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リアクション
「ふっふっふ〜ん。チャンスチャンス! チャンスだよ〜」
鼻歌交じりに羊探しに出発した師王 アスカ(しおう・あすか)。
「アスカ、本気なのか? 本当にいいのか?」
後ろからルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が、アスカを思いとどまらせようと声をかける。
アスカはくるりと振りかえり、
「当り前だよ〜。だってラピュマルだよぉ? 空飛ぶお城を持つんなら、敵とかどうとか言ってる場合じゃないし〜。ルーツだってノリノリだったでしょぉ?」
「確かに興味は持ったが、それはあくまで浮遊要塞に対してだ」
「何の話?」
羊探しで同じグループになっていたクマチャンと超人ハッチャンが、ルーツに聞く。
「いや、それがだな……アスカがガーディアンになりたいと言うのだ。超人ハッチャン、君の3階のな」
「え? でもオーディションの時、敵だったじゃん」
「そうなのだ。さすがに我もそれは止めたのだが……」
「ふっふっふ〜。ここで羊を見つけてジンギスカンに活躍すれば、ダイソウちゃんも一目置いてくれるはず! 3階ガーディアンの席は私のものなのだ〜」
「もしかして、俺らと一緒に羊探してんのも、ハッチャンへのポイント稼ぎ?」
と、クマチャンが勘ぐる。
アスカは思わせぶりな笑顔を見せつつ、
「そうかもね。それに私がガーディアンになれば、地球にいたころ稼いだお金で、ダークサイズに資金提供してあげてもいいよぉ?」
と、アスカは懐から預金通帳を取り出し、パッとクマチャンに開いてみせる。
クマチャンはそれを見て目を見開き、
「うお! すげえ! 閣下―! この子すげえよー!!」
クマチャンが遠目に見えるダイソウに向かって叫ぼうとする。
それを、蒼灯 鴉(そうひ・からす)が慌てて押さえる。
「おいやめろ! アスカ、不用意に中身を見せんでいい! おいいいかクマ野郎。今のは忘れろ。絶対忘れろよ」
鴉が思い切りクマチャンを睨んで言い聞かせる。
クマチャンは鴉の顔を見てふと思い出す。
「あ、そういえば、君達上手くいってんの?」
「な、なっ、なぁにを言ってんだ、おまえはっ!!」
鴉は慌ててクマチャンを掴んでアスカ達から離れ、クマチャンの言葉が聞こえていなかったか様子を探る。
彼はさらに威圧を込めてクマチャンの目を見据え、
「いいかクマ野郎。おまえを蹴っ飛ばしてやりたいところを、アスカに免じて我慢してやってんだぞ。あいつのガーディアンになりたいって気持ちのためにな」
「君も大変なんだねえ」
「他人事みたいに……あのなぁ、あの後大変だったんだぞ。それはもう、大変だったんだ。誤解を解くのに、どれだけ時間と手間がかかったか」
オーディションでの出来事が、鴉にはひどいトラウマになっているらしい。そのやり場のない恨みの矛先は、クマチャンにあるようだ。
クマチャンは鴉の肩をぽんと叩く。
「なるほど、君の気持ちは分かった。3階ガーディアンになれば、それこそ密室。二人きりになるチャンスは格段に増えるってわけだ!」
「なっ、え、そういえば……いやしかし」
「一つの部屋で共通の任務についていれば、その分心の距離は狭まるってもんだ。ふとした瞬間に肩がぶつかったり手が触れたり」
「な、何を言ってんだ。俺はそんな」
「着替え中の彼女に鉢合わせ。そんなお約束のアクシデントも楽しみだな!」
「や、やめ、俺はそんな男じゃ……」
「君の願望を叶えるためにも、がんばってあの子をガーディアンにしてあげないとね!」
「うおおおおっ、ち、違うー!」
と、今回も心の隙を突かれて遊ばれてしまった鴉。
そういう意味で、ダークサイズで最も悪どいのはクマチャンなのかもしれない。
(なにバカなことやってんのかしら……)
オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は、横目で鴉を見ながら、退屈そうに小さくあくびを一つした。
