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リアクション
和気藹々と進むプレゼント交換を、久途 侘助(くず・わびすけ)は壁際から見守っていた。輪に入りにくいというのではない。恋人のソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)の給仕姿を見ていたかったからだ。
(ソーマ、格好良いぞー)
心の中で応援すると、通じたのだろうか、ソーマはこっそりと、侘助にだけわかるように手を振ってくれた。それだけで、つい頬が緩む。
それに。こうやって、みんなが笑顔でいる。それだけで、心が満たされるようだ。別に、侘助は神なぞ信じてはいないが、それでも、こういう日があるということを、素直に感謝したくなった。
「次のグループの方々、およびしますね」
そう前置きをして、レモが名前をまた読み上げる。そこには、侘助の名前もあり、彼は荷物を手に持つと、ようやく壁際を離れたのだった。
「まったく……闇の帝王たる私が、何故こんなことを」
レモの頼みでプレゼント交換に参加することになったラドゥが渋い表情で歩みでる。しかし。
「わぁい、ラドゥ様!」
「メリークリスマス!」
ラドゥファンのリン・リーファ(りん・りーふぁ)とリュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)は、クジの結果に素直に大喜びだ。
そんな二人を、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)と関谷 未憂(せきや・みゆう)、プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)は微笑ましく見守っていた。
とくに、なんだか少し前からリンの元気がないことを気にかけていた未憂としては、はしゃぐリンの笑顔に、口にはださないもののほっと安堵する思いだった。
「あたしたちからはね、アドベントカレンダーだよ! 日付のところの窓をあけると、チョコレートが出てくるんだよ」
そう胸をはるリンの横から、未憂が「…ほんとうは12月1日から24日を楽しむ為のものなので、パーティがクリスマス当日だと時期外れになってしまうのですけど……リンが「美味しくて楽しい気がするから」ってこれにしました」と言葉を添える。
「いいね、宝探しみたいで!」
にこにことリュミエールは笑ってプレゼントを受け取る。侘助やエメにも手渡し、最後にくるんと焦げ茶の髪をゆらしてターンすると、リンはラドゥの前に立った。
「メリークリスマス、ラドゥ様。ラドゥ様とラドゥ様の大事な人たちが、元気で楽しくすごせるといいねー」
きらきらの笑顔でプレゼントを差し出すリン。
「……まぁ、受け取っておこう」
ラドゥはやや照れた様子ながら、いつもの素っ気ない口調でプレゼントを受け取った。
次にプレゼンターになったのは、侘助だ。
「俺が用意してきたもの、それはうさぎ饅頭! 手作りだぞー」
用意された可愛らしい和菓子は、食紅で目の色は様々だ。リンとラドゥには、赤い目のうさぎ。エメとリュミエールには、青い目のうさぎと、それぞれと同じ色になっている。
「あ、といっても、中はチョコと生クリームだから…その、食べやすいかなって、作ってみた。よければ食べてくれ」
「わぁ、たくさん!」
「可愛らしいですね」
受け取ったリンと未憂が、そう言い合う。一つの箱には、八匹のうさぎが仲良く並んでいた。
「末広がりの八、8個ってことで。いいことありますように、って願ってるから」
やや照れながら、侘助はそう語り、ラドゥにも手渡す。
「ふむ。ジェイダスと、同じ目の色だな」
そう呟き、ラドゥはじっとうさぎ饅頭を見やった。自分もそうだというのに、それよりジェイダスのことを考えてしまうあたり、ラドゥらしいといえなくもない。
「よろしければ、お二人で、どうぞ」
「……口にあえばな」
そう答えながらも、ラドゥは丁寧に菓子折を手元に置いた。
「私は、こちらです」
エメからのプレゼントは、薔薇のバス用アロマキャンドルだ。
「これは、風呂で使うのか?」
「はい。良い香りがして、とてもリラックスできますよ。冬場はゆっくりお風呂に浸かって癒されつつ暖まってくださいね。長く入るときは水分補給も忘れずに! できたら、半身浴のほうがおすすめです。反復浴も効果的なのですが、リラックスという意味ではやはり……」
お風呂が大好きなエメは、ついつい侘助の手をとって熱弁をふるいはじめてしまう。
「うん。そうだね。えっと、次は僕から」
そんなエメをやんわりひきはがし、リュミエールも皆にプレゼントを差し出した。
「新しい制服用のスカーフだよ。よかったら、使ってね」
スカーフは縁側から中心に向けて、鬱金の金から白のグラデーションになるように染めた物だ。
「これは、リュミエールさんが?」
「うん。最近草木染に凝ってるんだ。面白いんだけど、指先が染まっちゃってね……。いいお手入れ方法あったら教えて欲しいな」
「今度、調べておきますね。ありがとうございます」
未憂がそう答える。スカーフは、リンの髪に結んでやった。
「うん、可愛いよ」
「えへへ」
「侘助君も、ほら。だらしない格好しなーい」
そう言いつつ、リュミエールはボタンの襟元をきちんと留め、首に巻いてやった。
「はい、エメにも。……でも、お互い知ってるから新鮮みはないね」
「そうですね」
二人は互いにプレゼントを贈りあい、そう言って睦まじく微笑みかわす。
最後は、いよいよラドゥの番だ。
「私は、貴様らの喜ぶようなものなどわからないからな」
そう前置きをしたラドゥから贈られたのは、華奢な硝子瓶に入った薔薇の香料だった。
「私の愛用品を、少しばかり分けてやろう。感謝するんだな」
「え、ラドゥ様と同じものなの? 大事に使うね!」
ぎゅうっと抱きついて喜ぶリュミエールに、ラドゥは「おい、離せっ!」と白い頬を赤らめて逃れようとする。せっかくだからと、リンも抱きついて大喜びだ。
「貴様ら、調子にのるなっ!」
そう叱られ、しぶしぶ手を離すものの、二人は嬉しそうな笑顔のままだ。
「まったく……」
まだ照れたままのラドゥに、サンタ帽をかぶったままのジェイダスは愉快そうに笑うばかりだった。
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