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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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 第13章

「おみくじをしよう! 羽純くん!」
「おみくじか……。いいな、行こうか」
 新年のおでかけといえば、やっぱり初詣だ。そして――
(えへへ……初デート♪)
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)と連れ立って空京神社を訪れた遠野 歌菜(とおの・かな)は、うきうきとした気持ちでおみくじ売り場……ではなく恋みくじ売り場に向かっていた。恋みくじとは、その名の通り恋愛運が占えるおみくじだ。
(これで羽純くんとのラブラブっぷりを、新年から実感するんだ♪)
 御利益のある所に行って、2人の愛を深めたい、と歌菜ははりきっていた。初詣とは、乙女の戦争なのだ。もちろん、縁結びのお守りも買う予定である。
(まぁ……すでに愛は凄く深まっていると思うのですがっ! ……って、自分で言ってて照れてきたー!)
 吹き出すような笑い声が聞こえてきたのはその時で、隣を見ると、着物姿の羽純が堪えきれない、というようにおかしそうに笑っていた。
「え? え、なになに?」
 どうして笑われているのか分からなくて、歌菜は慌てた。それから、直前の自分を振り返ってみて、心の中でのひとりごとが全部百面相化していたことに思い至ってはっとする。
 ちょっと恥ずかしくなって、火照った顔をぶんぶんと振る。
(折角着物で大人っぽくを演出してたのに、私のバカバカッ!)
 それがまた無自覚に百面相化していて、羽純は続けて更に笑う。
 歌菜は今年も相変わらずだ。人混みじゃなければ、抱きしめたいくらいの可愛らしさだ。
 ――今年も良い年になりそうだな。
 彼女と神社を歩いていると、自然とそんな気持ちになる。今年もこうして2人で初詣に来れて……幸せだ。
「もう、羽純くんったら笑いすぎだよ……あ、ほら、おみくじ売り場だよ!」
 境内の中に建つ、赤や桃色の布や花模様の装飾が目立つ建物を見つけて歌菜は羽純の腕を取った。期待に胸を膨らませながら、列に並んで順番を待つ。恋みくじというだけあって、集まっているのは振袖姿の女子が多い。
 おみくじは、枠のみが木製の透明な箱に入っていた。いざ、箱の前に立つと、歌菜はまず羽純に言った。
「ね、引いてみて引いてみて!」
「そう急がなくても、おみくじは逃げないぞ」
 わくわくとした笑顔を傍に、羽純は箱の中に手を入れる。歌菜はおみくじの正体に触れていないが、彼はこれが恋みくじだと知っていた。歌菜の目当てのもう1つが縁結びのお守りだということにも気付いていたが、悟られたくないみたいなので知らないフリをしてくじを選ぶ。
 ひっぱりだした紙を見て、歌菜は弾んだ声を出した。
「ねえ、どうだった? 大吉だといいね!」
「2人同時に見せ合おう。次は歌菜の番だぞ」
「うん。もちろん、私も引くよ……!」
 彼のおみくじの結果と、これから引くくじの結果、2つの中身が何なのかドキドキしつつ、歌菜は沢山のくじの中から1つを摘む。
(……今年も、よい1年になりますように♪)
 願いと祈りを込めてそれを引き出し、2人で頷き合って箱から離れる。大幣を持った巫女に見送られて空いた場所に移動して、歌菜は嬉しそうに持っていたくじを開いた。その途端に彼女の表情はぱっと輝き、羽純もくじに目を通したのを確認すると、一度視線でタイミングを合わせてから掛け声をかける。
 こういう時、羽純は結構ポーカーフェイスが上手だったりするから何が出たかは分からなかったのだけれど――
「せーの! ……あ!」
「……大吉だな」
「良かったー、2人とも大吉だったね!」
「そんなにほっとするなんて、本当に楽しみにしてたんだな」
 お互いに、正面から見る文字も逆から見る文字も大吉だった。恋みくじといっても2割くらいは恋愛以外のことも書いてある。ちょっと女の子っぽい、普通のおみくじという感じだ。『待ち人:もう出会っている』とか『恋愛:末永く今の恋が続くでしょう』とか出ているのは、まるで見てきたようだな、と思わなくもない。
 恋みくじにそんな感想を抱きながら、おおげさじゃないか? と羽純が言うと、歌菜はちょっと焦ったように顔を上げた。
「えっ……うん。縁起が良い方がやっぱり嬉しいし! このおみくじ、結び付けしていこうね♪ あっ、その前にお守りをげっとしなきゃ!」
 恋愛用のおみくじだったし、本気の本気だったんだよ! とは言えないので誤魔化しつつでも本音でそう言うと、羽純は仕方ないな、というような苦笑を浮かべてついてくる。その視線には確かな愛があって、歌菜はまた幸せな気持ちになった。

(こう、いかにも縁結びってお守りだと、羽純くんにさりげなく持ってもらうのが難しいから、さりげないデザインのものがいいな……)
 お守り売り場には、色やサイズの異なる幾つかの見本品が並んでいた。どれにしようかと考える歌菜の後姿を、羽純は割合遠くから見守っていた。
 一緒に行くと『縁結び』が第一目標だとバレてしまうからだろう。「ここで待ってて!」と言って彼女はお守りを買いに行った。
 羽純としては、初詣の目的が恋愛メインでも別にいいのだが、結局、歌菜の反応の数々が楽しくてそれは黙ったままにしてあった。
「ん? あれは……」
「ホレグスリ! ホレグスリを買わないか!? 新年特別価格だ! リア充になりたいだろう!? そうだろう!」
 見たことのある小瓶を詰めた箱を持って、袴姿の筋肉ムキムキ男が人波の中を歩いている。人々はうさんくさげにしていたり、興味はあるがムキムキ男の雰囲気に近付くのを躊躇していたり、と彼の周りにだけ一定の空間ができていて待ち時間なしで購入できる。
 以前、ホレグスリを使って過ごした時のことを思い出し、羽純はムキムキ男に近付いた。
「1つ欲しいんだが」
「1つだな! 550Gだ!」
 新年特別価格で50G割り増しになっているホレグスリを購入して元の場所に戻る。歌菜はまだ、お守り売り場と向き合っていた。こちらの様子には一切気付いていないだろう。
(このピンクとブルーのお揃いのお守り、可愛いし、縁結びって大きく書いてないし……いいかも♪ よし、これに決めたっ)
 お守りを決めた歌菜は、巫女に声を掛けて縁結びのお守りを2つ、そして厄除け、招福、加護のお守りを買った。これらも、もちろん大事だ。
「お待たせ! 羽純くん、はい♪ いつも身につけてね」
「ああ、ありがとう」
 ピンクのお守りを自分用に、ブルーのお守りを羽純に渡す。微笑と共に彼がお守りを受け取ると、歌菜は石敷きの境内を歩き出した。
「初詣も無事に終わって、お腹減ったね♪ 何か美味しい物を食べに行かない? 羽純くん」
「そうだな。寒いし、何か暖まる物がいいかもな」
 彼女と軽く手を繋ぎ、仕舞ったばかりの小瓶を意識しながら羽純は言う。ホレグスリを買ったことは、歌菜には秘密だ。
(ナイショはお互い様……だろ?)
 ……今夜が楽しみだな。