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リアクション
第9章 狼の吠える丘
「うん? 何だ!? お、おわあああ!!」
異様な殺気を感じて背後を振り返った健闘勇刃(けんとう・ゆうじん)は、あまりのことに、さすがの彼とて愕然とせずにはいられなかった。
「健闘、あなたは汚らわしいので、斬ります!」
殺気をムンムンと漂わせたリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)が、すさまじい剣撃で健闘の首を斬り落とそうと、仕掛けてくる。
次の瞬間には。
「健闘、あなたは、あの人と同じです!! 『愛してる、君だけだ』なんて嘘ばっかり。あの人も、いつもそう。健闘、あなたがセレアと咲夜をもてあそんでいること、たくしにはわかります。どうしても許せません!! 狼よ、生命で償って下さい!!」
弓を構えるアン・ブーリン(あん・ぶーりん)が、矢の雨を健闘の頭上に降らせ、その心臓を射抜くことに血道をあげてきた。
「ちいっ、俺の力を妬んでいるのか? しかし、ここは女の子たちを助けるために、協力すべきなんじゃねえのかよっ」
熱い口調で叫ぶ健闘だが、リュースとアンは首を激しく振った。
「いえ。オレはもともと無差別に人を斬りたがるのですが、あなたは巨大な例外です! 斬って斬って斬りまくりましょう!! ただ、それだけです!!」
「あなたを生かしたまま女性たちを救出して、何になるのでしょう!? 女性たちの真の救済を考えるなら、あなたにはここで果ててもらいます!!」
リュースとアンは、まったく聞く耳を持たなかった。
「な、何だそりゃ!! よくよく恨まれちまったが、ここで俺がひくと思っていたら大間違いだぜ!! あらゆる妨害をはね飛ばし、大いなる志を成就してやるぜ!!」
健闘は闘う覚悟をかためて、さらに激しくオーラを燃やした。
「はああああああ!!! 負けないぜ!!! 絶対に!!! 燃やし尽くせ、この熱き心の炎を!!!!」
絶叫しまくった健闘は、リュースの攻撃をものともせずに、猛烈な反撃を始めた。
「うん……?」
健闘のうるさすぎるまでの絶叫が、十字架にはりつけにされている少女たちの中でも、はりつけにされたときから気絶して眠り続けてきた、ある少女の目を覚まさせようとしていた。
「ここは……縛られてる? いや……」
伏見明子(ふしみ・めいこ)は、エリカの起こした爆発によって衣服のほとんどがちぎれ飛び、半裸に近い姿で、丘の上を吹く風に素肌を冷やされながら、徐々に、自分が拘束状況に置かれていることを感じとってきていた。
「ん……苦し……やめて……ああ、はあ」
おへそがまるみえになっている状況に違和感を覚えながら、伏見は、いまだ半覚醒の意識の中で、本能的に何らかの快感を求めているのか、あやしく身悶えた。
「お、おお!! この女!! 何だかエロいぜ!! ぐっへっへー」
ケンカも終盤に入り、すっかり傷だらけになった荒くれ者たちが、伏見がはりつけにされている十字架の下に集い、伏見の素肌と、微妙な動きにともなってエロティックな影がうつろう様を楽しんだ。
「うう……みられてる? く、クズども……?」
伏見は、顔をしかめて、うなじに汗を浮かべ、色っぽいと息を吐いた。
「おはあ!! いろいろ妄想できそうな悶え姿だぜ!! 興奮しちったあ!!」
荒くれ者たちは、伏見の汗まみれの身体に血走った視線をはしらせながら、それぞれの股間を両手でおさえて、足をバタバタさせた。
そのとき。
「クズどもが。滅びろぉ!!!」
凄まじい絶叫とともに、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が荒くれ者たちのよだれを垂らした顔を、重い拳の一撃でぶっ飛ばしていた。
