空京

校長室

戦乱の絆 第二部 第三回

リアクション公開中!

戦乱の絆 第二部 第三回
戦乱の絆 第二部 第三回 戦乱の絆 第二部 第三回

リアクション


3.城内・戦闘
 
 理子達と、数名の学生達は先を行っている。
 一方で、衿栖との戦闘を終えたセレスティアーナと優子の本隊は、レオンのメモを片手に城内を進んでいた。
 
 ■
 
「はっはっは、これも偉大な私の力のお陰だな」

 セレスティアーナは上機嫌で優子らに、メモをつまみあげて見せる。
「これを……そうだ! 理子達に伝えてやろう!
 私を残し、無謀にも先に行ってしまったことだしな」
 周囲の学生達に頼んで、メールでメモの情報を送る。
 
 だが、理子からの回答は以下のようなものだった。

『えーっ! これ、不備があるみたい!
 いまいる所じゃ、役に立たないわよ!!』
 
「つまりはそこまで書いている余裕はなかった、ということか」
 フウッと優子は息を吐く。
「だが、途中まででも余計な体力を使わなくて済むのだ。
 礼を言わねばなるまい」
 
 優子の予言通り、レオンのメモは途中で全く役に立たなくなる。
 罠の場所も、アイシャの部屋への道順も、まるで分からない。
 
 このままでは、ゴブリンとミノタウロスからなるモンスター軍との衝突は必至だ!
 
 ■
 
 だが、シャンバラの学生達とて、手をこまねいて見ていた訳ではない。
 彼等はメモが役に立たないと見るや、即座に「地図の作成」と「退路の確保」に当たった。
 
「地図の作成」の中心人物は、【西シャンバラ・ロイヤルガード】の皇 彼方(はなぶさ・かなた)……だが、実際は彼の補佐たる渋井 誠治(しぶい・せいじ)である。
 テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)はヒラニプラだ。しっかり者のパートナーがいない彼方は、やはりどこか頼りない。
「仕方ないなぁ……」
 誠治は息を吐いた。
「テティスさん程じゃないかもしれないけど、ま、助けてやるしかないか」
 特別隊員の頃からお世話になってるし、という思いもある。
 しかし、任務に際して禁猟区で作ったお守りを彼方に持たせるあたり、部下と言うよりは、保護者と言った感はある……。
 
 自身は不寝番、更には万が一の為に弾幕援護の準備。
 万全の備えをしてから、銃型HCのオートマッピング機能をONにした。
 これで、歩きまわった部分の「迷宮の地図」が自動的に出来上がる算段だ。
 そればかりではない。
 彼方思いの彼は、モンスターの性能や七曜の動き、フラワシの能力の情報もHCに入力し、定期的に彼方や味方に連絡して、地味に貢献する。
 
 もっとも彼が作業に集中できたのは、ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)のお陰だ。
 彼女が冷静に周囲を見回し、仲間と連携して常に警戒を怠らなかったのだ。
 いざという時は。
「ロイヤルガードの方々は、後方へ。
 ここは私達に任せて!」
 銃を構えて、戦闘も侍さない。もちろん、誠治の「禁猟区」に反応があれば退路の確保も。
 そうして2人はメモが役に立たなくなった後、実質的な「地図の作成」に貢献したのであった。
 
「いつもすまないな、渋井」
「い、いえ! 彼方さん!」
 思いがけず彼方から声をかけられて、声が上ずる誠治なのであった。
 
「退路の確保」には、シャンバラ教導団の第3師団少尉・比島 真紀(ひしま・まき)と、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)をはじめとする数名があたった。
 ハワードスーツを着用し、他と連携をして、優子達には先に行くことを促す。
「時間がないであります!
 ロイヤルガードの方々は女王の安全を!!」
「真紀の言う通りだよ」
 サイモンが道の先を指さす。

「だが、どこをどう進んだらよいものやら」
 意気揚々たるセレスティアーナの傍で、実質的指揮官たる優子は額を押さえる。
 幾度もくり返すようだが、メモはもう使えない。
 迷宮は複雑な形で、いくつもの分かれ道を彼等の前に現わす。
 
 せっかちな学生達の中には、己のスキルで強行突破を図らんとする者も現れ始めた。
 
 国頭 武尊(くにがみ・たける)……もとい、プロレスマスク姿の謎の学生・「スーパーパンツマシン1号」もその一人である。
 誰にも聞かれぬように耳元で。
「ここで女王に恩を売っておけば、後で役立つだろうからな」
 猫井 又吉(ねこい・またきち)がこっそりと囁く。武尊の口がへの字に曲がる。
 キマクの件で、彼の立場は非常に微妙なのだ。
「銃型HCでマッピングだって?
 時間が制限されてる状態で、チマチマ進んでも、埒が明かねーや」
「要は玉座の間を目指せばいいんだろう?」
 
 パンツ・オア・ダーイ!!

