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リアクション
3 シャンバラ大荒野〜サルヴィン川
「約束通り、寄り道してもらうぜ」
翌日、ジャジラッドはダイソウに宣言し、彼の先導でシャンバラ大荒野を北上する正規ルートから、少し西に逸れて荒野を進む。
エメリヤンの上で、首から下をポンチョですっぽり覆ったダイソウは、隣のジャジラッドを見上げる。
「で、ラピュマル獲得のツールとは?」
「ドラゴンさ」
「ほう、どういうことだ」
「他の奴らも言っていたが、浮遊要塞なんざエリュシオンの国家機密事項だぜ。たとえアスコルド大帝に会えたとしても、下さいつってはいそーですかと売ってもらえる代物じゃねえ」
「そうだったのか」
「おまえ、それも分かんねえでここまで来たのかよ。ま、それでも浮遊要塞を手に入れようと思うなら、それ相応の手土産が必要だろうぜ。つまりエリュシオンが喉から手が出るほど欲しいモノだ」
「それがドラゴンということか」
「龍騎士団を擁するエリュシオンは、騎馬となるドラゴンはいくらあっても足りねえだろう。それに目を付けて、大荒野でドラゴン牧場を経営するヴァシリオスってやつがいる。そいつをダークサイズに引きこんで、ドラゴンの供給ルートを俺たちで統括すれば、浮遊要塞なんか簡単に提供してくれるだろうぜ。おまえもドラゴンライダーになれよ。箔がつくぜ」
と、ジャジラッドは自分のワイバーンを撫でる。
話が聞こえて、エメリヤンが少し不安そうにダイソウを振り返る。
ダイソウはジャジラッドの勧めに答えず、黙って前を見据えている。
そんな中、やはり双眼鏡で遠方の警戒をする洋が、遠目に砂埃が上がっているのを見つける。
どどどどどっ……
その砂埃は明らかにダークサイズの一行を目指している。
砂埃を上げて北からダークサイズに迫るのは、何と乙王朝の一部隊。部隊とはいえ、その人数は約千人に近い。そしてその戦闘で水先案内をしているのはジル・ドナヒュー(じる・どなひゅー)である。
「いたわ。あそこの集団がダークサイズよ、隊長さん」
ジルは、彼女の契約者ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)の指示を受け、乙王朝の横山 ミツエ(よこやま・みつえ)とダイソウのトップ会談をセッティングすべく、カリペロニアには集合せず、パラ実で裏工作に動いていた。
ジルはミツエに、ダークサイズのダイソウと会ってみないかと勧めたのだが、
「ダーク、なに? ダイソウトウ? ふうん……」
と、ミツエは聞いたこともないダークサイズにはあまり興味を示さない。
ブルタの願いを叶えるため、ジルは一生懸命言葉を尽くしたのだが、最終的にミツエは腰を上げず、
「会う意味のあるほど面白い者なら会ってもいい」
と、ミツエは斥候部隊を派遣するにとどまる。
斥候と聞こえはいいものの、構成員は乙王朝でも鼻つまみ者の元盗賊たち。あわよくばカツアゲでもしてやろうとついてきた、寄せ集めにすぎない。
ダークサイズどうこうより、ケンカ上等の雰囲気がばしばしと伝わってくる。
ジルはダイソウに駆け寄り、
「ブルタの代わりに来たわ」
と言う。
ダイソウは、
「ブルタはどうしたのだ?」
「ザナドゥ辺境の監獄に入れられちゃったわ」
「一体何をしたのだ、あいつは……」
「でもラピュマルは絶対成功させたいからって。ダークサイズに偉くなってほしいから、ミツエと会談したらダークサイズもそれなりの組織と見てもらえるって言うのよ」
「なるほど、そうか」
と、ジルは斥候の隊長をダイソウに合わせるが、隊長は鼻で笑って、
「ふん、こんなこったろうと思った。帰ろうぜ」
と言う。
ジルは驚いて、
「ええ! 何にも話してないのに」
「何がダークサイズだ。こいつがリーダーか? おいお前ら見ろよ、リーダー様が山羊に乗ってポンチョ着てやがるぜ!」
がはは、と斥候たちの笑い声が響く。
また別の者が一行の風体を見て、
「なんだぁ? ほとんどペンギンじゃねえか。なんだ、ダーク何とかってのは動物園か?」
「いや動物園にもなりゃしねえ。ペンギンパークのダーク何とかだ」
「ひゃはははは!」
と、元盗賊たちの罵りに、イライラを募らせるダークサイズ。