「お、おぎゃあああああ!! しょ、衝撃で何かがもれちまうじゃねえかあ!!」
股間をおさえたまま、顔面から血を噴き出して、荒くれ者たちは倒れていく。
「一撃! 昇天!! 勇気の力!! 勇者がいま、おまえたちを屠りにきたぞ!!」
エヴァルトは襲いくる敵を体当たりで弾き飛ばし、ブンと空気を切る足蹴りで、当たったものから骨と肉をともどもに砕いていった。
「おしっこ、もれたあ!!! あぎゃああ!!」
地面に倒れ、ジョーという失禁の音とともに悶絶する荒くれ者たち。
「ほう。なかなかの腕だ。それでは私たちも、この下衆どもをSmack Down(お仕置き)しよう」
涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は、エヴァルトから少し離れたところに立って、魔法の詠唱を始めた。
エヴァルトが暴れまわっている間に魔法を詠唱するというのが、涼介にとってはちょうどいいタイミングに思えたのだ。
「くらえ! 凍てつく炎! 天のいかづち!!!」
「ぎええええ!!! か、神が怒っているのかぁ!!!」
涼介の放つ魔法が、荒くれ者たちを燃やし、焼き尽くした。
「か弱い少女を己が欲望のために襲い、陵辱しようとするとは!! もはや下衆以外、あなたたちに与える名前はない!! 身のほどを知れ、身のほどをぉぉぉぉ!!」
絶叫しながら、涼介はなおも魔法攻撃を放つ。
「おにいちゃん、私もやっちゃうよ!! とあー!!! 串刺しだよ!!!」
涼介の頭上では、クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が強化光翼をはためかせて飛びまわり、地上の敵に突撃を仕掛けては、手にした槍で次々に地面に貫きとめていった。
「お、おべれれれれれ」
「あ、あぼおおおおお」
何かを叫ぼうとしながら、その前に殴られたり焼かれたり貫かれたりして悶えつつ倒れる荒くれ者たち。
「この叫び……何が……私をみている奴らがまだ……」
伏見は、エヴァルトや涼介がまきおこす闘いの音を聞きながら、意識が急激に回復していくのを感じていた。
魂が、深い海の底から、海面へと出ようとしていた。
伏見が、いままさに目覚めようとしていたとき。
「おい、弱い奴ばかり倒して悦に入るな。ちっとやりあおうぜ」
夢野久(ゆめの・ひさし)が、エヴァルトに殴りかかっていた。
「うん!? ぐおお!!!」
夢野の拳を受け止めたエヴァルトは、そのあまりの力に顔をしかめた。
「勇気の力で、野蛮にどこまで対抗できるか、みせてくれや」
夢野は凶暴な笑いを浮かべながら、エヴァルトのボディに連続のパンチを放ち、その身体を思いきり投げ飛ばす。
「があああ!! くそ!! 負けるか!!! 悪を倒す!!」
エヴァルトは歯を食いしばって起き上がると、夢野に向かっていった。
「大丈夫か。突っ走るな。援護しよう」
涼介が、魔法攻撃を夢野に放って、エヴァルトを援護する。
「余計なことを。まだるっこしいことしてねえで、身体で語りあおうぜ!!」
夢野は豪快に言い放ちながら、エヴァルトと真っ向から組み合った。
ぎりぎりぎりぎり
「う、うおおおおおおおおおお!!!」
エヴァルトは絶叫した。
「お、おおおおおお、いいぜええええ!!!」
夢野も絶叫した。
2人の力は拮抗し、お互い組み合ったまま、身体が微動だにしなくなる。
そのとき。
「ヒャッハー! ちっ、もういい! やられる前に、せめてこの女の胸を触ってやる!!!」
荒くれ者たちの一人が、はりつけにされている伏見に近寄ると、にゅっと背伸びして、女の果実をわしづかみにしようとした!!
