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ンカポカ計画 第1話

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ンカポカ計画 第1話

リアクション


第7章 疑惑


 キラキラッ!

 チークタイムと聞いて、キンピカのエルがまた一段と輝きを増した。
 しかし、その隣で蒼は真っ赤な顔をしてふらふらしている。
 それを、未成年の飲酒に厳しい如月佑也が追いかけ回している。
「こらこらこら。ぜったい呑んだだろ。ダメじゃないか」
 蒼は逃げ回りながら、るんるんだ。
「エルさーーーん! キラキラ。キラキラ。もうキラキラしすぎだよぉぉぉぉ! きゃははは! ええ? ワタシならだいじょうぶっ。もう子供じゃないんだからぁ」
 初挑戦したワインで、酔っ払ったようだ。
 そして、酩酊と狂気のあるところにこの男在り。
「よおぉ、蒼ちゃん。楽しそうだねぇ」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)が冷やかしにやって来た。
「楽しそうじゃない!」
 と佑也はツッコむ。
 が、蒼はカガチと佑也の手をギュッと握って、
「さあ。いっしょにうたいますよぉおおおお」
「え? えええ?」
 2人の手をぶんぶん振り回しながら歌い始めてしまった。
「♪ キラッキラッキラッキラッ。エールエル!」
「まいったね、こりゃ。エルくんごめぇん」
「こらこら。呑んじゃダメだと言うのにー」
 甘いチークタイムを夢見ていたエルは、ガックリと肩を落とした。

 酔っ払いはもう1人。
 留美に狙われてウォッカ9割のスクリュードライバーを呑まされまくった未沙だ。
「うへえええ。れい! れいれいれい!」
 未沙は「れい」と言っては敬礼ポーズをとり、ふにゃふにゃしている。
「うふふふ。未沙さんて本当にかわいい女の子ですわ♪」
 留美は、インチキ・スクリュードライバーを工作してる間に、ウンラートにピンクルームの場所も聞いていた。未沙を抱きかかえて連れて行けば……あとはお察しの通り。
「うふふ。全てはわたくしのシナリオ通りですわ」
 そして、未沙に見取図を見せながら、最後の駄目押し。
「美沙さん。ここで休めるそうですから、移動しましょう」
「うん。いどうするぅぅ! れいっ!」
 未沙は見取図を取りあげ、留美に支えられながら会場を後にする。
 と、そのときだ。
 未沙の目の前に、船内を探索していたレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が現れた!
「れれれれ……れいっ! ちゃーーーん!!!」
「未沙?」
 未沙が「れいれい」言っていたのは、「礼」ではなく、大好きな「レイ」ディスのことだった。
「はあっ。どいてえっ!」
 未沙は留美を押し退け、レイディスに迫る。
 突然やって来た恋の結末。――未沙に捨てられた留美は、涙を飛ばしながら、表通路に出た。
 そして、星に向かって語りかけた。
「ああ、恋の神様。どうしてこんな仕打ちをなさるのですか。神様のいじわるっ!!」
「わかるわっ。あなたのキモチ!」
 話しかけてきたのは、恋する乙女状態のケイだ。
「恋って、どうしてこんなに切ないのかしらね……」
 何はともあれ、友達ができてよかった。
 2人の新たな友情シーンを、白菊 珂慧(しらぎく・かけい)がスケッチしていた。
「なかなか絵になるねー」
 珂慧は船内をスケッチして回っていた。

 一方、未沙は……
「きゃあっ! このふね、ゆれるううう!」
 揺れてないのに、レイディスに抱きついていた。
「未沙、大丈夫か?」
 レイディスは戸惑いながらも、酔った未沙を置き去りにすることもできず、一緒に歩いていた。
「れいちゃん。ここ。ここ。ここでやすみましょ〜」
 留美から奪った見取図を指して、歩いてゆく。
 途中で「んぱんぱ」言ってる夏樹と勇にも会うが、酔ってるからその異常に気づきもしない。
「おお! なつきさーん! げんきい?」
「んぱー」
「はい、んぱー!」
 レイディスは夏樹と勇が気になったが、やはり酔った女の子を1人にすることはできなかった。2人は、ピンクルームに向かった。

