空京

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戦乱の絆 第二部 第三回

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戦乱の絆 第二部 第三回
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7.城内・七曜〜ナンダ・アーナンダの場合〜

 ナンダ・アーナンダ(なんだ・あーなんだ)は、最上階に近い豪華なホールの中にいた。
 細かな装飾の施された内装は、ツタに浸食され。
 床には、至る所にひび割れがあり、そこから毒々しい色の液体が流れ出て水溜りを作っている。
 
 唯一つ――ステンドグラスの大きな窓があるため、周囲の明りに気を使う必要はなかった。
 
 トラップを仕掛け終わったのだろう。
 マハヴィル・アーナンダ(まはう゛ぃる・あーなんだ)が戻ってくる。
「ナンダ様。
 数名、無謀にもこちらに向かう者がいるようでございます」
 嬉しそうに。
「その中に、一名。
 西のロイヤルガードがございます」
「へえ、ロイヤルガード?」
 ナンダは無邪気に瞳を輝かせる。
「相手に不足はないよ!
 エリートのボクには、歴戦の勇者たちと戦う事が相応しいだろうからね」
 高揚した拍子に、マントが揺れる。
 隙間から、この世の物とも思えぬ、ナンダの肢体がのぞく。
(超霊の代償……あのような副作用とは……)
 マハヴィルは何事もなかったかのように近づくと、スッとマントを整えるのであった。
「いらっしゃいましたようでございます、ナンダ様」
「うん、そうみたいだね?」
 ナンダが目を向ける。
 扉には、【西シャンバラ・ロイヤルガード】の夏野 夢見(なつの・ゆめみ)と、ルーク・ヤン(るーく・やん)ら学生達が立っている。
 ナンダは手を掲げて、超霊を発動させる。
 
「アブソリュートオーダー。
 この力があれば……」

 ■
 
 だが、夢見はコンジュラーだ。
 超霊・アブソリュートオーダーの姿を、確実にとらえていた。
 
「何て禍々しいの!」
 夢見はナンダを見据えて、眉をひそめる。
「そんなものに頼ってまで、力が欲しいわけ?」
 夢見はナンダに問う。
 ルークもぼそっと。
「仕置きが嫌でしぶしぶ従うぐらいなら、軽々しく忠誠を誓わなきゃいいのに」
「ボクはお仕置きが怖くて、誓ったんじゃないよ!」
 ナンダはむくれる。
 
 だがナンダの言葉は、夢見達には分からない。
 耳栓をしているためだ。
「ナンダ様。聞こえていないようにございます」
「? ……そっか!
 耳が聞こえなければ、超霊の力は通じない、て。
 そう考えているんだね?」
 ふふふっとナンダはおかしそうに笑う。
「そんなわけないよ!
 ボクのアブソリュートオーダーは、無敵なんだ!」
 
 スッと深呼吸をして命令する。
 精一杯の、大きな声で。
 
「さあ、皆!
『同士討ち』をはじめちゃってよ!」

 次の瞬間、アブソリュートオーダーはゾッとする笑みを浮かべた様な気がした。

 ■

「いやよ! ルークを襲うなんて!」
 だが、夢見のフラワシ「プリズム」は、持ち主の意図に反してルークを襲う。
 味方のはずの学生達も。
 
「夢見、か、体が!
 言うことをきかないっ!!」
 
 どけ!
 
 叫びつつ、小石を巻き上げる。
 サイコキネシス。
 そのまま、小石は雨霰と夢見達を襲う。
 臆病な彼は、予め「勇士の薬」を飲んできていた。
 その素早さがあだとなって、矢継ぎ早に夢見達を襲う。
 彼等は血まみれになっても、同志討ちをやめることは出来なかった。
 
 総ては、超霊の意のままなのだ。
 だが、その地獄絵図は夢見達ばかりではすまなかった。
 
 
「は! ナンダ様!
 そのワイヤークローはっ!!」
「に、逃げてよ! マハヴィル!!
 体が……何だかおかしいんだ!!」
 そう言って、ナンダは彼の忠実な執事たるマハヴィルに、ワイヤークローを向ける。
(ナンダ様はコンジュラーではない……まさか、暴走!?
 いや、しかし、以前のとは様子が……)

 そんなバカな!
 
 だが、マハヴィルのブロードソードは、なぜかナンダの胸を狙っている。
「ナンダ様、お逃げ下さい!」
「夢見! 逃げるんだ!」

 あちこちで、悲鳴と絶叫が響き渡る。
 そうして、超霊による血の饗宴は、その場に居た者が全て倒れ伏すまで終わらなかった。




 その後、能力を使った代償によって、ナンダの身体の変化は進んでいた。
 とうとう全身の皮膚は変色し、手足は奇妙に歪み、耳は尖り、口は裂け、目は暗く落ち窪み、頭部は肥大化し……
「……ナンダ、様……」
 誰もが意識を失っている中。
 マハヴィルは、ずるずると身体を起こし、ナンダへと近づいていた。
 先にナンダが代償による身体変化に耐え切れずに気を失ったため、マハヴィルがとどめを刺されることは無かったのだ。
 そうして、マハヴィルは醜く歪み果てたナンダを隠すように抱え、
 ずるり、ずるりと暗闇の中へと消えて行ったのだった。