その瞬間。
「チンピラ!! 汚い手で触るんじゃねえよ!!」
意識が回復した伏見が、くわっと目を見開いて、荒くれ者をにらみつけていた。
「ひ、ひいいいいっ」
すさまじいその気迫におされて、荒くれ者は手をひっこめる。
「何だい、ここは? ケンカの真っ最中かい。私は十字架の上? はっ、ふざけんじゃないよ」
伏見は、低い、すごみのある声でいいながら、徐々に怒りのボルテージをあげていった。
「あんたたち、誰を捕まえたかわかってんでしょうね?」
伏見は、怒りの赴くままに、手首に力をこめた。
ばきん
驚くべきことに、エリカの起こした爆発でも解けることのなかった拘束が、伏見の力によって亀裂をはしらせ、砕け散ってしまったのである。
「お、おわああああ! 何じゃ、この女はあああああ」
荒くれ者は腰を抜かしそうになりながら、じりじりと後じさる。
「スカートん中直視してんじゃねえよ。恥ずかしくてそこが汗かいてるじゃんかよ。色っぽい? そうだね。楽しませてやったんだから、そろそろ授業料頂こうか!!」
手枷と足枷を自ら破壊して地上に降り立った伏見は、荒くれ者たちに噛みつかん勢いだ。
「へ、へっ! アホ女が!!! 武器もねえのにどうやって勝つつもりだ、コラ!!」
荒くれ者の一人が、チェーンを振りまわして伏見に迫りながら、怒鳴った。
「あぁ? 何いってんだぁ? 武器ならここにあるだろが、このボケがぁ!!!」
絶叫とともに、伏見は自分がとらわれていた十字架に手をかけ、力をこめると、ずぼりと引き抜いてしまった!!
「死ねやぁ!!」
「ぐ、ぐぼち!?」
伏見の振りまわす十字架に後頭部を砕かれた荒くれ者たちが、目玉を飛び出させて倒れていく。
倒れた屍体を踏みしめて、伏見は進んでいった。
「うん、おまえは、伏見!? まさか、おまえも捕まっていたのか!! いったい何でだ?」
エヴァルトと闘っていた夢野は、目を丸くした。
伏見が。
あの伏見が半裸で歩いている!
はっきりいって色っぽいが、それ以前に、どうしてこんなことになっているのか、ファンタジーのような展開だった。
「ああ? ごちゃごちゃいってんじゃねえよ! 私は機嫌が悪いんだよ!!」
背後から話しかけられた伏見は、激昂して、声がした方に十字架を投げつけた。
「あ、あがあああ!! きつすぎないか、これ」
十字架の下敷きになった夢野は、うめいて、失神する。
「はあ、まったく。無防備な姿で昼寝なんかするから、こんな目にあったのかもね。ここにいる汚らわしいクズの男どもは、何であろうとぶっ飛ばすよ!!」
伏見は、エヴァルトにも詰め寄っていった。
「う、うん!? おまえは、捕まっていた少女だな。なぜ、俺を襲う? やめろ! おわああ」
エヴァルトは、伏見をみて戸惑っていたところを、力強い拳の一撃に殴り飛ばされて、天高く吹っ飛んでしまった。
「何はともあれ、無事でよかった」
涼介が、迫りくる伏見を静かにみつめて、いった。
「あんた、すましてんじゃないよ。しょせんは汚れた男のくせに」
伏見は、涼介を睨んだ。
「いえ。私には愛する妻がいるので、下心は一切ございませんよ。ただ、この状況を見過ごすことができないお人好しなのです」
涼介は、伏見の気迫に満ちた視線を真っ向から受けながら、いった。
「そうかい。じゃあ、どきな。邪魔したら殺すよ」
伏見はそういって、脇にどいた涼介の側を通り過ぎていく。
「うん!? おうあっ!!!」
健闘勇刃はまたしても驚愕の叫びをあげた。
リュース・ティアーレとアン・ブーリンの矢継ぎ早の攻撃を避けながら必死の反撃を続けていたら、今度は伏見明子が勢いよく蹴りつけてきたからだった。
「邪魔なんだよ。私の行く道を塞ぐな!! 最高に機嫌が悪いから、さ、あんたもぶっ飛ばして憂さ晴らしに足しにさせてもらうよ!!」
伏見は、健闘の襟首をつかんで引き上げながらいった。
