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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

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5 カリペロニア

 ダークサイズはいくらか疲れをいやし、ついにイルミンスールを出発する。そして、彼らがジャタの森を抜けている最中の頃。

「お嬢、立場上一応言わせてください。本当に、いいんですね?」

 カリペロニア島に上陸してすぐにある、明日香の受付。
 当然そこは無人である。
 予想通り、ダークサイズは留守であることが分かり、手を腰に当てて立つリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)に、ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)が後ろに控えて尋ねる。
 リカインはヴィンセントを振り返って言う。

「これはチャンスなのよ、ヴィー。私たちが空京放送局で味わった、あの辛酸を忘れたわけではないでしょう? あの時ダイソウに一億G渡るきっかけを作ったのは、結果的に私たちだったってこと。私は悔しいわ。そうこうしてる間に、彼らはこんな立派な拠点まで作ってしまって。おまけに浮遊要塞ですって? 冗談じゃないわ。ダークサイズがエリュシオンにかまけているうちに、カリペロニアは私たちでいただくのよ!」

 リカインの覚悟を改めて聞いて、ヴィンセントはサングラスをクイと挙げ、頭を下げる。

「失礼しましたお嬢。自分が無粋でした。分かっています。やつらのいぬ間に忍び込むなんざ、本来お止めしなきゃならねえこと。こんな卑怯とも言えるマネに出るのは、お嬢にも自分にも、それ相応の理由があること! 畜生、ダイソウトウめあの野郎! 牛呼ばわりしやがって! 今日はお嬢の暴走は止めやしねえ。テメェの恥ずかしい写真をネットにアップしてやるぜえええっ!」
「ヴィー……あんた意外に根に持つタイプなのね……」

 というわけで、ダークサイズの留守を狙って、ダイソウ達の弱みを握り、あわよくばカリペロニアを乗っ取ってしまおうか……とやってきた二人。
 受付を通過し、大総統の館へと向かう。

「あの野郎……こんな立派な屋敷に住んでやがるのか」

 と、ヴィンセントがついつぶやくのも無理はない。
 空京放送局の獲得戦をやっていたころは、ダイソウはほったて小屋に住み、週6でバイトをしていたほどだ。今はバイトもだいぶ減らせているようだが。
 無人とは分かっていても、悪の館の扉を開くのはちょっとドキドキする。
 リカインは扉に手をかけて、少し間を置いている。
 ヴィンセントがリラックスさせようと、冗談で、

「開けた途端に留守番がいて、『いらっしゃいませ』なんて言われたら、びっくりしちまいますね」
「ふっ、変な冗談言わないで。行くわよ」

 ヴィンセントの冗談に勇気をもらったリカインは、扉を開く。

ぎぎぎぎぎ……

「あ、いらっしゃいませ」
(びっくりしたあーー!!)

 心臓が飛び出そうな二人に、今時お客さんなんて珍しいなと迎える朝野 未沙(あさの・みさ)
 彼女はオーソドックスなメイド服を纏って、本来の仕事「メイド」として、カリペロニアの留守を担っていた。

「えーっと、何かご用? 今ダークサイズは出払ってるけど」
「ああ、ええ、はい……」

 ダークサイズがエリュシオンへと向かう一大冒険である。
 そんな企画に、まさか本当に留守番をしている者がいるとは思わなかった、リカインとヴィンセント。

「あー、ええと、ちょっと見学に……」

 と、困って変なことを言ってしまう。
 未沙も未沙で、

「見学? お好きにどうぞ。全然人いないけどね」
「あ、いいの? じゃあお邪魔します」

 二人をあっさり中へ通す。
未沙はあくまでダークサイズ協力者の立場だから仕方ないのだが。

「お嬢、やりましたね。ダークサイズなど意外とちょろいもんですぜ」
「ふふ、そうね」
「あっ!! ちょっと待って!」
「は、はい!」
「汚しちゃダメだよ? これ絶対ね」

 驚く二人に、未沙は可愛くはたきを振って注意する。
 とりあえず二階に上がってみたリカインとヴィンセント。

「お嬢、どうしましょうか」
「汚すなって言ってたけど、ラスボスの館の破壊工作は基本中の基本よ。最上階までにトラップが沢山あるに決まってる。それを全部叩いて、館が機能しないようにするのよ」
「なるほど、分かりやした。一気にやっちまいましょう」

 と、二人は階段をかけあがる。

……

「なんにもないー!」
「どうして? なんで何も罠がないの?」
「ダークサイズめ、余裕ぶっこいてやがるな」
「ヴィー、トレジャーセンスで何か見つけられない?」
「最上階のくせに、それらしきものは……いや待ってくださいお嬢。なるほどやりやがる。ダークサイズは地下にいろいろ隠し持っているようですぜ」
「じゃあ階段を降りて……」
「いや、このダイソウトウの椅子が、エレベーターになってるようですぜ」

 ヴィンセントの上にリカインが座り、

「お嬢、なんかすいやせん」
「いいのよ。行きましょう」

 と、地下へ下りる。

「お? 誰だー?」
「びっくりした!!」

 地下に降りたとたんにその場にいたのは、朝霧 垂(あさぎり・しづり)。頭の上にはペットのパンダウサギが乗っている。
 彼女は、遅ればせながらガーディアン募集のチラシを見て、

