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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同忘年会!

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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同忘年会!

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 深夜。
 多くの人々が自宅や宿に戻っていった。
 そして少し、静かになった。
 まるで、百合園女学院自体が、眠りに落ちたかのように。
 そんな中、懐中電灯を手に校舎を巡っていた女性がいた。
「あ、いらした! お姉様!」
 桜月 舞香(さくらづき・まいか)が、桜月 綾乃(さくらづき・あやの)と共にその女性――元白百合団の副団長神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)の元に駆けてきた。
「優子お姉様、あけましておめでとうございます」
「優子先輩、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
 笑顔で新年の挨拶をする2人に。
「うん、おめでとう。今年もよろしく」
 優子は振り向いて笑みを見せた。
「夜間巡回ですか? よろしければお供させて下さい♪」
「私も一緒に行きます」
 舞香と綾乃は優子と並んで歩き出す。
「見回りは、私一人で十分だよ。ホールで皆と一緒に過ごしたらどうだ?」
 優子はそう言うが、舞香は首を横に振った。
「他校の男子交えての忘年会とか、あまり興味ないですし。楽しみにしている白百合団のみんなのお休みの穴を埋めるのも、班長のお仕事です☆」
「他校の女子だけ交えての会なら、キミも楽しめたのかな?」
「そうですね……」
 優子と綾乃と一緒に歩きながら、舞香はため息をついた。
「まったく、忘年会なら何も学院内でやらなくっても、ヴァイシャリー市内のホテルでも借り切ってやればいいのに……」
 思わず不満が口から出てしまう。
「最近なし崩し的に共学化の既成事実積み上げられてるみたいで、落ち着ける居場所が少なくなってきて困るわ」
 そんな舞香のつぶやきを聞いた優子は「はははっ」と笑い声を上げた。
「笑いごとじゃないですよぉ……」
 恨めしそうな目で優子を見る舞香。
「キミも知っているとは思うけれど、百合園の敷地は本当の意味で男子禁制じゃない。外見男子禁制というか。既に公然の秘密だけれど、生徒達の代表である人物が……だしね。それに、キミもラズィーヤさんの特別授業、受けたことあるだろ? ヴァイシャリー家が百合園女学院を経営する理由として……」
「ああ、ダメそれは聞きたくないです。どこにいても、落ち着けなくなってしまう」
 耳をふさいで、いやいやというように舞香は首を左右に振った。
「万が一、共学になったとしても女王に仕える素質がない男子は入学できないだろう。学業以外の目的、特に百合園の女性徒目当てで紛れ込んだ者がいた場合は、私が斬り捨てる。
 私が卒業した後も、この学院には男子のよこしまなオーラを感知できるキミがいるから。私は心配してないよ」
 くすくす笑いながら優子はそう言った。
「神経がすり減ります……」
「ははっ。未来では、同性間にも子供を儲ける事が出来るようになるみたいだし、百合園が男子禁制でなければならない理由も、薄れていくだろう。けれど、現時点での共学化は風見個人が言っていただけで、その可能性は当分ないと私は思っている」
「そうですか……」
 舞香はふうと大きく息をついた。
「ふふ……。あ、そういえばこれ」
 2人のやり取りを微笑みながら見ていた綾乃が、鞄の中から水筒を取り出す。
「アレナさんが作ってたスープ、分けてもらって入れてきたんです。どうぞ」
 蓋を開けて、コップの中にスープを注ぎ、綾乃は優子に差し出した。
「ありがとう」
 立ち止まって、優子はスープを飲む。
 薄味で、野菜の味が良く出てていて美味しい。
 体がぽかぽか温まっていく。
「優子お姉様は、ホールに顔を出さないんですか?」
「……顔は出したよ」
「年始の挨拶回りはまだされてないでしょ? なさらないといけないお立場じゃありません?」
「それは、夜が明けてからでも……」
「でも、日の出を見ましたら、皆帰ってしまいます。なかなか会えない方もいるでしょうに」
 例えば、アレナとだって。
 一緒に暮らしていた頃ほど、顔を合せているわけではないはずだ。
(抱え込み過ぎなところは相変わらずなんだから……)
 舞香はそう思いながら、言葉を続けていく。
「巡回なんて、現役団員に任せて頂ければいいんです。後は引き受けますから、お帰りになる前にアレナさんのところにちょっとでも顔出してあげて下さい。一年の計は元旦にあり、なんですから――一番大事な人とは真っ先に会っておかないとだめですよ?」
「ここは私達に任せてください。パートナーの人と一緒に居たいって気持ちは私も良く分かりますし」
 空いたカップを受け取りながら、綾乃も優子にそう言った。
 優子は少し考えた後。
「部屋で待つことにするよ。アレナも皆と楽しんだ後、泊っていくだろうから」
 優子は東シャンバラのロイヤルガード宿舎に戻るという。
「巡回、任せてもいいかな? といっても、自主的にやっているだけで、しなきゃいけない仕事ってわけじゃないんだけど」
「やりますよ! 他校の契約者も大勢残ってるし、初日の出暴走、とか言って酔っ払ったパラ実生辺りがバイクで突っ込んできたりしたら大騒ぎになっちゃうしね」
 舞香がそう言って綾乃を見ると、綾乃はこくりと頷いた。
「私は、まいちゃんと一緒に居られればどこでもいいんです。だから、お仕事でも平気です☆ ……アレナさんもそうかもしれないですね。巡回に誘ってあげたら、嬉しかったかもしれません」
「……うん。それじゃ、よろしく頼む」
 答えた優子の微笑みはいつもより弱かった。
 疲れてるのかな? と舞香と綾乃は思う。
 それともやっぱり何か、抱え込んでいるのだろうか、とも……。
「こちらのことは、大丈夫ですからね」
 そう声をかけて、舞香は優子を見送って。
「――さて!」
 彼女の姿が見えなくなるとトワリングソードを一振りする。
「大掃除のやり残しの汚物は、日の出までにきっちり処分してあげないとね!」
「うん、御片付け頑張ろうね」
 綾乃が優子から受け取った懐中電灯で廊下を照らした。
 校舎は静かだった。
「お化けでも出そうだね」
 綾乃は舞香に手を伸ばす。
 怖かったから、というのもちょっとあるけれど舞香が暴走しないように、掴んでおくためでもあった。
「大丈夫よ。何が出てきても、私のトワリングソードで叩き出してあげるわ!」
 舞香は綾乃と手を繋いで、暗い校舎の中を巡回していく。