「アスカ、羊は見つかりそう?」
「うーん、いるかどうか分かんないしぃ、暗いし〜」
「無理しないでキャンプに戻ったらどう? 誰かが見つけてくれるわよ。夜更かしはお肌に毒よ?」
「まだ暗くなったばっかりだし、活躍したいもん〜」
「先は長いんだし、チャンスはあるわよ」
オルベールは羊探しに飽きてきたのと、アスカの体の心配をしている。
「話は変わるが超人ハッチャン」
一方でルーツは、超人ハッチャンに同情の目を向ける。
「アスカがガーディアンになりたいから言うわけではないんだが、正直我は君の状況には同情している。我の薬学で元に戻る薬を研究してみようと思うのだが、研究材料で皮膚を少し分けてもらえないか?」
「え、ええっ! 本当? もちろんだよ!」
超人ハッチャンへの同情票は集まっていたものの、元に戻してあげようと言ってきたのはルーツが初めて。
ルーツは超人ハッチャンの腕の薄皮と血液を手に入れた。
そんな話をしているうちに、アスカが遠目に何かを発見する。
「ねえ! あれ何かなぁ〜?」
「暗くてよく見えないが、白い塊が……」
「もしかして羊か?」
「やった〜! これで3階ガーディアンは確実!」
確かにアスカたちに向かって走ってくる白い塊は、羊のようだ。
しかし……
どどどどっ、どどどどっ……
「なんかやたら地面が揺れない?」
「群れなのかな?」
「しかし一頭しか見えないぞ……?」
その羊が近づいてくる頃、皆が自分の目を疑う。
「で、でけえー!!」
彼らに迫っていたのは5メートルを越えるパラミタオオヒツジ。
皆、慌てて反対に全力疾走を始めた。
☆★☆★☆
そのオオヒツジのすぐ前を走っているのは緋雨と麻羅。
もちろん逃げているのだが。
彼女らも羊探しに動いていたのだが、緋雨の謎の方向感覚で、パラミタオオヒツジの巣を発見した。
羊の捕まえ方など当然知らない彼女らは、何とかして捕縛しようとしたのだが、まんまとオオヒツジを怒らせて今に至る、といった具合。
「まったく緋雨! 欲をかいて一人で手柄を得ようとするからじゃ! 何故応援を呼ばぬ!」
走りながら麻羅は緋雨を説教する。
「だって、活躍したら立地のいい場所に工房作らせて貰えると思ったんだもんー!」
「しかしこのままでは、ダークサイズの野営に直撃じゃぞ!」
「どぉーしよぉーー!」
パラミタオオヒツジの地響きは、ダークサイズの野営にも聞こえていて、狩りには出ずに外敵の警戒に当たっていた洋が、いち早く反応する。
「な、なんだあれは……みと!」
「はいっ、戦闘配置ですわね!」
続いてラルクや長門の親衛隊も揃い、総司が双眼鏡を覗いて驚く。
「何だありゃあ! シャンバラ大荒野ってあんなのもいるのか?」
「あの巨体で突っ込まれたらひとたまりもないけん!」
「つーか、あれ倒せたとして、食えんのか?」
ダイソウもオオヒツジの暴走を聞きつけて、野営での待機組には避難の指示を出す。
「スピードが思いのほか早いな……避難が間に合うだろうか」
ダイソウが直撃を恐れているところに、
「やれやれ、仕方ねえ。羊ごときに動きたくはねえんだが……」
と、ダイソウの隣にやってきたジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)。
3メートルを越える巨体の彼は、おそらくこの役ができるのは自分しかいまいと前に出る。
「おいダイソウトウ。あの羊を止めてやるから、この先途中で寄り道してもらうぜ」
「寄り道だと?」
「ラピュマル獲得のための大事なツールにのためさ」
と言い残して、ジャジラッドはワイバーン『バルバロイ』を駆って飛び出す。
「おらああっ!!」
ワイバーンはパラミタオオヒツジに直撃し、見事その足を止めて見せる。
それを機に、ダークサイズが総攻撃を仕掛ける。
「やっぱ切り込みは俺らでやらねえとな!」
と、ラルクの鳳凰の拳、長門の等活地獄。
