百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

リアクション公開中!

四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

リアクション

 
 第18章

 望達が持ってきた甘酒を飲み(流石に4人では手が足りなかった為、人数分の紙コップと大きめの鍋を提供してもらった。謎の品目の割に親切な店主だったらしい)、おみくじを引きに来たちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)は、ファーシーの肩で1番にくじを引く。
「……にゃ!」
 巨大ポスターのようにして広げたおみくじには『大吉』とあった。
「わっ、大吉! 良かったわね、ちびあささん!」
 それを目にしたファーシーは、自分の分を引いた後にイディアにも筒の振り方を教えておみくじを引かせた。売り場から離れて同時にくじを開き、手元にある『大吉』と娘の『中吉』を見比べる。
「えっと……わたしのは『今年中に転機が訪れるでしょう。物事を1つに絞ると大吉』……イディアのは『未知なる介入がなければ、今年は平和に暮らせるでしょう。多分』。多分? ……でも、平和に暮らせるならいいわよね!」
「やっふぅー! ファーシー様も大吉だったのでありますね! スカサハも大吉だったであります!」
 そこで、続けておみくじを引いたスカサハは元気にその紙をひらひらと降った。彼女の隣では、満月が穏やかな笑みを浮かべている。といっても、満月は凶だったのだが……微笑の下でも落ち込むことはなく、不安を抱くよりも更に決意を強めていた。それが覚悟の誓い。未来のスカサハが教えてくれた『想い』の力だから。
「フィアレフトさんはどうでした?」
「私? 私はねー……あ、吉だ」
 フィアレフトの顔に、純粋に嬉しそうな笑顔が浮かぶ。
「これって、バッドエンドにはならないってことだよね。そうだったら……良いな」
 彼女と満月は、ふふ、と顔を見合わせて笑い合った。そのおみくじには、確かな希望があるような気がして嬉しくなる。彼女達の近くでは、ファーシーが朝斗に話しかけていた。
「朝斗さんは何が出たの?」
「僕は吉だったよ。『三角形に気をつけて』って、とりあえず三角形を避ければいいのかな。後、『巻き込まれ体質は治りません。諦めましょう』って……」
 え゛、と朝斗はおみくじを二度見する。その側では、ルシェンが引いたくじを顔に近付け、1人真剣に読み込んでいた。末吉であるそのくじには『自ら積極的に動くのみ。相手の反応を恐れずに行動すれば結果は見えてくるでしょう。吉か凶かは予測不能』と書いてある。
(よ、予測不能……!?)
 何とも無責任な〆だった。だが、ただのランダムではなくどことなくビンポイントに個人宛な感じがしてついおみくじに釘付けになる。その隙に、アイビスもこっそりとおみくじを引く。そこには『吉』と書いてあった。
「今のまま、自分らしく行動しましょう、か……。今年は、良いことがあるといいな」
 そうしてくじを畳み、アイビスは朝斗の横顔をちらりと見た。

「どうぞ。わたくし達からの気持ちですわ」
 おみくじを引く前に、エリシアは舞花、ノーンと一緒に陽太と環菜にお守りを渡していた。赤い和柄の布地で出来たお守りを受け取り、環菜は種類を確認して笑みを浮かべる。
「これは……安産祈願のお守りね」
「ありがとうございます、きっと、母子共に健康で生まれますよ」
 陽太も、彼女達に心からのお礼を言い、エリシアはその率直な笑顔を受けてつい横を向く。
「わたくし達に可愛い子供の顔を見せてくださいね。楽しみにしていますわ」
「おねーちゃん、おみくじ引こうよ!」
 そして、そう言うノーンと一緒におみくじを引きに行く。
「幸運のおまじないの効果はあるかなー」
 ノーンは六角柱の筒をえいっと振って白棒を出し、その先っぽに書かれた数字を元気に巫女に伝えている。エリシアも彼女に続いておみくじを引き、2人は一緒にくじを開いた。
「あっ、わたし、超吉だって! 大吉よりいいのかな?」
「それは、珍しいのを引きましたわね。わたくしは……」
 ノーンの結果に素直にほっとし、喜んだエリシアは期待と共に改めておみくじを見る。そこには――
「小吉ですわね。何だか、はっきりしない結果ですわ……」
 内容も何だか曖昧ではっきりしなく、エリシアは少し肩を落とした。

