもだけど」
 そして真菜華は、立ったままひとさしゆびをびしっ! と出してこんな宣言を始める。
「あまいのほしい人ー! このゆびとーまれ!」
 目を丸くするそこそこ大人なみなさんと、はいはーいっと元気に駆け寄っていく平均年齢10歳くらいのこども達。
「また、何やってんだあいつ……まあ、バテた時に糖分ってのは常套か」
「ノルンちゃんは行かないんですか〜?」
 座ったままのノルニルに明日香がたずねる。素朴……ではなく、ちょっとわざとだ。
「私はそんな子供じみたことしませんよ! そんな………………」
 ノルニルは黙って、それから黙ったままとてとてと真菜華へ歩いていった。真菜華のバッグには、キャンディや金平糖、チョコレートなどがたくさん入っている。彼女はそれを、楽しそうに配っていた。
「おやつならまかせろっ! はい! みなさんにもくばりますよーっ!」
 子供達の両手いっぱいにお菓子を乗せると、真菜華は他の大人なみなさんにも配り始める。しかし半分ほど周って、ラスの所まで来るとぴたっと止まった。彼は何か携帯をいじっていた。ぶち切っていた電源を再び入れたらしい。携帯を仕舞うと、座ったまま真菜華を胡乱に見上げる。
「……何だよ」
「えいっ、とってこーい!」
 飴をぽーんっと遠くへ投げる。悪戯を仕掛けた猫のような表情をしていたが――
「……………………誰が行くか、面倒臭い」
「……行かないにゃー?」
「別に、要らねーし……って、あ」
 肩に乗っていた毒蛇がするすると降りて飴を追いかけていく。ラスは仕方なく、立ち上がった。
「……しょうがねーなー……おい、んなもの飲み込むと体にわりーぞ!」
「おにいちゃん、蛇に慣れたみたいだね……」
「あの子だけでしょうけど〜、あ、そうだピノちゃん、ラスさんがピノちゃんを遠ざけようとする時って、危なくないようにと心配してる事は分かってますよね? かなり過保護ですけど〜」
 やましい事云々と言っていた話の続きだ。今度は本当に本人に聞こえないよう、小声で確認する。真面目さが伝わったのか、ピノは、棒つきキャンディーをなめながら素直に頷く。
「うん……。でもね、明日香ちゃん」
「?」
「あたしの方が、魔法使えるし強いと思うんだ」
「…………」
 それには、明日香も目を点にするしかなかった。

