校長室
Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)
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それを発見したのはノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)だった。 発見したというか、発見してもらったというか。自らをおとりとしてわざと目立つように飛行し、敵に撃たせたのだ。 それはうまくいった。問題は、彼を発見した相手が1人ではなかったということだ。 エネルギー弾と真空波は、2方向から飛んできていた。 (むう。2体いるのであります。これはどちらかに絞るべきでしょうか?) 下からの攻撃をかいくぐりながら思案する。 しかしすぐに、これは自分が考えるべきではないと丸投げ――もとい、テレパシーでルイ・フリード(るい・ふりーど)に指示をあおいだ。 「ふーむ、2体ですか。どうしましょう? 鼎さん」 ノールからのテレパシーを受けて、ルイはさらに判断を六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)に丸投げした。ただし。 「1体は少年、1体はサラサラ白金の流れる髪が印象的な超美少女だそうです」 完璧私情が入っている。 「それは――」 「少女でしょう」 真面目な顔してキッパリ答えたのはディング・セストスラビク(でぃんぐ・せすとすらびく)だった。 「世間一般的に考えて、少女の方が少年より非力で捕らえやすいですからね」 「……いやディング、キミそれ思いっきりウケねらってるでしょう」 「どこがです? この際性別などかまっていられないんじゃないですか? あなたこそ何考えたんですか? 馬鹿ですか? 死にたいんですか? なら1人でどこかそのへんで死んでください。巻き込まれは迷惑です」 あうう。 絶対自分の読みの方が正しいと思うのに、鼎は勢いで押し切られてしまいそうになる。 2人の姿にサミュエル・コルト(さみゅえる・こると)ががははと大笑いした。 「まあまあそのへんにしとけ。 俺もよ、ガキでも相手すんなら断然美少女の方がいいんだが、さすがにちーとばかしそりゃ悪ふざけすぎだろ? 相手の激怒買ったってしゃーねぇっていうのもあるが、女と男じゃ構造が違うかもしれねぇ。優先すべきは成功確率、だろ? 今回は」 「そうです」 コルトが味方になってくれたことにほっとして、鼎はルイにあらためて要望を出した。 「少年でお願いします」 「――了解したであります」 ルイから返答を受けて、ノールは少年のいる座標位置を銃型HCに打ち込んだ。 「きました」 ピピピと小さく音がして、リア・リム(りあ・りむ)は自分の銃型HCを見た。 あらかじめノールから受け取っていた上空からの地形図に、今では白く点滅する点が浮かんでいる。 「11時の方向、直線にして約7キロです」 「ええ。こちらにも入りましたよ」 ルイもまた、自分の銃型HCを見てにっこり笑う。 七刀 切(しちとう・きり)が、ひょいとリアの銃型HCを覗き込み、座標を確認した。 「んー、じゃあ作戦開始といきますかねぇ」 周辺の地理は全員すでに頭にたたき込んである。 前をふさぐ倒木も岩もものともせず、すべるように疾駆する仲間たちを見て、切は笑みを殺しきれない。 「切くん、何笑ってるんです?」 ヘリファルテで並走しているリゼッタ・エーレンベルグ(りぜった・えーれんべるぐ)が訊いた。 「ん〜、やっぱ、この感覚いいなぁと思ってさ」 だれに気兼ねすることもなく。自分のことだけを考えて、1人自由気ままにやるのもいい。けれど、みんなで1つのことを目的として動くこの連帯感も、やっぱり肌に心地よかった。 リゼッタも、それは分からないでもない。が。 「要さんによると今度の相手はかなりの強敵だという話ですから、そんなにへらへらしていると思わぬけがを負って、みんなの足手まといになりかねませんよ」 と、一応釘を刺しておく。 「ああ、それはやばいねぇ」 しかし切の返答は、やっぱりどこか腑抜けたものだった。 リゼッタがふうとため息をつくのを聞きながら、切もまた、自分に真剣味が不足していることを自覚する。 でもしかたない。楽しいものは楽しいのだ。 そのなかには、ドゥルジを知らないこともあるだろう。