すぐに続いて美羽の則天去私。永谷は氷術を放ち、グランとオウガは武器で足を狙う。アーガスは光術で目をくらませ、体力の回復した大山も攻撃に参加。
「お困りのようだな!」
エヴァルトもここぞとばかりに羊に突っ込み、責任を感じている正悟も羊に立ち向かう。
「もう、のんびりできないじゃない」
文句を言いながらもメニエスもファイアストームを放ち、樹を纏って強化したつばめも未だダークサイズをよく理解しないまま攻撃に協力している。
「闇の魔法メイド・マジカル★ナハト! ただいま参……って早速トラブルか!」
綾香は合流したそばから火術を練る。
円のペンギン部隊が『オディン』を抜き放ち、かいがいしく攻撃を仕掛ける。
おでんの具の地味な熱さにオオヒツジは前足を振り上げ、ジャジラッドを振りほどく。
「うおっ、畜生」
土壇場のオオヒツジのバカ力に突き飛ばされ、ジャジラッドは後ずさる。
拘束を脱したオオヒツジは、また突撃を開始しようとする。
「まだ体力が残ってるぞ!」
踏みつぶされてはたまらないと、一同はオオヒツジから離れる。
「みなさん、もっと下がってください!」
と、衿栖が叫んだ直後、彼女が両腕を振ると、後ろからダイソウが飛び出してオオヒツジに突撃する。
「な、ダイソウトウ!」
「何やってんだ! 一人じゃ……」
無茶な行動に出るダイソウに全員が大声で止めようとしたその刹那、
どっごおおおおん!!
ダイソウがオオヒツジに張り付いた直後、すさまじい轟音が響いた。
「……な、え?」
「そんな、ダ……」
「ダイソウ爆発したーー!!」
ダイソウの大爆発がとどめになったのか、パラミタオオヒツジはついに倒れる。
どうにかオオヒツジを仕留められたものの、ダークサイズたちはそれどころではない。
「閣下! 閣下―!」
「ダイソウトウが……死んだ……」
まだ引かない爆発の煙の中でも、ダイソウが欠片も残っていないことは分かる。
中止……中止……
全員呆然として倒れたオオヒツジの周りに立ちつくし、思い思いにつぶやく。
「まさかダイソウトウが、死ぬなんてこと……」
「こんなところで羊ごときの犠牲に……」
「なんてことだ……どうする……」
「困ったぞ。私の一張羅が……」
「えっ?」
みんなが聞きなれた声に振りかえると、ももひきと肌シャツ姿に軍帽のダイソウが立っている。
「おばけー!」
「失敬だな、お前たち……」
爆発したのは、鼎がダイソウの影武者でも作ってみようと、髪と角質で作ったクローンらしい。
鼎がしゃべりだすのを見て、カレンがマイクを向ける。
「今回ばかりは自分の天才ぶりに驚愕しました。あれは思考も運動もできない人形にすぎませんがね」
「でも動いてたじゃん」
それは衿栖が胸を張る。
「見ましたか!? あの本物と見まごうばかりの滑らかな動き! ダイソウマリオネットを操った私は、茅野瀬衿栖と申します!」
「影武者チームか……」
と、ダークサイズ新部門の可能性がまた生まれる。
「でもあの爆発は何で……?」
「私のマリオネットはリア充だったのか」
「違います。中が空洞だったので、火薬を詰めておいたのです」
「あぶねえ!」
「それはさておき、私をぶん殴って服を奪ったのはお前か?」
ダイソウはこぶをさすりながら、朱里の大剣を見る。
「すごいでしょ? 朱里の技術をもってすれば、ダメージ最小限で気絶させることができるんだよっ!」
「いや、なぜ服を奪う必要があったのだ……」
「せっかく作ったんだから、それっぽくしたいって」
「爆発するなら見た目は関係ないではないか……」
彼女らが結構すごいことだけは理解したが、服を失ったダイソウ。
彼は綾香に至れり尽くせりで服を出してくれと頼むが、
「置いてきぼりにしておいて、贅沢を言うでない」
と、軍人用のカーキのポンチョしか出してもらえなかった。
その間にも、正悟はオオヒツジの切り分けに取り掛かることができ、最終的にみんなでジンギスカンを楽しむことができた。
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