                           ◇◇

「何か、うまそうな匂いがすんな……」
 どこからか漂ってくる匂いに、ヘルは鼻をひくつかせる。
「あいつら、何やってんだ?」
 流石に中枢部。極微細なものから手で摘めるサイズまで、機晶石の欠片は相応に見つかった。だが、ザカコの声に反応する石は無い。ただ、この石達から不穏なものを感じないか、と言えば、微妙に感じるようなそうでもないような。
「おや? これは……」
「変なもんでもあったのか?」
 ザカコが久しぶりに呼びかけ以外の声を出し、興味を持ったヘルは近付いていく。そして、モノを見た彼は思わず黙り込んだ。これまた……
「なつかしいものが出てきましたね」
 それは、元巨大ゴーレムを操っていたファーシーと会った時にザカコが持ち込んだ土偶だった。この土偶に入って一緒に外に出ようと誘って攻撃されたのも良き思い出である。
 ……本当か?
 ザカコは土偶の中を覗き込む。
「機晶石が入ってますね……。なんだかんだ言って、入りたかったんでしょうか」
「それは絶対に違うと思うぞ」
「結構大きめですよ……10センチくらいはあるでしょうか」
 具体的に言えば、エナジードリンク小(200円)くらいの大きさだろうか。
「早速話しかけてみましょう。ファーシーさん、ファーシーさん、聞こえますか?」
『…………』
 やはり、中からの反応は無い。
「眠っているんでしょうか……。ちょっと叩いてみましょう」
「おいおい……」
 ごんごんごん。
『………………』
 ごんごんごんごん。
『……………………』
 ごんご……
『もう! 煩いわね誰よ寝てたのに!!!』
「うおっ!」
 突然の怒鳴り声に、ヘルが飛びのく。
「ファーシーさん……。生き残ってたようですね……」
「ここまで来ると、機晶姫って呼んでいいのか?」
 魔物化しかけてたわけだし、ぶっちゃけ、魔物でもいいと思う。(中の人)
『何よ? 誰よあんた』
「微妙に言葉遣いが悪いですね……。覚えていませんか? 以前、あなたを迎えに来た者です」
『……………………ああ、土偶の人』
「…………」
 ザカコは、洞窟の奥に行く銅板ファーシーとヒラニプラで会った時の事を思い出した。どうやらあの当時は、本当に名前を認識されていなかったらしい。
「……ザカコ・グーメルです」
『ふぅん……』
 だから? というニュアンスが伝わってくる。やはり、微妙に、いや、明らかに性格が悪い。
「ファーシーさん、訊きたいことがあるのですが……。あなたがここに居るという事は、他の欠片には……」
『欠片?』
 2人は、これまでに集めた小片を機晶石ファーシーに近付ける。
『何だかざわざわするわ。落ち着かないけど、落ち着く……。それより、いきなり人が少なくなったわね。何? 助けに来たとか言っといて、わたしを壊して逃げたって事? 適当な連中……って、何でわたし、しゃべれてるんだろ。あれ? 壊れた……あれ? ていうかここから出しなさいよ!』
「……何か癪に触るから、暫く入れとこうぜ」
「……そうですね。ちなみにファーシーさん、そこ、土偶の中です」
『えっ!?』
 そして、土偶に自分達が訪れた理由を簡単に説明する。魔物化せず、銅板に移ったファーシーはあの身体を修理したが、魂が分離した為にエネルギー不足で歩けない事。再びファーシー同士を一つにするために、探しに来た事。
『わたしとわたしを一つに……? それって、断ってもいいの?』
 しかし、土偶は拒否の言葉を口にした。超大声で。
『そんな事するならわたしに新しい体をちょうだい! 一緒になるなんて、まっぴらごめんだわ!』
「……何気に正論な気がするぞ」
「困りましたね……」

                           ◇◇

「まったく……」
 戻ってきて、ついでだからと飴を口に放り込んで座り直し、ラスはケイラに話し掛ける。
「さっきの話だけどな、俺も、分かれた魂? が仮に残ってたとして……一つになるのは難しいと思う」
「……あれ、聞いてたんだ」
「あれから随分経つし、もし自我があるなら長い間放置してた奴の中に戻りたいと思うか? 俺なら、断る。……まあ、魔物化してた奴だってんなら質だって良くないだろうし、それ以前に反対なんだけどな」
「……だから、さぼってたんだ」
「それとこれとは別だ。ただ、早目に金が欲しいだけで……」
 その時、どこからか聞き覚えのある声がした。この場で聞こえる筈の無い声。
『そんな事するならわたしに新しい体をちょうだい! 一緒になるなんて、まっぴらごめんだわ!』
「何だ今の……、上か?」
 皆で、ほぼ吹き抜けになっている上の部屋を仰ぐ。そこで、電話の着信音が鳴り響いた。

「おや? 今、直接着信音が聞こえましたね……」
 耳に当てていた電話を切り、ザカコは改めて室内を見回した。音のした方に歩み寄って幾重にも重なるコードをかきわけてみる。その先には、床の殆どが落下した空洞のような部屋があった。ヘルも近付いて、隙間に鼻を近付ける。
「話し声が聞こえるな。あのうまそうな匂いはここから来てたのか」
「降りてみましょう」
 光る箒を一度取りに戻り、土偶を持ってコードの中を無理矢理乗り越える。部屋の隅で箒に2人乗りして下に降りた。少し重量オーバーだが問題は無い。
「……何を美味しそうに食べてるんですか。分けてください」
 ということで、おけつ組とその他の組は合流した。