彼はドゥルジが蒼空学園を襲撃したとき、その場にいなかった。海辺でどんな死闘を繰り広げたかも。 一応要たちからひととおり、どんな相手だったかは聞いている。 『ドゥルジ1人でみんなかなり手こずったんだ。それが大勢いるって……ぞっとしないよねぇ』 直接ドゥルジと戦って一度敗北したせいか、それとも別の要因からか、要は暗い表情でそう話を締めくくった。ちらちらと、リゼッタと話している霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)の方をうかがったりしていて。 どうやらこの作戦にもあまり乗り気ではないらしい。 それでもこうして彼らと一緒にいるのは、彼らが「仲間」だからだ。 もちろん調査隊のひとたちを救出しないと、という思いもあるだろう。でもそれならこの作戦には加わらず、遺跡へ向かう道を選択していたはず。 結局要もやっぱり切と同じだ。 自分が今感じているみんなとの一体感を感じて、楽しんでいるに違いない。 切はますます笑みくずれた。 「いました」 カモシカのように岩場を駆け上がり、目標の地点へ到達する。ノールからの連絡どおり少年の姿を見つけて、先頭を走っていたリアが足を止めた。 ただし、彼らの思惑どおりにいっていたのはそこまでだった。 銀髪、赤眼の少年は2人いる。 「……あらら」 「ガジェットさん…」 「これどゆこと!? あいつ、こんなこと全然言ってなかったよ!」 頭イタタタと半面をおおうルイの横、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)――セラが憤慨する。 「ガジェットさんの連絡後に現れたのか、それとも最初から2人だったのか、それは分かりませんが、やるしかないでしょう」 奮起して、ルイはナノ治療装置を自分の体へ打ち込む。彼の武器はその肉体だ。 「1体は破損してるみたいだね。あっちは俺たちが引き受けるよ」 「了解です。よろしくお願いします」 驚天の闘気をまとわらせたこぶしを、ガツンと胸の前で打ち合わせて。ルイはパートナーのリア、セラとともに完動体の少年の方へ向かった。 (ドゥルジ、だねぇ) スプレッドカーネイジを連射し、自分の方へ注意を引きつけながら要はしみじみと思った。 ドゥルジに、要は複雑な感情を抱いている。パートナーで恋人の霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)に石を撃ち込み、彼女を苦しめたことは今でも許せない。 だけどその一方で 『なぁ人間。俺は、おまえたちのそういうところは嫌いじゃないよ』 そう言って子どものような無邪気さで笑った顔も忘れられない。 結局ドゥルジが何をしようとしていたのかは知らないままだ。シラギを襲った理由はあとで佑一たちから聞かされた。けれどなぜ彼があんなにも<石>を集めることに執着していたのかはなぞのまま、ドゥルジが消滅することで事件は終結してしまった。 要が終わらせたのだ。 腰に吊るしてあった石の袋を撃って、エネルギー弾の弾道へ彼を導いた。 そのときドゥルジは何か叫んでいたが、それも浜辺にいる彼の元へは届かなかった。 (これがあのドゥルジだったら、あのとき何て言ったか、教えてもらえたのかな) ふと、そんなことを思う。 胸部にひびを入れた少年が要に向かって一気に跳躍したとき、念動球が側面から彼を打ち落とした。 榊 朝斗(さかき・あさと)のPPWだ。刺又型に展開し、レーザーで攻撃をしている間に、要は背後の林立する木々のなかへまぎれ込む。 PPWは少年の高速攻撃を受け、数秒で破壊された。 その隙に彗星のアンクレットで背後へと回り込んだ悠美香が梟雄双刀「ヒジラユリ」で斬り上げる。しかし少年の反応の方が早かった。剣はバリアに阻まれ、髪ひと筋傷つけることができない。 「くっ…!」 少年のこぶしを剣の腹で受け止める。ブレイドガードを発動させているはずなのに、それでも後ろへ滑った。 (だめ、まともに受けてたらこちらの手がもたない…!) 枝を折り、幹を削るこぶしや蹴りを、悠美香はパリイで受け流した。パリイとは近接格闘技における回避技である。敵の技を捌き、力を別方向へ逃がすことで攻撃を無力化する。エネルギー弾や真空波は、発動の気配を見てとった段階でサイコキネシスをぶつけることで散らすことができた。 