 叫んで、ひたすら通路を突進して行く。
 女王の加護の第六感と、トレジャーセンスを頼りにして。
 優子達の、いま単独行動は、危ない! という叫びは届かない。
 
 同じロイヤルガードの姫宮 和希(ひめみや・かずき)は、ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)と共にセレスティアーナと進んでいた。
 和希が、なぁ、セレス、と振り返る。
「アイシャは、パートナーなんだろう?
 何か感じないのか?」
「契約者としての感覚、か」
 優子が指先をはじく。
 だが、とこれは首を傾げ。
「正確な位置までは分からないのではないのか?」
「正確じゃなくてもいいのさ。
 それに、時間がないんだ! いそがねぇと」
 アイシャと約束したんだ、と奥歯を噛む。
 絶対に守ってやる! と。
「なぁ、何か分からねぇのかよ?」
「う……うん? そ、そういえば!!」
 セレスティアーナははたと顔をあげて、分かれ道の一端を指さした。
「たぶん、なんだな……こっちのような気がするぞ!」
「本当か? セレス?
 よし、こっちに行ってみようぜ!」
 ドラゴンアーツで壁をブチ抜きながら、先の先、軽身功、神速!
 和希はひたすらセレスティアーナを連れて、アイシャの下を目指す。
 
 ……そうして彼等は、モンスター軍団に遭遇する。

「なぁ? こっちなのか? 武尊」
 又吉は破壊工作の知識を使い、迷路の壁に戦闘用ドリルで穴を穿つ。
「テロルチョコおもち」をねじ込んで、壁を吹き飛ばした。
 その途端に、目の前に大岩が現れ、ごろごろと転がってくるではないか!
「罠だ!」
 誠治の声。遠くから流れてきた。
「げっ! やっちまったかな?」
 武尊達は三十六計で、ともかく逃げる。
 途中の落とし穴も。
 吊り天井も。
 回避できたのは、すべて「女王の加護」のお陰だ。
 だが、大岩が壁に当たって四散すると、けたたましく警報が城内に轟き始めた。
 
 音を聞きつけたのだろう。
 遠くにモンスター軍の足音と、反対側から優子ら本隊の駆けつける音が聞こえる。
 
 かくして、第3ラウンドは、幕を開けたのだった。
 
 ■
 
 ゴブリンとミノタウロスの集団は、外のイコンと違って、数が限られている。
 それは、この迷宮が彼らにとっても、道が分かれているために、護りにくいものだからなのだろう。
 
 更なる、幸運は。
 この作戦に参加した学生達の多くは、歴戦の勇者だったことだ。
 
 そうした次第で、彼らを退けることは、さほど大したことではなかった。 
 
 ■
 
 中でも活躍したのは、
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)
 ノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)
 ニクラス・エアデマトカ(にくらす・えあでまとか)
 の4名だろう。
 
 彼等はその参加目的も、その意気込みもまるで対照的ではあったが、目覚ましい成果を上げることとなる。
 
 カレン達の動機は、「攫われた女王様を無傷で助け出す」ことだった。
 
「帝国の要塞が攻めて来てるこの大変な時に、
 勇者と魔王ごっこなんてしてる暇無いんだから!」
 カレンは戦闘態勢に入るや、「歴戦の魔術」を使う。
 周囲のモンスター達は、一気に蹴散らされる。
「どうだい! ボクの技は!」
 魔法使いとしても、成長したんだ!
 その自信が、相手を確実に葬り去る。
 
 彼女の魔法を逃れた幸運なミノタウロス達は、ジュレールのレールガンの餌食となった。
「逃がさん!
 早く着きたいのだ! ここは押し通る!」
 エイミングで狙いを定めて撃ち抜く。
 怯んだ敵に対しは、更に後方に一発。
「さ、時間がない。
 この機に乗じて、行くぞ!」
 そうして、まずは一行の道を空けることに成功する。
 
