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リアクション
第7章 決 戦(1)
行軍を始めて数時間を経、東カナン騎馬軍団はロノウェ軍と対面した。
予想通り横陣を敷いて待ち構えるロノウェ軍と、その数はほぼ同数に見える。しかし壁のようにそびえる5〜6メートルサイズのゴーレム級魔族の存在感が圧倒的だ。
「エレオノール、合図を」
「はい」
セテカと肩を並べて乗った馬上で、エレオノールは矢をつがえた。上空高く射放たれた鏑矢は、疳高い鳥の鳴き声にも似た音響を戦場に響かせる。開戦の合図だ。
弓騎馬隊が次々と火矢を放ち、戦場をあかりの下に照らし出す。同時に、数千の軍馬がいっせいに蹄を突き立て、地を揺るがし、怒涛のごとく戦場へなだれを打った。
通常ならば、先頭を行くのは速騎馬隊だ。速度重視の軽量の鎧をまとい、敵に斬り込み、疾風のごとき速さで敵を混乱させ、陣形を崩す。だが今回、敵陣形の先頭は生きた壁、ゴーレムタイプの魔族だった。そのため、魚鱗の先頭となるのは厚い鎧をまとった重騎馬隊の役目となった。移動速度はいささか落ちるが仕方ない。
そして、その突撃を担う重騎馬隊を率いるのが、御凪隊である。
「行くよ、真人! 白! トーマ! そしてみんな!
勇ある者よ、この剣の下に続けーーーっ!!」
光の翼をはためかせ、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が先陣を切った。
白鳥の羽衣に七輝鎧をまとい、強化光翼で飛ぶ彼女はうす闇の中白光を放ち、無数の魔弾と魔力の塊が飛びかう中、敵に向かう1本の矢のごとく後続の者たちを力強く導いていく。
「ねえちゃん、輝いてんなぁ」
トーマ・サイオン(とーま・さいおん)が見惚れた声でつぶやいた。
そのつぶやきを聞いて、隣で馬を駆っていた御凪 真人(みなぎ・まこと)の口元に笑みが浮かぶ。彼も今、そう思っていたからだ。
まさに水を得た魚。ヴァルキリー、戦乙女はこういうときにこそ、その真価を見せるのかもしれない。
戦場にありて彼女を信じて戦う者を護り、鼓舞し、そして勝利へと導く。
魔弾を受けた重騎馬兵が盾や鎧をへこませる程度ですんでいるのも、彼女の護国の聖域のおかげだ。
そう思うと、まるでわがことのような誇らしい気持ちが胸に湧き起こる。
(もっとも、これ以上近づくとなればこれだけでは不十分ですね)
禁じられた言葉の詠唱で魔法力の底上げをした真人は正面の、今まさにこちらへ向かって魔力の塊を撃とうとしていたゴーレム型魔族に向けてファイアストームを放った。
セルファを追い抜いて巨大な火炎が走り、敵前線にぶつかる。
「さあ、おまえたちも行きなさい」
召喚獣:サンダーバードとフェニックスを呼び出し、向かわせた。ファイアストームの炎が完全に消え去る前に、続くように飛び込んで敵を驚かせ、その白い稲妻で翻弄するサンダーバード。フェニックスは戦場を舞って、燃え盛る赤き炎で周囲を照らしだす。
「うおー、にいちゃんもかっけー」
「いいからおまえも自分の役目を果たしなさい」
真人が笑って叱咤する。
「突撃の先陣は横からの攻撃に弱い。向こうもそれと知っているはず。どこに伏兵がひそんでいるかしれません」
「う、うん」
トーマは殺気看破と超感覚を発動させた。その一瞬で、反応を感知する。
「そこっ!」
八方手裏剣を放った先、周囲に溶け込むようにカムフラージュされた塹壕から飛び出した魔族兵がぎゃっと胸を押さえて倒れる。
居場所を知られたと悟って続々と姿を現す魔族兵たちを見て、トーマはパッと馬から飛び降りた。
「トーマ?」
「あとから追いつくから先行ってて」
地響きをたてて後方から迫る重騎馬兵たちの前を千里走りの術で駆け抜ける。隠形の術で気づかれぬまま距離を詰めたトーマは、いきなり目の前に飛び出して見せた。
「なっ!?」
突然の出現に驚いた彼らは弓を射ようとした手を止める。その一瞬に鬼眼が輝き、彼らを縛った。
畏怖している隙にしびれ粉を撒き散らし、完全に彼らの自由を奪う。
「きさま!」
少し離れた場所で怒声とともに矢が放たれ、トーマを襲った。背を貫いたと思われたその矢はしかし上着を裂いたにとどまり、次の瞬間トーマは彼の背後をとる。死角をつくブラインドナイブスの一撃は、声をあげる暇すら与えない。
