リアクション
* * * ナナたちが敵左翼に突撃をかけたとほぼ同時に、ラック・カーディアル(らっく・かーでぃある)が右翼に攻撃をかけた。 「プランCってとこだね」 中距離の位置から弓騎馬兵に矢を射かけさせる。前もって通達してあったラックの作戦に忠実に、弓騎馬兵は正面ゴーレム型魔族兵ではなく、その上を超えるように矢を放つ。放物線を描き、落下の加速で威力の増した矢は、魔弾を放つ魔族兵に雨のように降りそそいだ。 彼らの攻撃に気づいた前衛のゴーレム型魔族兵が、矢の出所目がけて魔力の塊を撃ち込む。さながら砲撃のような音を立てて空を渡ったそれは、地面に命中した瞬間ドゴン! と重い爆発音を発した。まるで噴水のように数メートルの高さまで巻き上げられた土や石ころがパラパラと音をたてて降ってくる。 しかし人間の悲鳴は一切ない。そのための放物線でもあった。射たあとはすぐさま場所を移動するように指示してある。 「第二射、かまえ」 弓騎馬兵とは別方向の暗がりに潜むラックにも、弓騎馬兵の姿は見えない。彼は目を閉じ、戦場の友であるスナイパーライフルを抱いて、彼らの姿をまぶたの闇に思い描く。 「斉射」 すると、まるで彼の言葉に従ったかのように、ひゅんっと空を切る矢の音が聞こえた。 うす闇の空に、数十の炎の花が開いている。火矢だ。それは狙いどおり油袋をくくりつけていた最初の矢と同じ場所に落ちて、周囲一帯を一瞬で燃え上がらせた。 もっとも、こういう炎はよほどうまくいかない限り、そう長くは続かない。それと知るラックは、火の手が上がった瞬間に狙撃を開始した。シャープシューターの効いた弾丸は、確実にスコープの中の敵の急所を貫いていく。 長く同じ場所から撃っていれば、やはり居場所を悟られる。狙撃に集中するラックのかわりに周囲の警戒に努めるイータ・エヴィ(いーた・えびぃ)の指示に従い、ラックは定期的に移動し、そこから狙撃をしてはまた移動を繰り返した。 イータが索敵を終えた座標位置に移動しながら、ふと、今朝の出来事を思い出す。 「イータ」 『んん? ――何?』 携帯から聞こえた声は、くぐもっていた。モグモグと口が動く音が聞こえる。 「……おまえ、また食べてるのか」 『ギクッ。――あ、あの、ラック、もうお昼近いんだよ。知ってた?』 だから何だというのか。 いや、まぁ、ちゃんと作戦は遂行しているんだから、その片手間に何をしようが文句をつけることではないのかもしれないが。 なんだかシリアスに話そうと思っていたことがばからしく思えてきて、ラックは一度開けていた口を閉じた。 「……弓騎馬兵たちにけが人が出ていないか、確認しておいてくれ。それと次の油矢を頼む」 『了解!』 あたふたと携帯を切る音がする。ツー、ツー、と発信音を立てる携帯を見て嘆息をついたラックは、ポケットにしまった。 今朝彼女が落ち込んでいるように感じたのは、きっと気のせいだ。おまえの気持ちも考えずこんな所まで連れてきてしまってごめん、なんて、謝ろうと思ったなんて気の迷いに違いない。 あれはいつものイータだ。物事を深く考えず、元気いっぱい、天真爛漫で、常に何かを口に入れてないと気がすまなくて……。 「ま、地上へ帰ったら、お気に入りの店にでも食べに連れて行ってやるか」 それもたまにはいいかもしれない。 そんなことを考えながら、ラックは指示された次のポイントへ馬を走らせた。 |
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