「捕まっていた女が暴れ出すとは!! まったく、元気がありすぎだぜ!! でも、まあ、そういうのもいいよな!!」
健闘はふっと笑って、伏見の肩を叩こうとした。
「ああ、もう! そういうところがフシダラなんです!!」
アンが矢を放って、健闘を伏見から離れさせる。
「結局、ムカつくっていうんだよね、男ってのは、下心がないつもりでもやっぱりあるかもしれないしだし!!」
伏見はそういって、健闘に拳を突き出してきた。
「うむ。健闘が第一ターゲットですが、この際2人とも斬りましょう!!!」
リュースは、伏見も健闘もまとめて斬り殺そうと剣を振りまわす。
「ああ、もう、何もかもうざったいわね!!」
伏見は、リュースにも牙を剥いた。
そんなとき。
「よし、ここを抜ければ!! あそこの十字架にたどり着いて、トモちゃんとハナを助けられるわ!!」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、伏見中心か健闘中心かわからない、すさまじい乱闘のまっただ中を抜ける決心をした。
「さあさあ、みなさん、そこをどきなさい!! 私の邪魔をしたやつは未来永劫蒼空歌劇団に出入り禁止よ!!」
無論、リカインの叫びを伏見や健闘が聞き入れるような様子はみられない。
「それじゃ、仕方ないわね」
リカインは、深く息を吸い込んだ。
咆哮を発動させる構えだった。
「はあああああ!!! ほおおおおおおおおお!!! あふ、あふふふふふううううううう!!!」
獣のようなすさまじい咆哮が、丘の上に響きわたった。
「な、何だぁ!? うるさいぞ、おい!!」
リカインの咆哮を耳にした健闘は、またまた驚愕しながら、珍しいことに、彼から他者に「うるさい」という言葉を使用した。
「ちいっ、ビビらせようったって、そうはいかないよ!!」
伏見は舌打ちして、耳を聾する叫び声の中、必死に態勢を維持しようとした。
「斬ります!!」
リュースは何を思ったか、リカインに向かっていって駆けていった。
「あははあああああああああ!!! きゃああああああああ、ぐあああああああ!!!! ふるるるるるるるるるるるる!!!」
リカインもまた、咆哮をあげながら、駆けた。
「むっ!! オレの攻撃を避けましたか!!」
リュースは、目にも止まらぬ渾身の斬撃をリカインが回避していったことに、驚きを隠せなかった。
「オラ、みんな、聞け!! 女ってのは奪うものじゃねえ。引き寄せるものなんだよ!! てめぇらはそのための努力ってものが全然足りねえんだよ!!」
リカインの後から、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が絶叫しながら走っていく。
アストライトは、リカインのため、荒くれ者たち、あるいは、目的はわからんが乱闘ばかりしている人たちを止めるつもりでいた。
「は!! きれいごといってるんじゃねえよ!!」
伏見は悪態をついて、アストライトに飛びかかっていく。
がしっ
アストライトは、伏見が伸ばしてきたその手を、つかんでいた。
「あ? きれいごとだと? その言葉そっくり返してやらぁ!!! てめぇらのトーチャンカーチャン全員美男美女ぞろいかよく思い出しやがれぇ!!! みろ、女が引き寄せられてきたぞ!! 俺の力だ!!」
アストライトは、つかんだ伏見の手をぶんぶん振りまわしていった。
「なーに、いってんだよ、この、すっとこどっこいスイスイスイめぇ!!!」
ばちーん
伏見は、アストライトの頬を思いきり張り飛ばしていた。
「ひゅうううううううう!!!! ぺららららららららららららら!!!! あひゅううううううううう!!! さあ、抜けたわ!!!」
咆哮をあげながら修羅場をくぐり抜けたリカインは、ついに十字架の前に立ち止まると、拘束されていた仲間の救出にかかった。