「お、おのれ……」
しびれて動けずにいた魔族兵の1人が、震える手でどうにかして弓をつがえようとしていた。それを下に見て、トーマはニッと笑って闇にまぎれる。
「どこだ? 小僧、どこへ消えた!?」
「へへっ。あせってるあせってる」
周囲を警戒している魔族兵をしり目に、隠形の術でトーマはその場を離れた。無力化さえしてしまえば、わざわざとどめをさす必要はない。
「さーって、早くにいちゃんたちと合流しないと――って、うわっ!!」
突然前方をよぎったヴォルケーノを、ぶつかるすれすれで回避した。
「あら? ごめんなさい。気づかなくて」
しりもちをついたトーマに気づいたヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)が少し先でヴォルケーノを止める。
「おわびに乗せていってあげましょうか?」
「どこへ?」
「前線へ」
にこっと笑うヨルディア。トーマはぴょんっとヴォルケーノに飛び乗った。
「はああっ!!」
最前線では、敵の防御を突き崩さんとセルファが奮闘していた。
白のかけた荒ぶる力で膂力を増した彼女は、まさに猛虎のごとく眼前の敵にレーザーナギナタをふるっている。レーザーナギナタはライトブリンガーの効果でまばゆいほどの光輝を放ち、闇に慣れた魔族兵の目をくらませた。
「セルファ、熱くなって、あまり突出するでないぞ」
ころあいを見計らい、後方から名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)が注意を促す。
「うん、ありがとう、白!」
そう応えながらも、セルファの目は周囲の敵から離れず、白を返り見ることはない。白はうさんくさげに見たものの、それ以上重ねて言おうとはしなかった。
実際、今のセルファは斬り込んではいるが斬り込みすぎているわけではない。ちゃんと自分で制御できているようだ。そんなセルファの心配よりも、白にはしなくてはならないことがあった。やはり強固な敵壁に穴を穿たんと戦っている重騎馬兵たちの補助だ。荒ぶる力で攻撃力を増加させ、光術を用いて前線を明るく照らす。影から不意の攻撃を受けて、やられることのないように。
しかし、そうして剣や槍はかわせても、ゴーレム型魔族兵の隙間から撃ち出される魔弾が着実に重騎馬兵を戦闘不能へと追いやっていっていた。
セルファの護国の聖域によって即死はまぬがれているが、鎧がへこむほどの衝撃を受けて中の人間が無事ですむわけもない。軽傷には白がヒールを、深刻なものには真人が命のうねりをかけていたが、それも限りがある。このままでは時間の問題に思われた。
しかし戦いは始まったばかり。場は、まだ膠着したわけではない。
そこに、プロミネンストリックを用いて十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が駆け込んだ。小回りのきく機動力で魔弾をかわし、両手に持った緑竜殺しで前列ゴーレム型魔族兵の足を狙っての一撃離脱。彼を掴もうと振り回される腕をかいくぐり、再び距離をとった宵一は緑竜殺しに爆炎波をかけ、敵の体を駆け上がるやその焔でもって相手を袈裟懸けに斬りつけた。
炎は傷を燃やし、ゴーレム型魔族兵を燃やす。苦鳴の声を上げ、めくらめっぽう手を振り回して敵を近づけんと暴れるゴーレム型魔族兵に、とどめとばかりに後方から飛来したヴォルケーノのミサイルがぶつかった。
ミサイルは爆発するとともにゴーレム型魔族兵を後方へ吹き飛ばし、その自重でもって後方の魔族を押しつぶす。
一切無駄のない、連携のとれた攻撃だった。それを彼は眉ひとつ動かさず、荒ぶる声もあげず、淡々と行っていく。
爆発の黒煙が消えるのも待たず、あいた穴を埋めようと素早く動く左右のゴーレム型魔族兵を見て、再び攻撃に出る宵一。同時に、真人が反対側のゴーレム型魔族兵に向け、天のいかずちを放った。
前線におけるミサイルと炎の光は後方のロノウェにも見えていた。
ひときわ巨大なゴーレム型魔族兵の肩に立ち、高処から全体を見据える。
ロノウェの采配の手が、水平に振られた。
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