 一方、ノア達の動機は、「適当にモンスターでも倒しとくかねぇ……」ぐらいのものであった。
「浚われたお姫様を救い出す……だなんて。
 古臭すぎて黴が生えそうな、この物語の結末を見届けたいのさ」
 銀の延べ煙管をしまうと、紫煙をゆっくりと吐きだした。
 ギャザリングへクスのスープを入れた徳利を、懐から取り出す。
「勇者の行く手を遮るのはモンスター、ねぇ…さぁどうしようか?」
「聞くまでもあるまい…殲滅するのみ」
 無表情に答えたのは、ニクラス。
 そのいでたちは、スーツにサングラス、葉巻を銜え……と、おおよそ地祇とは程遠いものである。
「周り中敵さ。
 殺気看破で、警戒するまでもないねぇ」
 はっ、と紅の魔眼。
 火術を放つ。
 これ以上なく魔力を強められた炎は、目の前のゴブリン1体をあっという間に葬り去った。
 剣を掲げる集団に対しては、サイコキネシスの注意をそらす。
 その間に、最小限の動きで刃をかわす。
 ニクラスが鉄甲や遠当てで、彼らを撃退して行く。
 そうして、モンスターの個体は次々と戦闘不能に陥って行くのであった。
「倒すことが目的じゃない。
 先へ進むことが目的だ!
 一旦退くぞ!」
 
 誰かの声が聞こえて、一行は戦場からの離脱を図る。
「退路はこっちであります!
 早く来るであります!」
 真紀とサイモンがドラゴンアーツ等を使い、一行の退避をサポートする。
 他の仲間達と連携しつつ、モンスター達を一体一体確実に倒して行く。
「ここは、我々が死守するであります。
 ロイヤルガードの方々は、奥へ」
「すまないな、真紀」
 真紀は冷静に答える。
「これも、自分の務め。
 それに、ゾディアックも女王も、
 その両者のどちらかが欠けていても、
 駄目なのですから」
 
 真紀達の連携が功をなし、全員の退避が終わる。
 サイモンが、仕上げにサンダーブラストを放った。
「よし、これで完璧だ!」
 力強い雷が、モンスター軍団に降り注ぐ。
 敵が苦悶している間に、距離をかせぐ……。
 
 ……このようなことを幾度か繰り返しつつ、作られた地図を基に、セレスティアーナの本隊はアイシャが捕らわれているウゲンの部屋を目指すのであった。
 
 その歩みの効率が悪かったことは、いうまでもない。
 だが学生達が様々な対策を施していたおかげで、多少のタイムロスだけですむこととなる。
 
 ■
 
 では、先に行った理子達・別働隊の結果は、どうだったのであろう。
 
 ■
 
 メモの無い彼等は、やはりしばらく進むと、ゴブリン達モンスター軍の刃に足止めを食らうこととなった。
 おまけに、彼らの前にはいくつもの分かれ道がある。
 どこがアイシャの居る場所やら、わからない。
 そして当のゴブリン達は、その手前に布陣している。

「ここは俺たちに任せて先にいけ」
 葛葉 翔(くずのは・しょう)アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が、理子を背にかばった。
「西シャンバラ・ロイヤルガードとして。
 なんとしても、道を空けて見せる!
 簡単に止められると思うなよ!!」
 翔は白兵武器のグレートソードを掲げる。
 その彼に。
「翔クンに祝福を!」
 アリアはパワーブレスを与え、攻撃力を高める。
 翔はグレートソードを横薙ぎに振ると。
「どけどけ!
 道を空けやがれ!」
 次々とモンスターをなぎ払っていく。
 攻撃し損ねた敵に対しては。
「おっと、翔クンへの攻撃は通さないよ」
 ライチャスシールドを構えたアリアのディフェンスシフトが展開する。
「俺にかまわず、早く行け!」
「わ、わかったわよ! 翔!!」
 理子は片手を上げると、切り開かれた狭い道を仲間達と共に走り去って行くのだった。
 分かれ道にあっては、道の数だけ分かれ……。
 
 ■
 
 ……そうして彼等は、「七曜」達と対峙することとなる。