かちゃり
「リカイン姉ちゃん!! わーん、怖かったよー!!」
救出された童子華花(どうじ・はな)は、安堵のあまりわんわん鳴き出した。
みれば、その姿は、ほとんど全裸である。
「ほら、これを着て!!」
リカインは自分の上着を脱いで華花に着せてやると、もう1人の仲間を救出にかかった。
かちゃり
「リカさん!! あたし、ちょっと辛かったですよ。まさか、あたしも、こんな目にあうなんて!!!」
中原鞆絵(なかはら・ともえ)もまた、涙で頬を濡らしながら、リカインの顔を見上げた。
「本当だわ。何でトモちゃんまで捕まってしまうの? ハナまで巻き込んで、もう!! 助けてやったから、急いでここを立ち去るわよ!!」
リカインは頬を膨らませてみせながら、鞆絵たちを促した。
「立ち去るについては、全く同感ですよ。でも、どうしましょう? ハナさんを連れて、この動乱の地を抜けるのですか?」
鞆絵の問いに、リカインはうなずいた。
「ここまできた要領と同じ! みんな、咆哮をあげながら丘を駆け降りるわよ!!」
リカインは、力強い口調でいった。
「そうですか。咆哮。はい。わかりました」
鞆絵は覚悟を決めた。
「いくわよ!!! わおおおおおおおおおおおお!!!! ほおおおおおおおおおお!!!!」
リカインは咆哮をあげながら、ダッシュで走り始めた。
「るるるるるるるるる!!! ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!」
鞆絵もまた、みようみまねで咆哮をあげながら、リカインについて走る。
「アハハ!!! ベベベベベベベベベベベー!!!」
華花も笑いながら、咆哮をあげて走った。
走るうちに、華花が着ていた、リカインの上着が浮きあがって、どこかに飛んでいってしまう。
「ひいいいいいいいいいい!!! きゃんきゃんきゃきゃきゃきゃきゃ!!! あっ、ハナ、裸で走らないの!!! ダメメメメメメメメ!!!」
リカインは咆哮をあげながら、華花の走る姿に驚いて、その身体をつかまえようとした。
「気持ちいい!!!!! るんるんるるるるるるるるるる!!!」
華花は笑いながら、リカインの手を逃れて、乱闘の中を縦横無尽に駆けまわり始める。
「な、何だありゃ!?」
荒くれ者たちは、ぽかんとしてリカインたちの走りまわる姿を眺めていた。
「よーし、ヒントを得たぜ!!! 俺も、咆哮をあげて、気力を高めるぜぇぇぇ!!」
多数の敵に取り囲まれ、絶対絶命のピンチの健闘は、自分もリカインにならって叫ぶ決心をした。
「押し寄せる敵ども!! 来るなら、来やがれ!! 誰も、俺を止められはしない!!! はあああああああ」
健闘は、深く深く息を吸い込んだ。
そして、限界近くまで吸い込まれた息を吐き出すと同時に、目が光を放つ。
「お前ら、ムカつくんだよ!!! 全員、ぶっ飛ばしだあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
すさまじい覇気が健闘から放たれた。
「むう!! オレを圧倒するこの力!! やっぱり、嫌いです!! ぐわー!!!」
健闘に斬りつけようとしたリュース・ティアーレは、すさまじい覇気をモロにくらって、空の彼方に吹っ飛ばされてしまった。
「やりますね!! そこまで、自分の生き様を貫き通しますか!!! あれー」
アン・ブーリンもまた、矢が尽きたところでその覇気をくらって、吹き飛ばされてゆく。
「どうだあああああああああ!!! 俺は強いいいいいいいい!!!! あ、あがああ!?」
どごおおおおっ
叫びながら疾走しようとする健闘の顔面に、すさまじい正拳突きが決まった。
「みんな、うるさいんだよ!!! 少しは静かにしな!!!」
健闘の顔面から抜いた拳を拭いながら、伏見明子が、ニヤッと笑った。