ときには遮蔽物として木を利用し、そうして回避に専念することで少年の動きについていこうと試みる。一見成功したかに見えたが、やはり長時間は無理だった。 こぶしがほおをかすめ、その衝撃に脳がくらりと揺れる。木の根につまずき、悠美香はバランスを崩した。 「あ…っ」 それを隙と見た少年の回し蹴りが即座に悠美香の後頭部を襲う。 「悠美香ちゃん!」 要が側面から二丁拳銃で銃撃し、少年を吹き飛ばす。 このとき、ルーフェリア・ティンダロス(るーふぇりあ・てぃんだろす)がようやく到着した。 「ちッ! もう始まってやがる」 要の攻撃を地面を転がって避ける少年の姿に舌打ちをする。 「八斗、おまえはここで休んでろ」 そう言って、背負ってきた八斗を適当な木の下に下ろした。八斗は走っている途中ついに体力の限界にきたか、うずくまっていたところを捜しにきたルーフェリアに救助されたのだった。 「うん……ルー姉、ごめんね」 「おまえの面倒なんか見なれてる。こんなのなんてことないさ」 ほら、これ一応持ってろ、と紅鉄傘を開いて握らせるルーフェリアの手に、八斗はせめてもとパワーブレスをかけた。清浄化や命のうねりなど道中使ってみたが、やはりこの不思議な病気には効果がないようだ。ルーフェリアの微熱や耳鳴りは一向に解消されない。 「これくらいしか……できそうにないや…」 「――十分だ。すぐ終わらせるから、おとなしくここで待ってるんだぞ」 「……うん。待ってる」 素直にうなずく八斗を、なぜ不思議に思わなかったのか――あとになって、ルーフェリアは転がった紅鉄傘を見て後悔に震えながら何度も考えた。 「俺、待ってるからね、ルー姉…」 胸のなか、幾度もリフレインすることになる、八斗の言葉。 しかしそれは今ではない……。 それは、突風が吹き鳴らす枝葉の音に似ていた。 「要! 後ろ!!」 ルーフェリアと2人で挟撃し、とどめをさそうとしていた要の耳に悠美香の喚起の声が突き刺さる。 振り返ったとき、少女はバスタードソードを突き込む寸前まで迫っていた。 「うわっ!!」 反射的、身をねじって避けようとする。少女が地にバスタードソードを突き立て、これを蹴って回避に移ったのを見て、初めて自分が機巧義脚『ミュータント』で銃撃をしていたことに気がついた。 しげみを跳び越えて現れた影が頭上を越えていく。 「こっちはワイらが引き受けた」 一刀七刃を手にした切だった。返事も聞かず、言いたいことは言ったといった様子で振り返りもしない。 リゼッタの陽動射撃を背中に聞きながら、彼は木々に見え隠れする少女の姿を追った。少女は密集する木々の間をすべるように移動しつつ、ときおり切へエネルギー弾を撃ってくる。 「ヘタに時間かけると、さらに援軍呼ばれちゃうからねぇ」 リゼ、と精神感応で呼びかけた。1秒でいいから彼女の足を止めてくれ。 「……1秒、ですか」 また無茶を言う。 ベルフラマントとカモフラージュで身を隠したリゼッタは、木の影でため息をつく。 機関銃はない。対物ライフルの連射では攻撃の阻害はできても釘づけにするのは無理だ。 「しかたないですね。この前考えた、アレを試してみましょう」 リゼッタはライフルをかまえ、場所を移動した。 ちょうど木々の間が開けてスポットになっている位置に少女が踏み込んだタイミングを見計らって遠距離から銃撃する。シャープシューターのかかった銃弾は確実に少女の左足を貫き、同時に足を氷でおおった。グレイシャルハザードだ。 「おお、リゼ、ナイス!」 切は奇構機『フリューゲルブリッツ』を作動させ、瞬時に間合いを詰めた。大太刀を振りかぶった彼の攻撃を止めようと少女がバリアを張る。 「リゼ!!」 「分かってます!!」 ここぞとばかりにライフルが一点めがけて連射される。そこに切も加わった。疾風突きで穴をうがとうとする。一刀七刃の切っ先とバリアの間で激しい光が弾けるなか、榊 朝斗(さかき・あさと)がシュタイフェブリーゼで奇襲をかけた。 バリアは切との攻防で前方に集中し、さらに厚みを増させるために小さくなっている。無防備な少女の首をウィンドシアが背後から一閃した。 コロコロと転がった少女の首は木の根元に当たって止まる。一拍遅れて崩れ落ちる体。 冷酷無比の一刀。 「……朝斗、だよねぇ?」 朝斗は血のりを飛ばすかのように腕を払い、振り返った。 「さあ、どうかな?」