空京

校長室

建国の絆 最終回

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建国の絆 最終回
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旧王都宮殿前

 宮殿の防衛システムが停止し、神子たちが一斉に宮殿へと雪崩れ込んだ気配。
「んふ、ようやく行ったか――」
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は、しなやかに腕を振るった。
 膨れ上がった莫大な熱量が寺院兵らを焼き払って行く。
「ならば、こちらは最後の最後まで楽しませてもらうとしよう」
 煤と血と痣に塗れた顔を笑ませながら、彼女は振った手を炎から逃れた兵の方へと向けた。
 その手先が揺れた向こうで、寺院兵の一人が発狂したように叫びを上げて、頭を抱えながら膝を付き、倒れた。その体が、こちらへ迫る寺院兵たちの足元に飲み込まれていく。
 宮殿へ神子が侵入したことを悟った寺院兵たちは、その焦りから、勢いを増していた。
「ゥラァアアアッ!!」
 炎が火の粉を散らしながら霧散していく中へ、ヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)が遠当てによる牽制を交えながら他の生徒らと共に踏み込んで行く。
 まとわりつくように迫るゴブリンや兵士の攻撃の合間を、軽やかにくぐり抜け、雷気を纏わせた拳で寺院兵を殴り飛ばし――彼女は、吠えた。
「殴りかかってくる奴は全員敵だ! 敵には容赦しねーから覚悟しろコラァッ!」
 と――上空、人型兵器たちの戦闘の流れ砲弾が宮殿付近へと着弾して、衝撃と熱波が弾けた。

「――ッッ!?」
 その時、カレンには、何が起きたのか全く分からなかった。一瞬とも数秒とも感じられた空白の時間を経て、彼女は強く結んでいた瞼をゆっくりと開いた。自分の頬と鼻先が地面に押しつけられていることを知る。耳がキンと麻痺している。ぼやぼやとした感覚だけに包まれていた体のそこらじゅうで、急速に痛みが覚醒されていく。血で滑る手で地面を押しながら、カレンは上半身を持ちあげた。
 混沌とした戦闘は続いていた。
「カレン!!」
 そばに駆け寄ってきたジュレールがカレンの手を取って彼女を立ち上がらせる。
 そうしながら、ジュレールは周囲を見渡して回復にあたれる者を探しているようだったが、どこも手一杯のようだった。ジュレールの顔がカレンの方へと向き直される。
「カレン、もういい。後は我らに任せ、下がっていろ」
 カレンは口の中の苦味をケホッと吐き捨ててから、ジュレールに肩を借りたまま寺院兵たちの方へと目を上げた。
「まだ行ったことの無い場所がたくさんあるんだ」
 辺りは激しい戦場の音だらけ。熱波や衝撃が周囲の風景を削り瓦礫を弾き出し、その間を銃弾や光線が飛び交っている。
 寺院兵の数は多い。だけど、まだ”この数しかいない”。それは各地の皆が大方の予想をひっくり返し、必死に戦い続けているから。
「まだ会ったことの無い人たちがたくさん居るんだ」
 数メートル先の生徒たちを飲み込む、敵の魔法。その衝撃がピリピリと渡って行く。
 カレンはジュレールから身体を離した。そして。
「このシャンバラには、まだたくさんの冒険がボクたちを待ってるんだ!」
 彼女は、気迫と共に再び転経杖を天に掲げた。
「絶対に儀式の邪魔なんてさせない――ここは、ネズミ一匹たりとも通さないよ!!」