「バ、バカな、こんな展開……このお姉さん、強すぎるって!!」
健闘は、信じられないといった顔で伏見の顔をみつめながら、薄れゆく意識の中で呟き、そして、倒れた。
「だから、私はビビらないって、いったさね」
伏見は、健闘の身体を捨て置いて、歩いていった。
丘の上の、少女たちの破れ落ちたパンツが埋まった、パンツの塚へと……。
丘の上の空がかげり、沈みゆく夕陽の光が、十字架の表面にてりはゆる。
「ヒャッハー!!! パラ実一のスーパーイケメン、吉永竜司(よしなが・りゅうじ)とはオレのことだァ!!!」
もはや少女たちのほとんどが救出され、はりつけにされている者のない多数の十字架の前で、吉永は絶叫していた。
「貴様は!? 最後の障害か。強者め」
松平岩造(まつだいら・がんぞう)は、吉永の出方をうかがいながら、剣を構えて間合いを詰めていく。
「岩造! 空と地からの両面でいっきに攻めようではないか!!」
上空に浮遊するファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)がいった。
「ヒャッハー!!! 竜司リサイタルの始まりだァ!!!」
吉永は、機嫌よさそうにいって、勢いよく歌を歌い始めた。
「ららららららららららららら、ららら、らららららららー、よーしなーがーりーきー!!!」
吉永の割れるような歌声が、丘の上の荒くれ者たちの耳をうち、それぞれをのけぞらせて、もがき苦しませた。
「こ、これは!?」
「あ、頭が痛い!! 今日は咆哮だの歌だの、叫びがよく響く日だ!! 新しいタイプの攻撃だ!!!」
松平とファルコンは、ともに息をのんだ。
これが、シャンバラ大荒野の奥で彼らが発見した、野蛮人たちが本能の赴くままに開発した、科学の力では決して解析できない、神秘の超パワー秘めた未知の武術なのであろうか。
すさまじい音撃。
吉永を放っておくだけで、荒くれ者たちが次々に倒れていく。
ついでに、自分たちも倒れそうだ。
「うららららららららら!!! 嫌がる女どもを無理に奪うのはウンコ野郎のすることだぜぇ!! このイケメンが許せぇ!!! おい、オレに惚れるなよ?」
吉永は誰にともなくウインクしてそういうと、手にしたバットで十字架をぶっ叩き始めた!!!
ばきーん、ばきーん
十字架の根元に少しずつひびが入る。
ずーん
ついに、十字架は吉永によって力任せに折られて、地面に倒れ込んでしまった。
「さあ、次だぜぇ!!! みろ、パンツの塚が、夕陽に照らされているぜ!!! このロマンチックな状況で、オレがいうことはただひとつ!!! 惚れるなよ?」
吉永は再びウインクして微笑むと、十字架という十字架を片っ端からバットで叩き折り始めた。
「こ、これは!! 少女たちを救出するつもりだったのか!!」
松平は、吉永の思いもよらない行為に、驚きを禁じえなかった。
「でも、ほとんどの女は救出されてるぞ。こうして十字架がなくなることで、私たちの闘いも終わりを確認できるということか」
ファルコンもまた、空中から地上に降り立ちながら、感慨深げにいった。
そういえば、ライオルドたちはうまくいったのだろうか。
ふと、ファルコンの脳裏にそんな疑問が浮かんだ。
おそらく、大丈夫なはずだ。
荒くれ者たちは、ほとんど駆逐されているのだから。
何と、さわやかな勝利だろう。
ファルコンは、いまにも雄叫びをあげて夕陽に向かって飛んでいきたい気持ちをおさえながら、吉永の十字架破壊行為を静かに見守るのだった。
「ふふふ。いまだ。このときこそ、女たちは安堵の念に包まれ、隙が生じている!! もともと隙間があるのが女の魅力だが!! いまこそ調教のとき!! さあ、捕まえるぞ!!!」
毒島大佐(ぶすじま・たいさ)は、十字架から解放されて丘を降りようとしている多数の少女たちをものかげからうかがいながら、こっそり微笑んだ。
