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リアクション
日の出の時間が近づき、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は、友人達と共に、スープや防寒具を屋上に運んでいた。
「重い物は任せてくれ。無理するなよ、アレナ」
一緒に運びながら、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)がアレナを気遣う。
「大丈夫です。私、優子さんの訓練メニュー、毎日ちゃんとこなしてますから、力あるんですっ」
アレナは人一倍張り切って、頑張っていた。
「康之さんこそ、無理はしないでくださいね。私よりずっと荷物持ってますし……」
「こんくらい平気平気!」
康之は荷物を背負いながら、巨大な鍋を抱えていた。
屋上には、テントが設けられている。
テントの中にはストーブがあり、熱を逃がさないよう、テント全体が透明のビニールシートで覆われていた。
中に入って、康之はストーブの上でスープを温める。
「野菜がやわらかくなって、飲み頃です」
蓋を開けて、スープをお玉でかき混ぜながらアレナが言った。
「そうだなー」
味見をして、うんと頷いて。
ストーブで温まりながら康之は言う。
「今年もあっという間に終わったなぁ。色々あったけれど、アレナにとってどんな1年だった?」
アレナにとって、激動の一年だっただろう。と、康之は思う。
もっとも、康之がアレナと出会ってから……もしかしたら、この世に生み出されてからずっと、彼女は長い時をのんびり過ごしたことなんてないのかもしれないけれど。
「色々、考えた1年でした。辛いこともありましたけれど……康之さんと、お友達の皆とこうして一緒に過ごしたこととか、そんなに会えなくなった優子さんと一緒にいる時とか。とても楽しく過ごせました」
「そっか。あ、でもその優子さんは……今日はもうロイヤルガードの宿舎に戻ったんだっけ?」
康之の問いに、アレナは首を縦に振る。
「休むって言ってましたけど……多分何か仕事をしてると思います。そういう、人ですから」
くすりと、アレナは微笑みを浮かべた。
「なるほどー。おっと、スープを入れる器、もっとあった方がいいよな。ちょっと取ってくる! アレナは火を見ててくれ」
「はい、わかりました」
康之はアレナを残して、少しの間その場を離れた。
(お、ゼスタ)
ホールに戻った康之は、若葉分校生達と悪戯をして回っているゼスタに目を留めた。
(アレナが見ている時は比較的おとなしかったけれど……百合園の女の子と仲良いよな、あいつ)
ゼスタと若葉分校生は、女の子グループと仲良く話をしていた。
複雑な感情を抱きながら、康之は紙コップの入った段ボールの元へ歩いて。
段ボールを持ち上げるより先に、携帯電話を取り出した。