「おっ、大吉だ。ルミーナさんは?」
「わたくしも大吉ですわ。お揃いですわね」
 隼人とルミーナは、お互いに引いた大吉を交換して、それぞれに書いてある事を確認する。2枚共、恋愛運は相思相愛そのもので、総合運でも、悪い変化は起きないでしょうと書いてあった。
「初っ端から幸先が良いな。今年もルミーナさんと一緒に幸せな年を過ごしたいし」
「はい。凶とかですとやはり気分が下がってしまいますからね」
 幸せな気分で、2人は笑い合って、またおみくじを元の通りに交換する。「……えっ!? 凶!!」という優斗の悲愴なる声が聞こえたのはその時だった。覗き込んでみると、彼の縁談(恋愛)の項目には『修羅場』と書かれている。それ以外の内容は普通なのだが――
 隼人達の見ている前でしばし硬直してから、優斗は売り場を振り返った。
「……おみくじってもう1回引いてもいいよね? ……いいよね!」
 自分を納得させて、再び順番待ちをする。偶々だろうが、この時間は比較的空いていた。間もなく2度目のくじを引くことが出来て、彼は早速それを開く。
「……また、凶!?」
 もう1回! と決断するのにはもう1秒と掛からなかった。
「……大吉ですね」
 いそいそと列に並ぶ優斗には気付かず、テレサはおみくじを開いて内容を確認する。大吉が出たのは嬉しいのだけれど、当然大吉である、という予感がしていたのも確かだ。
 くじの恋愛欄には『必ず願望が成就する』と書いてある。
「これはもう、神様も私と優斗さんの仲を認めているということですよ! だから……」
 おみくじを握り締め、テレサは優斗の姿を探す。その一方で、ミアもおみくじを開いて『大吉』の文字を確認していた。
「うん、大吉だね」
 大吉が出たのは嬉しいのだけれど、当然大吉である、という予感がしていたのも確かだ。
 くじの恋愛欄には『必ず願望が成就する』と書いてある。
「願いが叶うっていうことは……神様がお兄ちゃんの仲を認めてるってことだよ! だから……」
 おみくじを握り締め、ミアは優斗の姿を探す。同じ頃、灯姫も自分の引いたおみくじの内容を検めていた。当てたのは、大吉だ。
「良かった。新年から凶では縁起が悪いからな」
 ほっとして細かい文面にも目を通す。心に引っかかったのは、恋愛欄にある『必ず願望が成就する』という一文だった。
「……私にはそんな相手はいないが……近々現れるという事か? 優斗はどう思う?」
 背後で気配のする優斗に向けて話しかける。ちょうどこの時、彼は――
「……最後、これが最後……」
 あれからも『凶』、『凶』、『凶』、『凶』、『凶』、『凶』、『凶』と続き、10回目のおみくじを引いていたところだった。祈りと共に、にっこりと営業スマイルを浮かべる巫女からおみくじを受け取って開く。
「『超凶』!? しかも『いいかげんにしろ!』とか書かれているんですけど!?」
 まさかの内容に、可愛らしい巫女さんに向けて抗議する。「優斗よ……」と、灯姫が背後でゆらりと危険な空気を醸し出したのはその時だった。
「私の問いかけを無視して他の女性の相手をしているなど天罰だ!」
「え、え!? 何か言ったんですか灯姫!」
 優斗は、突然怒りモードになった彼女に仰天する。回避不能そうな身の危険に戦慄するのと、テレサとミアが逃げ道を塞ぐのはほぼ同じだった。
「優斗さん、さっきから見ていれば……その巫女さんとお知り合いになって浮気する気ですね! 神様に代わって、天罰を下しますよ!」
「優斗お兄ちゃん、その女の子にそれ以上近付いたら……神様に代わって天罰を下すよ!」
「い、いや、あの、僕は可愛い巫女さんがおみくじを手渡してくれるから、何度も引いているわけではなくて……って、何ですかその手に持ってる紙は! おみくじと……」
「婚姻届です! 早速サインをしてください! というか、今、『可愛い巫女さん』って言いましたね。言いましたね!?」
 テレサはおみくじの恋愛の部分を指で示して婚姻届を突きつける。続けて、ミアもおみくじの縁談(恋愛)の部分を指で示して婚姻届を突きつけた。
「婚姻届だよ! お兄ちゃんは早速サインすべきだよ! というか、今、『可愛い巫女さん』って言ったよね。言ったよね!!」
「……言ってません気のせいですその婚姻届は仕舞ってください! うわあああ……」