しかしそこに、ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が進み出て、大人の対応を見せる。
「閣下、ここは私にお任せください」
「なんだてめえ?」
「ふむ、いきがるしか能の無いかね、隊長君」
「なんだとコラァ! 見たままを言ってるだけじゃねえか」
「何とでも言うがいい。しかし後々後悔するのは君だぞ?」
「はぁ? 意味分かんねえな、てめえ」
「分からんか。乙王朝の威光をかさに着るしかできぬ、斥候程度にしか使われぬ君には分からんか」
「な、てめえ……」
「君の存在など、横山ミツエ殿に知られてすらいまい。しかし、我がダークサイズの大総統、ダイソウトウ閣下は、このように会談の工作に動く者がいるほどの組織の主! 君程度の者が臭い息を吹きかけるでない。控えい!!」
と、大きなことを言っているようで、実は内容の無いことを口走るミヒャエル。
隊長はひるみながらも、
「けっ、てるてるぼーずみてえなカッコしやがって」
「フッ、君にはそれすら見抜けぬのか。この『てるてるバリアリーフ』によって、大陸が消し飛ぶほどの力が封印されていることに!」
「な、なんだとっ」
「その御力は、星帝・御人 良雄(おひと・よしお)様をも凌駕し、シャンバラ教導団、龍騎士団にも一目も二目も、置いて置かれて、突いて突かれて、くんずほぐれつの関係なのだ!」
「ま、まじかよ!」
ミヒャエルはハッタリをかました上に、よく分からない言い回しを多用する。
クマチャンがミヒャエルの後ろに来て、
「ねえゲッペホー卿、今の意味分かんないんだけど」
「これくらいが調度よいのです。口論とは相手を混乱させて勝ちを得るのです」
と、彼の持論を披露する。
ミヒャエルが隊長を論破してくれたおかげで、ダークサイズたちは留飲を下げつつあったが、遅れて腹を立てた円のペンギンが『オディン』を抜き放ち、先ほどバカにした斥候隊員を切りつける(ぺちぺちする)。
「あっちいっ! このペンギン!」
また、キャノン姉妹が馬車でくつろいでいるのを見つけた者が、
「おひょおおう! いいねえ。ステキなおねーちゃんがいるじゃねえかよおぅ」
と、ネネの腕を掴む。
しかしネネは動じない。なぜならその直後、斥候の男はその腕にすさまじい痛みを覚えるから。
壮太は男の腕をねじ切らんばかりに捻り、
「いー度胸じゃねえかてめえ〜。オレだってネネ姉さんの二の腕触ったことねえのによお!」
「いいいでえええ! てめえ離せコラァ!」
「壮犬さん、そのまま彼を離さないで頂けます?」
と言うが早いか、ネネは扇子で脳天をかち割らんばかりの強烈な一撃を、男にお見舞いする。
壮太だけがその瞬間のネネの表情を目撃し、
(うん、この人には何があっても絶対逆らっちゃダメだ)
と顔を青くして、改めて心に刻む。
「まあ。お姉さまが直接手を下すことはありません。ここは私が」
モモは、他にも寄ってくる男どもと、壮太と共に対峙する。
しかし後ろから、ちっぱい派の男がモモに抱きつく。
「きゃっ」
「俺ぁ、これくらいの肉付きが好みだぜ〜」
これには、ネネのフォローのモモのフォローをするために参加しているトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が黙っていない。
トライブは男の顔をアイアンクローでがっしと掴む。
「やられ役を羨ましいと思う時が、たまにあるぜ……俺たちがやりてえと思っていることを平然とやってのける……シビれもしねぇし、憧れもしねぇがな!」
「いででででで!」
「妹ちゃんに触ってんじゃねえー!!」
と、トライブは男を引き剥がしてぶん投げる。
小競り合いが少しずつ広がるのを見て、ダイソウは素早く判断する。
「全員、サルヴィン川へ走れい!」
ダイソウは全員に指示を出す。
ジャジラッドがダイソウを後ろから追いながら、
「おいダイソウトウ! ドラゴン牧場は逆方向だぜ!」
彼の言葉を背中で聞き、ダイソウはジャジラッドに、顔だけを向けて言う。
「この数を強行突破すれば、我々も大きなダメージを受けるであろう。ドラゴンは捨てがたいが、我が幹部が傷つき、旅が頓挫しては意味がない。ここは回避して先に進むしかない」
「大帝との交渉道具はどうするんだ!」
「何とかする」
「けっ、また『何とかする』かよ」
