空京

校長室

終焉の絆 第二回

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終焉の絆 第二回
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【2】イコンとパイロットと整備士と
 空京郊外。その風景の一旦に明らかな異質が迫っていた。
 グランツ教の機動要塞。その全長は壱千メートルを越えている。
 その中には金色のイコンが潜んでいるのだろう。


 機動要塞が近づいてくる少し前、
 シャンバラ側のイコンドックに全てのイコンが最終調整のために集められていた。
 そこにはパラミタ中から集められたイコン乗りの精鋭が集まっている。
 そのイコンの最終調整だ、力が入るのも無理はない。
「……になるからここはこっちの調整の方が」
「いいえ。まずはこの稼動部分をより入念にするべきです」
 イコン調整の指揮を執っていた荒井 雅香(あらい・もとか)長谷川 真琴(はせがわ・まこと)が話し合いながら、丁寧に一つ一つイコンの調整を進めている。
 その補佐に当たっていた真田 恵美(さなだ・めぐみ)イワン・ドラグノーフ(いわん・どらぐのーふ)は馬車馬の如く忙しさでチューニングを施していた。
 無茶難題にも思える二人の注文を、見事なまでに形にしていくイワンと恵美。
 だが最終調整を支えているのは四人だけではない。
「こちらの調整、終わりましたよ」
 同じく指揮を執っていた堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)が油まみれながらも笑顔を浮かべた。
 後ろにいるランダム・ビアンコ(らんだむ・びあんこ)も同様に黒く汚れていた。
「これでほとんどの整備が終わりましよ」
 真琴が一息つく。それを見た雅香は笑った。
「さすがにこのピッチでの調整は疲れるかしら?」
「いえ、少し深呼吸をしたくなっただけですよ」
 お姉さん風を吹かす雅香の口ぶりに、真琴もうっすら笑って返す。
 そのやりとりを見ていた一寿が口を挟む。
「お二人は仲が良いのですね。僕もその輪に加わればいいな」
「あっち、手伝ってくる」
 ランダムは恵美とイワンの所へと走っていった。

 ドックには士気昂ぶる者が多いと同時に、
 グラヒトリに恐れをなしているパイロットも多かった。
「俺、正直怖いんだ……操られたりして、皆の邪魔をしたらって」
「ぼ、僕もです……いっそ僕らは後ろにひっこんでいた方が」
 その言葉を聞いた雅香は、パイロット達の肩をがしんと掴んだ。
「はいはい弱気はいいっこなしよ?
 こんなに気合入れて整備したんだから、平気よ! へ・い・き!」
「で、でも……」
 雅香の励ましの後もうじうじしているイコンパイロットに、真琴が目を伏せた。
「成程、私達の調整ではグラヒトリに勝てない、と……」
「……あーあ、真琴ちゃん、傷ついちゃったわよ」
 雅香の言葉に見かねたパイロットが、慌てて率直な感想を力説する。
「そんなことないです! 雅香さんや真琴さんの調整や修理はいっつも一級品で」
「そ、そうですよ! 恵美さんもイワンさんもすごいし、
 一寿さんにランダムちゃんの腕前も、もう目を瞠るくらいで」
 その様子を見ていた他のパイロット達も、
 日頃の感謝をここぞとばかりにイコン整備士達に声高々に伝える。
「がーっはっは! それだけ言えりゃ上等だよ!
 でかけりゃいいってもんじゃねえ事を教えてやれ!」
「オレ達は調整とか修理できて、君らはイコンが操縦できる。
 どっちが欠けてもだめなんだよ。と、少し調子よすぎるか?」
「戦い、行ってもらう。ランダム応援する、祈ってる。
 ……機械だけど、祈ってる。
 無事に戻って」
 イワン、恵美、ランダムがパイロットたちの背中を押し出す言葉を告げる。
「イコン整備士は皆同じ気持ちさ。
 だから君達もそれを信じて、戦って欲しい」
 一寿の言葉を最後に、イコンドックに不思議なくらいの静寂が舞い降りた。
 整備士達全員が、パイロットたちを見つめていたからだ。
「……もう泣き言は言いません。全力で行ってきます!」

 ――――「俺もだ! 破片になるまで戦ってやる!」
 ――――「金ピカイコンなんかに負けてやりませんよ!」
 ――――「イコン整備士全員に、勝利を捧げよう」

 イコンドックに活気が舞い戻る。いや、それ以上の賑わいが返ってくる。
「意外と演技派なのね?」
「そちらこそ、ナイスアシストです」
 その活気を引き出した二人の立役者は、小さく拳をコツンと叩き合った。