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リアクション
「ぜすたーん、こっちこっち!」
明るい笑顔と、元気な声で呼ばれて。
ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)は一瞬、複雑そうな顔をした。
でもすぐに、普段通りの笑みを浮かべて、手を振る少女――リン・リーファ(りん・りーふぁ)の元へ向かった。
「コタツ準備完了ー。ミカンと冷凍ミカンと、バナナもあるよ。飲み物もね!」
リンが用意した炬燵の上には、ミカンとバナナが山積みになっている。
それから、緑茶と甘酒も置かれていた。
イベントの手伝いをしているパートナーの関谷 未憂(せきや・みゆう)やプリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)と一緒に運んできたものだ。
「ぜすたん、美味しそうなお菓子持ってるね、交換しよー」
近づいてきたゼスタに、リンは自らも駆け寄って。
両手を開いて、ハグをした。
「あけましておめでとー」
「おめでとー。リンチャン」
ぽんぽんと、ゼスタはリンの背を叩いて、くしゃくしゃと頭を撫でた。
「なんでわかったんだ? 俺が菓子持ってるってこと」
焼き菓子を取り出しながらゼスタがリンに聞いた。
「配ってるの見て狙ってたの」
「そっか」
「コタツで食べよー」
リンは焼き菓子を貰うと、ゼスタの手を引っ張って、炬燵へと誘った。
「んー。炬燵か。入るとなかなか出る気になれないんだよな、これ」
「うん、でもそういうときはコタツごと移動すればいいんだよ」
「そっか」
笑い合って、2人は炬燵に入った。
「どうぞー。甘酒は熱いよー。バナナはとっても甘いよー」
リンは甘酒をカップに入れてゼスタに渡し、果物を勧める。
「ふふ。こうして皆で寝ないで日の出を待つってなんだか楽しいねー」
ゼスタにもらった甘いキャラメルタルトを食べながら、リンが言う。
「うん……ただ」
「ただ?」
甘酒を飲み、息をついたゼスタが手で自分の目を押さえた。
「……眠くなってきた。はははは……」
「甘酒とコタツの魔力だね! ぜすたん甘い物沢山食べてたしー」
「んー、リンチャンの悪戯期待。甘いのがいいな、ハロウィンの時みたいじゃなく」
彼の声は、ちょっと弱かった。
本当に眠くなってきたらしい。
「ぜすたん、甘いのが本当に好きなんだね……」
でも、彼が本当に好きなのは――欲しいは、一体なんなのだろうかと、リンは思う。
わからない、けれど。
いつでも彼の味方でありたいと、思いながら。
肘をついて手で頭を支えて目を閉じた彼を、見ていた。
(大丈夫、みたい?)
……そんな彼女と、一緒にいるゼスタの事を、少し離れた場所から未憂は心配そうに見ていた。
一時期。リンは元気を失っていた時があった。
仲良くしていたゼスタと何かがあったのではないかと未憂は密かに心配していたのだ。
リンは何も語らなかったけれど……。
「……何か話そうぜ。コタツの魔力に負けそうだ」
ゼスタが目を開いて言った。
「てぇい!」
リンは冷たい冷凍ミカンをゼスタのほっぺたに当てた。
「冷たっ」
「こたつにミカンがセットなのは、こういう使い方が出来るからなんだね。魔力を打ち破る方法!」
続いて、冷凍ミカンをゼスタの懐に入れていく。
「し、心臓が止まる……」
笑いながら、ゼスタはリンの手を掴んで止めて。
入れられたミカンを服の中から取り出す。
「コタツはあげられないけど、ミカンは全部持って帰ってもいいよ。美味しいよ」
座りなおして、ミカンを剥きながらリンは言って。
果肉を指で挟むと、ゼスタに差し出した。
ゼスタは顔を近づけてぱくっと食べる。
「うん、美味い」
ほのぼの、過ごしていると。
「おーい、ゼスタせんせー。手強いのがいるぜ、くすぐっても起きねぇ!」
「脱がして外に転がすかァ」
若葉分校生達の声が響いてきた。
「それじゃ、遠慮なく貰っていくぜ」
ゼスタは菓子を入れてきた袋に、ミカンをいくつか入れると立ち上がる。
「また後で、な」
「うん」
コタツから出て、ゼスタは分校生達の方へと向かって行った。
「……」
コタツに両手を入れて、ぬくぬくしながら。
リンはゼスタをじっと見つめていた。
(いつもあげるお菓子とか、ぜんぶ食べてくれるけど……)
ゼスタの家に遊びに行ってお土産を渡した時、彼がメイドに言っていた言葉を思い出す。
『いいよ、毒見は。信頼できる娘達だし』
(……毒見が必要なお土産よく貰うんだろーか)
気の休まる時なさそうだな、とリンは思う。
楽しく遊ぶだけじゃなく、本音とか弱みも見せられるような、友達いるのだろうか――。
(って、聞いたら、そんなの必要ないーって、言うんだろうね、ぜすたん)
だけど、時々。
彼が泣きそうな顔をしているように、リンには見えていた。