ジャジラッドは、ドラゴン貿易ルート獲得に失敗した腹いせに、もはやただの盗賊と化した斥候部隊をワイバーンで蹴散らしながら、サルヴィン川方向へ急ぐ。
ダークサイズがサルヴィン川への退避行動に出たのをきっかけに、もはや乙王朝など関係なく、盗賊たちはかつての血をたぎらせて略奪に走る。
「ごめんなさい、こんな結果になるなんて」
ダイソウの隣で、ジルが謝る。
「お前のせいではない。それより走れ」
「ミツエがこんな盗賊を派遣するなんて」
「違う。ダークサイズが……まだ小さすぎただけだ」
単純に数の上でも劣勢のダークサイズ。
川へ進みながらも、盗賊と戦いながらとなる。
大佐はお得意のヘッドショットで盗賊を次々に射抜きながら退却し、円は魔弾の射手を二丁拳銃で使う。
退避戦なので、射撃系のメンバーが活躍している。
「おい妹ちゃん、幌の中で休め。あとは俺だけで何とかなりそうだ」
ネネの馬車のすぐ後ろを、壁となって走るモモの馬車。
川が近づくにつれ、追ってくる盗賊も減ってきた。
トライブはモモを座らせようとする。
「大丈夫です」
「ダメだ。お姉さまもいいが、もう見ちゃいられねえぜ。そのクマ」
長旅の中でのネネの世話は、いつもより体力を削られるようで、モモの目の下はうっすらと黒ずんでいる。
「それに、俺の銃の方が馬車から追手を蹴散らすのは向いてるしな」
と、トライブは魔銃を掲げて見せる。
それを聞いてようやくモモは腰を下ろし、
「……ありがとう。何かお礼をせねばなりませんね」
「当然だ。エリュシオンに着いたらな」
トライブはニッと笑い、モモが久しぶりに微笑んだ。
☆★☆★☆
「ぬぉわははははは! やはり我輩の活躍なくしては、ダークサイズはエリュシオンへとたどり着けぬであろう」
シャンバラ大荒野の行軍の中で、途中で離脱してサルヴィン川へ先にたどり着いていた青 野武(せい・やぶ)。
サルヴィン川をどうやって渡るかを考えていたミルディ、真奈、イシュタンは、思い切って簡易的な橋を作ってしまおうと考える。
その協力者として白羽の矢が立ったのが、なぜかマッドサイエンティストの野武。
「ぬぉわははははは! さすがディスティン商会。目の付けどころが良いではないか。我輩の技術を結晶させた、サイエンスブリッジに期待するがよい!」
ダークサイズ一行がダッシュでサルヴィン川へ迫るころ、野武は自前の科学知識で建築技法は全く無視した、独自の長い橋をちょうど作り上げていた。
「ぬぅ。我輩のマジックハンドを用いても、さすがに少し疲れた……」
と言っている間に、
「みんなこっちこっちー!」
ディスティン商会の先導で、次々に橋を渡っていくダークサイズ。
しんがりの位置を走るダイソウにも、クロスが空飛ぶ箒で並走して橋の位置を知らせる。
「大総統、向こうの川下に橋があるそうです」
「うむ、ではお前達は先に行くのだ」
と、ダイソウは一緒にエメリヤンに乗っていた結和をクロスに預け、エメリヤンのスピードを上げる。
「やれやれ。回避どころか、今回は進んでトラブルに巻き込まれに言ってる気がしますね」
この状況でも馬車でダイソウと並走する翡翠と桂。
「説教は後で聞く」
と、彼らはようやく橋を渡り始める。
数はだいぶ減ったものの、盗賊たちは性懲りもなくダークサイズを追って橋を渡ろうとする。
対岸でそれを見た野武。
「罠にかかったようだな、愚かな盗賊ども! 我輩が作るからには、ただの橋であるわけがあるまい!」
と、いつものように簡易スイッチをポケットから取り出す。
「ぬぉわははははは! 創作物は、自爆する時が最も美しいのである!」
「ちょ、ま、まだダイソウトウが渡りきってないよ!」
ミルディアの制止も聞かず、野武はスイッチオン。
橋を渡り始めた盗賊たちの足元が、
どうんっ!!
と爆発する。
「どわー!!」
吹っ飛ぶ盗賊、川に落ちる盗賊、急ブレーキをかけて川岸に留まる盗賊。
傾いて落ちていく橋を、ダイソウ達はかろうじて渡りきる。
「何故渡りきる前に爆破したのだ……」
ダイソウはヒヤリとして野武に言うが、
「ぬぉわははははは! 結果オーライである!」
と、笑うのみ。
翡翠と桂も、
「さっきのはすごいスリルでしたね……」
と、さすがに興奮気味の表情を押さえきれなかった。
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