「お、働く人募集かー。まだ募集やってんのかな?」

 と、オーディションが終わった上に、バイト募集と勘違いして館にやってきた。
 幸い未沙がいたので、ここで働きたいと言ったところ、

「いーんじゃない?」

 と、主不在のまま、勝手にメイドとして住み着いた。

「当然じゃん。俺メイドだし」

 垂は未沙と共に、毎日かいがいしく屋敷の掃除、整備をしながらダークサイズの帰りを待っている。

「で? おまえらなに?」
「いやあ、見学を」
「ふーん……」

 女の子らしくも、メイドらしくもない言葉遣いで、リカイン達に質問する垂。垂はポンと手を叩き、

「あ、そうだ。今から初めて掃除するとこがあんだけど、そこ見てみる?」
「お嬢、もしかして」
「そこにダイソウトウたちの弱みがあるかもしれないわね」

 と、ついていくことにする。
 館地下のカジノ、スパを抜けていくのを脇に見て、

「ここ、悪の館なんだよなあ……?」

 と、二人が疑いながらも、三人がついたのは

『怪人開発室』

 ここは超人ハッチャンの生みの親ティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)が夜な夜なこもって、怪人の研究をしている。

「お嬢、ここは……」
「弱みどころか、とんでもないモノを見つけてしまったわね……」
「うわ、きったね!」

 開発室の扉を開けたとたん、垂は罵倒するような声で部屋を見る。
 ティナは今日も部屋中を散らかしながら、怪人研究に余念がないようだ。

「何か用?」
「用? じゃねえよ。きったねえから掃除すっぞ」

 と、垂はすぐさま開発室を片付け始める。

「お嬢、あの女は」
「いかにもマッドサイエンティストね……」
「うわー。こいつもきったねえ機械だなー」

 垂は、部屋の隅にある、人一人入れそうなポッド上の機械に入り、拭き掃除をする。
 垂が機械を掃除するのを見て、ティナがふと思い出す。

「そうそう。その機械、できあがったはいいけど、まだ実験してなかったのよね」

 と言って、何のためらいもなく機械の扉を閉じる。

「え? おい……」

 閉じると同時に機械の電源が入り、ウィンウィンと怪しい音を立てる。

「え、ちょ……」

 バチバチバチッッ!!

 と、派手な音と共に機械の中に煙が充満し、自動で扉が開く。

「うん。まあ成功ね」

 中に倒れているのは、垂。
 だがその体はペットのパンダウサギと合成された怪人。
 名付けて垂ぱんだ……

「えええええ!」

 唐突かつ理不尽に、ティナの機械の実験台となった垂。
 目覚めた後、彼女はどんな反応をするのだろう。
 ティナは何故かリカインとヴィンセントに向かい、

「ちなみにこの怪人製造機、好きに使っていいわよ。怪人を作ってもいいし、自分が怪人になってもいいし。基本的に彼女みたいに混ざると思うけど、結果の保証はしないわ。後でクレーム付けないでね」

 と言い残し、また自分の研究に戻っていく。
 ティナから逃げるようにリカインとヴィンセントが一階に戻ると、テーブルで角突き合わせて未沙と皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が、書類と図面を見ながら打ち合わせをしている。

「どう? スポンサーは集まったの?」
「うふふふ。私のプレゼン力を舐めてもらっては困りますわぁ。小口が多いですけど、100社ほど集まったですぅ」
「へー、すごい」
「会社の広告を、ラピュマルの側面に貼り付けますのぉ。かつての飛行船みたいに、空飛ぶ広告体、兼悪の要塞ですわぁ」

 伽羅は、ダークサイズがカリペロニアを発った後、独自に動いて浮遊要塞の購入資金とラピュマルの完成工事資金を集めていたのだ。
 その奔走で、旅の期間の約半分を費やしてしまったが。
 彼女の目算では、ラピュマルの側面は企業の広告で埋め尽くされ、威厳よりも賑やかさのある要塞になりそうだと予測している。
 未沙はそれを見ながら、

「でもさー。浮遊要塞のユニット持って帰れても、大総統の館を取り付けるのは大変だと思うよ? お金ももしかしたらこれじゃ足りないかもしれないし」
「そうなんですぅ。ダイソウトウ閣下ったら、まったく無茶なことばっかりですわぁ」

 と、伽羅はため息をつく。
 未沙は、

「あたしは、大総統の館とは別に、ラピュマル用に新しい建物を取り付けた方がいいと思うんだよね。その方が安いし早いし確実だし」
「ふむぅ。私もそう思いますわぁ。じゃあ閣下にはそのように提案してみますわぁ。きっと飛べばなんでもいいでしょうしぃ」
「え、今から行くの?」
「飛ばせばエリュシオンに着く直前に追いつけるはずですぅ」

 と、スポンサーから集めた前金を抱え、館を飛び出していった。

「忙しい人だなぁ〜」

 未沙は伽羅を見送り、感心する。
 結果的に、ダイソウの弱みではなく、ティナの怪人や伽羅のお金の話など、ダークサイズの裏側を目撃する羽目になったリカインとヴィンセント。

「お嬢、どうします……」
「とりあえず、波風立てずに、帰りを待とうか……」

 とした。