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リアクション
リナリエッタが鈴子と一緒に合宿所から出て行ってから。
(……気づかれてない)
隠れ身を使って、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、ターゲットのミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)に近づいた。
ベッドですやすや眠っているミルミを満足そうに眺めてから。
もそもそっと彼女の布団の中にもぐりこんで。
つんつん、むにむに……は、せずに。大人しくミルミを眺めたり、寝息を聞いたりしていた。
しばらくそのまま、アルコリアは何もせずにいた。
「うーん……」
寝返りを打とうとしたミルミの手が、アルコリアに触れた。
「ん……?」
ミルミが軽く目を開いた。
「アル……ちゃ」
「アルちゃんがこんなところにいるはず無いよねー。夢だよー、もう一度おやすみー」
アルコリアがそう言うと。
「うーん……」
返事のような声を上げて。
「アルちゃん……」
アルコリアを縫いぐるみを抱くかのように抱きしめてミルミは目を閉じた。
そして、すやすやまた寝息を立て始める。
(安心しきってるこの寝顔。完全に二度寝しちゃいましたね)
つんつん、むにむに。
「むふー」
アルコリアは自分に抱き着いているミルミを、弄り始めた。
「むにゅー、にゅー、にー」
「ううーん……」
「にゃぁ!」
「ん?」
「ただのねこですよー」
そんなことを言いながら、うにょうにょ、色々なところを触りだす。
みるみみるみるみみるみるみ――。
無防備なミルミをつっついて、うにうにして、さわってさわって。
「ふ、はははは……あう……」
ミルミがとろんとした眼を、アルコリアに向けてきた。
「がおー、アルちゃんですよー。今度は悪夢ですよー、悪いアルちゃんがミルミちゃんを食べに来てしまいましたー」
「えっ? きゃーっ」
アルコリアは、目を開けたミルミの腕や耳やほっぺをはむはむ、あむあむと噛みだした。
「アルちゃ〜ん、もぉ〜っ」
「食べられる前にもいちど、ねむりのなかにエスケープだー、ねむれーねむれー」
「眠ってから食べる気でしょ、アルちゃん」
「夢ですよー、夢ですよー」
「もうすっかり目、覚めちゃったよ、アールちゃん」
ミルミがアルコリアの頬に手を伸ばして、むにっとし返してきた。
「ミルミちゃんにむにられた! 初むにられです」
感動しながら、アルコリアは数倍むにって返す。
「ふふふふ……あはは……って、大きな声だしたら、ライナちゃん起きちゃう」
側ではライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)がまだ眠っている。
「それじゃ、ここから出る? もう初日の出終わっちゃったと思うけど、朝日だけでも見に行こうか?」
「うん」
ミルミはぐいっと伸びをすると、アルコリアと一緒にベッドから降りた。
「寒い、やっぱり布団の中にいたいかも……」
ミルミがそう言うと、アルコリアが掛布団を引っ張った。
「布団でくるんだまま、包まれたまま行けばいいんです!」
「えっ?」
びっくりするミルミを布団で包んで。
合宿所の外に連れ出すと、朝日が差し込む校庭へと連れて行った。
「毛布ならともかく、布団のままって! ミルミ、こんなことしたの初めて」
「だって、寒い朝ですもの、仕方ないデスヨー。ミルミちゃんをダメな方向に誘惑して堕落させる悪魔なので、アルちゃんは!」
「ううーん、でもお布団いいよね、ぬくぬく〜」
「そうですよー。ということで、いつぞやみたいに包まってみましょうよ」
言って、アルコリアは自分も布団の中に入って。
ミルミと一緒にくるまって、建物と建物の間から射し込む、朝日を眩しそうに眺めていく。
柔らかな光と、布団、そして互いの温もりがとても気持よかった。
さわやかで心地の良い、2023年の元旦の朝だった。