「…………」
『大凶』の2文字を前に、ラスは無言で固まっていた。示唆としては『波乱の多い1年となるでしょう。ご検討をお祈りします。来年も……会えたら良いですね。P.S 兎にお気をつけを』と書いてある。実は『会えたら良いですね』の後に白字で『メタ的な意味ではなく』ともあったのだが、それは流石に気が付かなかった。おみくじを見つめていた彼は、売り場近くでスプラッタな危機に瀕している優斗に目を移す。10回引いても凶が出続け、最後には神様(?)に怒られたのはこちらまで伝わっていた。今年のおみくじは当たり過ぎるくらいに当たる――ようだが、テレサとミアが大吉を引いたのならば、あまり気にする事でもないとも思える。彼女達の『願望が成就する』というのは、あまりにも非現実的だ。
 神様(?)が彼女達を恐れて、阿った結果を出したのでなければ。
「何だ、お前も大凶なのか。俺も大凶だ」
 そんな事を考えていたら、サトリが自分のおみくじを見せてきた。まさかの親子揃っての大凶にげんなりする。この確率が、宝くじを買った時に発揮されればいいのにと本気で思う。
「当たりそうで嫌だから見せるなよ……。で、何て書いてあるんだ?」
「そうだな……『今は大丈夫ですが、これからの選択に因っては大切なもののひとつだけが残ります』とかってあるな。思わせぶりだが具体性が無いあたり、占いの結果らしくて楽しいじゃないか」
「どこがだ」
「あっ、凶だよ!」
 親子でネガティブでポジティブな会話をしていたら、おみくじを開いたピノが声を上げた。咄嗟に彼女のおみくじを取り上げると「勝手に見ないでよー!」と、当然の抗議が寄越される。だが、それを無視してラスは彼女の引いたくじを確認した。そこには――
『願望は成就する。しかし、身辺にはくれぐれもお気をつけを。決して他人任せにしないように』
 と、吉なのか不吉なのか解らない事が書いてあった。しかも、ご丁寧に読み仮名まで振ってある。いくらピノでもこの程度の字は読めるだろうが、余程伝えたい内容だったのか。
 しかし、ラスは伝えたくなかった。
「返してよー! ねえ、何て書いてあったのっ?」
「これは、俺が預かっておく」
「えええっ!? ひどいよ!」
「2人とも凶だったんだね……ま、まあほら、おみくじは新年の運試しみたいなものだし、今日はちょっとついてなかったんだよ」
 2人の遣り取りを見て、ケイラが何とかフォローしようと声を掛ける。ピノ以外の見学予定だった皆に『おみくじ引かない?』と誘ったのはケイラで、ちょっと慌てているのはその所為も少しあるのかもしれない。
「そういうお前は何が出たんだ?」
「え? あ、えっとね」
 微妙に出しづらいなと思いながら、ケイラはおみくじを出す。大吉だ。『望む関係は、既に築かれています。目指すところへも近付いていけるでしょう』と書かれている。何となく「「…………」」とおみくじを見つめるラスとピノに苦笑を浮かべていると、傍でが戸惑ったような、助けを求めるような声を出した。
「こ、これ、どういう意味でしょう……」
 半泣きの顔で、諒はケイラにおみくじを見せた。ラスとサトリ、大地とシーラもそれを覗き込む。彼のおみくじは大吉で、恋愛欄には『相手の飼い犬になるでしょう』と書いてあった。もう1度言うが、大吉だ。
「あらまあ〜」
「今年のおみくじは、馬鹿にできませんね」
「良かったな、おめでとう」
「ドンマイとしか言えないが……」
「! や、やっぱり当たりそうに見えるんですか!?」
 好き勝手な事を言うケイラ以外の4人に、諒はますます涙目になった。それで、ピノが興味を持たないわけもない。
「えっ、何なに? あたしにも見せて!」
「ピ、ピノちゃんは見ちゃダメ!」
「えー何でー? 気になるよー!」 
 またもや内容を秘密にされて、ピノは唇を尖らせる。ケイラは2人の様子を見て、彼女の機嫌を直して諒にも元気を取り戻してもらうにはどうすればいいかな、と首を傾げた。そして、あることを思いついておせっかいかなと思いつつ提案してみる。
「諒さん、ピノさんと一緒にそれを結びに行ったらいいんじゃないかな。ちょっと場所が遠いけど……」
 しゅん、としていた諒は「ピノちゃんと一緒に……?」と、ケイラを見てそれから瞳を輝かせた。
「そうですね! どう? ピノちゃん」
「うん、いいよ! 行こう行こう!」
 2人だけで行くという事に、わくわくしたのかもしれない。ピノは明るい顔に戻り、諒の手を取って歩き出した。