百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

リアクション公開中!

ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

リアクション

7 エリュシオン国境近く(パラミタ内海)

 ダークサイズ一行は、北カナンを横断し、大陸の中心パラミタ内海に出る。
 あの砂埃も見えなくなった。幸いダークサイズを狙ったものではないらしい。
 本来正確に陸路を取るならば、カナンの次はシボラを通過して、ようやくエリュシオン到着となる。
 しかし、

「実は地図を見間違えていた」

 とのダイソウの告白で、カナンとエリュシオンが地続き出ないことを知る。

「ちゃんと調べとけよ!」

 と突っ込まれつつも、カナンやエリュシオン以上に未知の土地であるシボラは避けたい。
ここで海路を使えれば、かなり体も楽になる。
何とかしてパラミタ内海から一気にエリュシオンへ抜けよう、ということになる。
 だがやはり、大きな船の用意はない。

「どうするか……」

 と、砂風の中で途方に暮れる。

「朔様ぁー! ご覧下さい。砂漠にペンギンがいるであります!」

 船の上で国境パトロール中のスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が、岸辺を指さしながら鬼崎 朔(きざき・さく)に振り返る。

「砂漠にペンギン? まったく、何を言って……ホントだ!」

 双眼鏡を覗いて、朔も驚く。
 領海と宣言されているかは不明だが、パラミタ内海は少なくともエリュシオンの影響下にあるらしい。
 朔とスカサハは、第七龍騎士団員として、国境警備のパトロール任務を、今日は船で行っている。
 シボラ沿岸を抜けた先にあるカナンの海岸。ここまで龍騎士団の船が航行できる、国家の影響力もすごい。
 パラミタ内海の沿岸で、海を見ながら佇む集団。もしかしたら密航を狙っているのかもしれない。
 という表向きの理由をつけて、二人は大量のペンギン達のシルエットに興味をそそられて、ダークサイズの元へ向かう。

「おおっ、船だ!」

 ダークサイズ幹部達は、朔の船に手を振って呼びよせる。
 沿岸についてみて、朔とスカサハは、集団の構成にまた驚く。
 ペンギンが沢山いる人間の集団かと思ったら、ペンギンの群れに人間がついてきているような人数バランス。
 二人は、

(変なの)

 と思いながら興味をそそられる。
 ダイソウが二人の前に進み出て、

「見たところ、エリュシオンの騎士と見受けるが」

 と、エリュシオンの騎士など見たこともないダイソウは、勘で言う。

「確かにそうですが」

 図星が当っただけだが、朔は

(この人よく知ってるな)

 と思う。
 ダイソウは、いつもより丁寧めに朔に頼む。

「我々は、謎の闇の悪の秘密の結社ダークサイズ。エリュシオンへ向かっているのだが、パラミタ内海を渡りたい。この人数が乗れる船を拝借できないだろうか」
「え、謎の、え?」

 ダイソウの頼みより、長い組織名が気になる朔。

「入国許可は得ているのですか? というか、あなたがたは……何者です?」
「パラミタ大陸征服を目指す、駆け出しの悪者だ。エリュシオンに浮遊要塞の土台を買いに来た。別に侵略とかではないから、連れて行ってほしいのだ」

 ダイソウを知らない人が聞くと、妄言もいいところである。
 もう少し威厳が出せる本来の軍服ならいざ知らず、

(このポンチョのおっちゃんは、何を訳の分からないことを言ってるのだろう……)

 と、朔はぽかんとしてしまう。

「よし、ここはあたしの出番だね!」

 見かねた歩が、ペンギンマスクをかぶって、ダイソウの隣に来る。

「あ、すみません。おじーちゃんってば頭の病気で……ほらおじーちゃん。迷惑かけちゃ悪いよ。すみません。おじーちゃん、死ぬ前にエリュシオンのお城を見てみたいって……」
「ああ、そうなんですか……」
「親戚一同で、エリュシオンへ連れて行ってあげようと」
「ずいぶん多いんですね、親戚……」

 歩はペンギンマスクで、よよよ、と泣いてみせる。

(なんなのこの人たち……)

 もう何の集団なのか分からないが、悪意はなさそうだし、スカサハはいつの間にかペンギン達と戯れている。
 朔は、この老人を不憫に思ってやるべきだろうと、思い切って船を手配してあげることにした。
 普段は冷徹な性格の朔だが、のっけからの訳のわからなさに、いつもの冷たい判断力を失いつつある。
 朔が通りかかり、しかもダークサイズに興味を持って声をかけてきたのは超ラッキーなのだが、それに気を良くしたダイソウ。

「龍騎士どの。浮遊要塞はどうやったら手に入るのだ? 浮遊要塞屋さんは首都にあるのか?」

 と、不躾に聞く。

「えっと、そういうのは国家機密ですし……お店はないですね」
「そうか。ではやはり、大帝に直接交渉か……」

 考え込むダイソウを、

(このポンチョのおっちゃんは、何を言ってるのだろう……)

 と、朔はまた不思議そうに見る。

「龍騎士殿。アスコルド大帝に会わせてくれぬか」
「え……どうでしょう……」
「すみません、おじーちゃん、死ぬ前に大帝に会ってみたいと……」
「わ、わかりました。手配するだけしてみましょう……会える保証はありませんよ?」

 半分巻き込まれるような形で、朔はわざわざエリュシオンの首都・ユグドラシルまで、ダークサイズに付き合わされる。