「お、あれは。なかなかそそるぞ!! よし、飼育だ!!」
毒島は、少女たちの中に、ひときわ目立つ存在を見いだした。
異様になまめかしいオーラを放つ、色気と陰の混合した存在だった。
「はああああ。何ということでしょうか。せっかく誠心誠意お仕えしようと思いましたのに、みなさんは抗争に明け暮れ、ついにいなくなってしまいました。パンツァーの巫女としては、うんしゅう、あいしゅう、でございます」
重いため息をつきながら歩いていく秋葉つかさ(あきば・つかさ)に、毒島は襲いかかっていった。
「少女一匹、お持ち帰りさせてもらうぞ!!!」
毒島の放ったロープに、つかさは身体を絡めとられた。
ロープに縛られ、足を止めてもなお、秋葉はもの想いにふけっている。
「ああ、結局みなさまは人を愛することができないのですね。パンツァー神もお怒りです!!」
そこで、つかさは、自分が縛られていることに気がついた。
「ふふふ。感じるか?」
毒島の引き絞るロープが、つかさの微妙なところにくいこんで、刺激をビンビン伝えてくる。
「う、ふっ、くしゅう」
つかさは、思わず股間をおさえて、色っぽい声をあげながらうずくまってしまった。
「こ、これは!!」
毒島は、思いきり興奮した。
こうも感じやすいとは思わなかったのだ。
「も、もしかして極上の獲物か!? たっぷり調教して、私の奴隷にしようではないか!!」
興奮のあまり拳を握りしめながら、毒島はつかさに近寄っていった。
すると、突然つかさが顔をあげた。
「なっ!!」
その目に、狂気の光が宿っているのをみて、毒島は身をひいた。
「人を愛せないような方は……愛せないような方は! あはははははっ、みなさま死んで下さいませ!!!」
つかさはけたたましい笑い声をあげながら、毒島の目をまっすぐ覗き込んで、その顔にかぶりついていった。
「ぐ、ぐわああああ」
つかさに唇を吸われて、毒島は悶絶した。
甘い、とろけるような感じ。
「ふふふふ。私の唇の感触はいかがですか?」
「うううう。いい……かもな。くくく。私の女になるか?」
つかさの邪悪な囁きを耳もとに感じながら、毒島は、それでも調教を続けようとした。
「そうですか。何よりです。それでは、その幸福感の中で逝かせてさしあげましょう」
つかさはニッコリ笑って、精気を吸い取られて顔が真っ青になっている毒島の首筋を、手刀で引っ掻くようにした。
「う……が……エクスタシー!!!」
ころん
とっさに拳をあげてつかさの攻撃を防ぎながら、毒島は全身の力が抜けて、倒れこんだ。
その卓越した戦闘本能により、辛うじて致命傷をまぬがれた毒島であった。
とびきりの快楽を感じながら倒れた毒島の唇には、うっすらと笑みさえ漂っていた。
つかさは、そんな毒島を捨て置いて、立ち上がった。
「みなさん、闘いの影響でボロボロですね。あははっ、いい的ですよ? それでは、私の真空波で首をはね飛ばしてさしあげましょう!!」
つかさは、周囲の人間に手当たり次第に暴行をくわえ始めた。
「ぐわー!!! ぎゃーっ!!!」
疲労困憊の状態で茫然としていた荒くれ者たちは悲鳴をあげた。
鮮血がほとばしり、地面に何かが落ちる。
「ひとーつ、ふたーつ!! あはは、みなさまの血がきれいですねえ。私にもっとかけて下さいませ、血で犯して下さいませ!!」
つかさは微笑みながら、血に染まった手刀をぶら下げて、さらなる獲物を求めた。
「きゃ、きゃああああああ!!」
つかさがやっていることに気づいた少女たちが、悲鳴をあげて逃げ惑い始める。
「あははははは、逃げても無駄ですよ!!!」
つかさは笑いながら、少女たちを追い駆けた。
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