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リアクション
第2章
「ふっふっふ……」
空京にある2階建ての建物、その1階のバーで、バーテン服を着た店のマスター、酒人立 真衣兎(さこだて・まいと)は曾我 剣嗣(そが・けんじ)と楪 什士郎(ゆずりは・じゅうしろう)、レオカディア・グリース(れおかでぃあ・ぐりーす)の前に立ち勝利を確信したかのように瞼を閉じて含み笑う。
「大晦日、そして元旦……。1年が終わって、そして新たな1年が始まる特別な時。そんな特別な時に……」
そこで目を開き、真衣兎は思い切り内に秘めていたエネルギーを解放した。
「飲まないでいられるわけがないでしょー!! 今日はパーッとパーティやるわよー!」
ハイテンションに、やる気を漲らせて彼女は言い切る。
「カウントダウン! 正月! ここで騒がずにいつ騒ぐの!!」
「パーティかぁ、今日はたくさん飲むぜー!」
ほぼ同じノリで剣嗣も笑顔を弾けさせ、声を大にする。それからふと、首を傾げた。
「いや、『今日も』か? とにかく、楽しく過ごせりゃそれでいいって、な?」
「そう、細かいことは気にしない! でも、まだ準備が終わってないわ」
「あれ」
早速何かリクエストしようとした剣嗣は軽くずっこけた。
「剣嗣はテーブル拭いてー。什士郎は奥に置いてあるお酒、持ってきてくれる?」
「……分かった、持ってこよう」
「あ、レオは料理見てくれると助かるってかもう一品何か作れないかな?」
「分かりましたわ、適当に何か作りますわね」
真衣兎はてきぱきと役割を振っていき、什士郎が重い酒瓶を取りに行こうと歩き出す中、レオカディアはカウンターに入っていく。この中では、彼女が一番料理が上手だ。
「うえー」
お酒はもう少しおあずけらしい。
店に掛かった時計を見て新年までの時間を確認しつつ、剣嗣もテーブルを拭くべく動き出した。
…………
……………………
そんなこんなで、23時を過ぎてもう暫くが経った頃。
「なー、早く飲もうぜー! 準備とか適当でいいじゃねーか」
気の進まないままに雑用をしていた剣嗣が真衣兎に向かって声を上げる。営業時と遜色なく綺麗になったテーブルやカウンターには真衣兎とレオカディアが作った料理、そして各種リキュール等の酒瓶と氷が置かれていた。
「そうね。さーて、じゃあ思いっきり飲むかー!」
真衣兎は早速、シェーカーに氷を入れて好みの酒とリキュールを注いでいく。注文を聞かずに作業を始めたそれは、自分自身の分である。内輪のパーティーである今日は、彼女ももちろん提供するだけではない。
「ん? あれ、オレ達の酒は?」
「え? ……あ、はい。分かってます。もちろんカクテル作るわよ、ちゃんと作りますよ……!」
剣嗣に言われ、出来上がったカクテルをグラスに注ぐ姿勢で真衣兎は目を点にする。数秒後に我に返った彼女は、からかうような目を剣嗣に向けた。
「年越しの前に寝落ちるんじゃないのー?」
「……! ……今日は寝たりしねぇぞ! ホントだからな! そんなすぐ酔っ払ったりしねぇっての!!」
アルコールに弱い彼がむきになって言い返すのを、「はいはい」と軽く受けて注文を聞く。
「んで、剣嗣は何にするの?」
「あ、オレはカンパリオレンジ。什士郎はどーすんだ?」
「ギムレットを頼む」
「じゃあ、私はスクリュードライバーでお願いしますわ」
「オッケー! ちょっと待ってね!」
カンパリオレンジのアルコール度数だけ薄くして、真衣兎は3種類のカクテルを手際よく作っていく。機嫌の良い彼女のその様子を見て、レオカディアはやれやれと苦笑した。
(……パーティとかそれらしく言ってますけれど、結局それにかこつけて飲みたいだけじゃないですか)
とはいえ、こうして一緒にいる以上は自分もぱーっと楽しもうか、とも思う。
「はーい、お待たせー! スクリュードライバー!」
「ありがとうございます」
そうして受け取ったカクテルに口をつけ、気持ちの良い飲みっぷりで半分ほどを減らす。どこかうっとりとして見える笑みを浮かべ、レオカディアは言った。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々、ですわね♪」
「そうそう、いーこと言うね、レオカディア! って、ん……阿呆?」
だが、あれと思うのは束の間で、真衣兎はカクテルと料理とこの楽しい空気の中ですぐに忘れた。けらけらと笑いながら酒を飲むレオカディアと馬鹿な話をして笑いあい、数杯で早くも酔っ払ってきた剣嗣と遠慮なく騒ぐ。
「カウントダウンパーティか……」
あっという間に宴会化したバーの雰囲気を肴に、グラスを静かに傾けながら、渋みある空気を漂わせて什士郎は1人呟く。
「こうやって、仲間で集まって盛り上がるのも悪くはない」
悪くはないが――集まって飲んでいるのはいつもの事だ。そう珍しいことでもない。
それでも――
「どうせいつものメンバーだし、気を遣わなくていいっていうのは楽よねー」
同じ時間を過ごすというのを大切にしたい。
そう考えていると 彼の声が聞こえたのか、料理をつまもうと騒いでいた3人が集まってきた。テーブルについた真衣兎は、肩の力を抜いた素のままの表情で話し出す。
「この面子で動くようになってからどれぐらい経ったかな……? 実際には数年ぐらいかな? でも、何だか10年も20年も一緒に過ごしてる気がするわー」
出会いは大抵偶然だったけれど、そう考えると、人生って不思議だ。
「これから、何回こうやって年越しパーティ出来るだろ……?」
ふと気付くとそんな事を口にしていて、ふと気付くと、バーが静かになっていた。
食事中の中途半端な姿勢で、剣嗣とレオカディアが若干の驚きを伴った視線を向けてきている。何となく空気が重くなったところで、什士郎が真衣兎の頭に軽くポン、と手を置いた。そのまま無言でなでなでする彼を、真衣兎と剣嗣、レオカディアは束の間「へ?」と注目する。
「あーもう、こんなあーもう、こんなしんみりした空気はやめやめ!」
全てを吹き飛ばすように真衣兎が立ち上がったのは、妙な空気が流れ始めてから数十秒後のことだった。
「さぁ、どんどん飲むわよー!」
空になったグラスに新しいカクテルをその都度注ぎ、パーティーは再び盛り上がりを見せる。やがて、2023年が終わる時は来て――
「ハッピーニューイヤー!! あけおめことよろー!」
4人で見詰めていた秒針が「12」の文字盤に辿り着いた時。
真衣兎はとびきり元気に声を上げた。
「……みんな、これからもよろしくね」
――そして、すぐに落ち着いた雰囲気を纏って3人に微笑む。
「おい真衣兎、急に改まってどうしたんだよ」
続けて騒ぎかけていた剣嗣が戸惑ったように言う隣で、什士郎は全てが伝わったかのように頷いた。
「……真衣兎、もちろんだ。こちらこそ宜しく頼む」
「全くもう、もう少し楽しく過ごしませんこと? しんみりするような歳でもないでしょう」
呆れた顔で言うレオカディアも何かを察したようで、口調の中に真衣兎への肯定がある。
「え? え?」
その中で、剣嗣だけがハテナマークを飛ばしていた。酔っているからか素でも同じだったのかは不明だが、彼がきょろきょろしているうちにパーティーは陽気さを取り戻していった。
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