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リアクション
第10章 襲 撃(1)
「今の揺れは何なのです?」
城を揺るがせた振動に、ヨミがぴょんっと立ち上がった。
「はいはい。ヨミちゃんはなーんにも心配しなくていーんですよー」
すっかり母親化したプリムローズが膝の上に引き戻す。
「大ちゃんたちが全部してくれますからねー。
それよりホラ、おやつ食べませんか? おいしいですよ」
「おやつ?」
聞きなれない言葉にヨミの大きな耳がピクピク動く。プリムローズが出してきた細長い茶色の棒みたいなお菓子に、チョコのにおいをかぎ取って、ヨミは瞳を輝かせたあと、あわててぷるぷるっと首を振った。
「だ、駄目なのです。チョコは食べちゃいけないのです」
「これはチョコじゃないですよ。to●poです」
真剣な表情を装って、口に突っ込む。それを噛み砕いて味わったとたん、ヨミの目がとろんとなった。
中央部が空洞になったこのお菓子。そこを埋めているのはもちろんチョコである。
「ね?」
にっこり笑うプリムローズの後ろで、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はあわてることもなく窓から身を起こした。
襲撃があるのは想定内だ。そのために戦場から戻ってきたのだから。
「あれはアナトの部屋のある東館のようだな」
「どうせすぐほかのやつらが迎撃に出るわよ。……でも、ちょうどいいから私も加わってこようかしら」
いいうっぷん晴らしになるかもしれないとアルテミシア・ワームウッド(あるてみしあ・わーむうっど)は磨きあげた2丁の銃を持ち上げる。
「報告の兵は来ないのですか?」
「たしかに遅いですね。行って、確認してきましょう」
本郷 翔(ほんごう・かける)がそう言ってペンを置き、ヨミを見たときだった。
翔の贈ったお守りの首飾り――禁猟区が反応し、輝きを放つ。
「! 皆さん、警戒をしてください!!」
その言葉にかぶさるように、ドアの向こうで騒動が起きた。
あきらかに複数の者が争う音が聞こえる。
「バルバトスの兵がこちらに? 彼らはアナトを狙っているんじゃないの?」
とまどうプリムローズの腕からヨミがすり抜ける。
「うるさいですよ! 一体何事なのです!」
そのまま、とてとてドアに向かおうとするヨミのうなじを、影から上半身を出したマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)がつまみ上げた。
「だめだめ〜。ヨミちゃんは後ろにいてよねー。危ないよー」
ぽい、とプリムローズの手の中に放って返す。
直後、爆音とともに重厚な執務室のドアが内側に向かって吹き飛んだ。
砕けて瓦礫と化したドアの一部が氷結し、そこから白い湯気を発している。
「皆さんこちらに揃い踏みで、大変結構なことですわ。それでしたら、死ぬときもさびしくありませんでしょう?
ここでまとめて殺してさしあげましょう」
硝煙くゆらせる魔道銃を手にした秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が、下唇をぺろりとなめる。
彼女の左右から、まるで地獄の番犬のごとくバルバトスの魔族兵が次々と室内へなだれ込んだ。
「ちょ、ちょっちょっちょっ! どーなってんだよ? これー!?」
廊下の端からそれを目撃して、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は目を見開いた。
魔族兵の一部は、廊下にいた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)やシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)とも戦っている。見つかってはまずいと、あわてて角に飛び込んだ。
物音を聞いた気がしたつかさがそちらに目を向けるも、姿はない。ギリギリセーフだ。
「……なんだ? あいつら。アナトが目的じゃないんか?」
こそ、と覗いて確認する。
ジェライザを背後にかばい、スプレーショットを撃つシン。2人に向かい、魔弾が撃ち込まれる。そのうちの1発が、ゲドーのすぐ近くの壁を削った。
どう見てもヨミを狙っての襲撃だ。
しかも多勢に無勢。相当数が部屋に飛び込んでいったのに、つかさの周りにはまだ20を超える魔族がいる。
「マジか、マジか、マジかよー」
てっきりやつらはアナトが目的だからここは安全だと思ってたのに!
どうする? どうするよ? 俺様!
「とりあえずローゼちゃんに連絡だ。このことをロノウェちゃんに伝えてもらわないと」
そうしたら援軍が送られるか、ロノウェちゃんが直接来る!
襲撃がバルバトス兵である証拠写真を写メでパチリ。
ロノウェならここがヨミの部屋であることが分かるだろう。
「早く出て、ローゼちゃんっ。早く早く」
発信音が数回続いたあと。
ローゼ・シアメール(ろーぜ・しあめーる)が携帯に出た。
『あははっ! パパ! どうしたの〜? お城でお仕事の最中でしょー?』
「ローゼちゃん! いいか、よく聞け。今から送る画像をロノウェちゃんに見せて、ヨミちゃんサマがバルバトスに――」
『えー? なにー? よく聞こえなーい。パパ、声ちっちゃいよぉ〜』
それは声を大きくするとバレちゃうからです。
「くそ。メールにするべきだったか」
あとでメールにも書くとして、今はとりあえず話を続けよう。そう決めて繰り返そうとしたときだった。
『……なに? バルバトス様……あの、いえ、これは何でも……えっ? きゃ…………やだっ! パパ! パパ! パパ!』
――ブツッ。プー、プー、プー……
「ろっ、ローゼちゃん??!!!」
「どうかしましたか」
角から向こうの様子を伺っていたシメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)が問う。
「ローゼちゃんがバルバトスに捕まった……らしい」
呆然と手の中の携帯を見つめるゲドー。震える手で握り締め、立ち上がった。
「くそっ!」
ざけんな! あのババァ!!
「どこへ行くんです? われわれはヨミ様を助けなくければいけません」
そのまま駆け出そうとしたゲドーの肩をシメオンが掴み止めた。
ロノウェに忠誠を誓っているシメオンには、ローゼの救出よりもヨミを守ることが優先する。
「ローゼちゃんを助ける……けど、その前にヨミちゃんサマを助ける布石をしておく」
その言葉にシメオンの手がはずれる。
「ヨミ様はこちらですよ?」
「いいからおまえも来い!」
* * *
「こんな物を持ってるなんて、いけないコね〜」
笑みを浮かべてバルバトスはとりあげた携帯を握りつぶした。
パラパラと落ちる残骸を、ローゼは地に手をついたまま見る。面は青ざめていたが、気丈にもバルバトスを見る目の力は強かった。
「こんなことしたって無駄よ! パパにはバレてるんだから。パパがすぐ来て、助けてくれるもん!」
「あらそう? じゃあゆっくり待てる場所に連れてってあげる。ここはちょっと、危険だものね〜」
後ろ手に拘束し、バルバトスはローゼをとある天幕へ連れて行った。
入口の垂れ幕をめくり、中へ突き飛ばす。
そこにいたのは、半裸でじゃれ合っているハヅキと九十九……。
「新入りの子猫ちゃんよ。
彼女のパパが来るまであなたたちで楽しませてあげなさい」
「はい、バルバトス様♪」
からみあわせていた四肢をほどき、四つん這いでローゼににじり寄る。
「や、やだ……来ないで」
情欲にとろんとした目をして、どう見ても正常じゃない2人の様子に、地面に転がったままあとじさるローゼ。
「早くパパのお迎えが来るといいわねー、迷子の子猫ちゃん」
氷のような微笑で一瞥し、バルバトスはその場を去った。
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