 会場にいたもう1組のカップル、大和と歌菜。
 こちらのカップルは大丈夫だ。酔ってない。
 歌菜は少し照れて、頬を赤らめている。このくらいの恥じらいが、初々しくていい。
 一方、大和は……チークタイムにかける意気込みと緊張が限界に達しつつあった。
 先程から、メガネを手にとり、何度もかけたり外したりしている。
 メガネは彼にとってSとMの切り替えスイッチなのだが、この「かけたり外したり」という行為は彼の人生においても滅多にない。これは、脳みそがトコロテンに近くなっていることを意味していた。
 そして、歌菜は大和の腕に手をそっと添える。
 ドキイッ!
 大和の胸の鼓動はますます高まるが、もう後には退けないと覚悟を決めることができたようだ。メガネをポケットにしまった。
 2人は、中央ステージの周辺、チークダンスのエリアに向かった。

 甲板でアイドル撮影会をしていた美羽は、ようやく意味がないことに気がついた。
「でも、目立ったからいいか!」
 と前向きに、ステージを下りた。
 途端にスケベファンどももゾロゾロと会場に戻った。
 それを見たのか、越乃は険しい表情でそれを確認すると、ステージの予備のバイオリンをエメに渡す。
「あんた、ユウの弟子なんだろ。チークの音楽、頼んだよ」
「私が……ですか?」
 越乃は、ユウを連れて会場を出て行ってしまった。
 エメは師匠の代打なんておこがましい……と躊躇ったが、演奏を始めるとミュージシャン魂に火がついたようだ。
 これで、チークタイムは予定通りはじまった。
 大和は安心して、歌菜と向かい合った――
 そのとき!
 ンカポカを発見したルカルカ・ルーが、大きな声で叫んだ。

「ンカポカがいたわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 ルカルカとエース・ラグランツは『ンカポカ=セシリア』だと推理し、探していた。
 しかし探し回っているうちに、船酔いでもしたのだろうか、何の根拠もないのに推理が確信に変わってしまっていた。
 そして、今、睡眠薬が抜けてテーブルの下から這い出てきたばかりのセシリアを見つけたのだった……!

「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 会場は騒然とし、みんなの楽しいパーティー気分は終わった。
 歌菜は「ええっ! どこ? 誰?」と動揺して、その場を行ったり来たり。
 歌菜の肩に回すはずだった大和の右手は、歌菜の美しい手に触れるはずだった大和の左手は、ともにあと14センチの距離まで迫りながら、空を切っていた。
 大和の目にうっすらと光る何かを、メイベルはばっちりビデオに収めていた。
「さぁて、がんばって全部記録するですぅ!」
 ミュージシャン魂に火がついていたエメは、愕然とした。
 せっかくノッてきたのに、誰も聴いてくれないなんて……こんな悲しいことはない。
 そこで、彼は喧噪から逃れるように会場を後にした。

 会場を出たエメは、甲板を通じて表通路へ出た。
 ここで、恋する乙女コンビのために「G線上のアリア」を演奏する。
「これもいいかもねー」
 珂慧は星空の下でバイオリンを演奏するエメを描いていた。
 「G線上のアリア」を、表通路でもう1人の女性が聴いていた。
 通路上のアリア。アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だ。
 アリアは手のひらを太陽ならぬ星にかざしてみる。
 そして小さい頃を思い出し……
 (よくこうして太陽にすかして見たなあ。『僕の血潮』を。そう。人はみんな生きている。パラミタ人も、地球人も、みんな生きている。)
 そして、アリアは立ち上がった。
「捕縛されちゃった人が殺されないうちに、助けなくちゃ……!!!!」 
 アリアは、珂慧が船内をスケッチして回っているのをちゃんと見ていた。
「あなた、警備員に捕まった人がどこに連行されていったか、知らない?」
 珂慧はアリアをチラッと見ると、見取図を取り出し、
「この辺だよっ」
 とテキトーに指差した。
「ありがとう!」
 アリアは通路に置いてあった飲みかけのワインボトルを武器代わりに手に取ると、走り出した。
 ワインボトルなら、持っていても警備員に疑われることはないだろう。
 珂慧はアリアが見えなくなってから、わざとらしく呟いた。
「あ。連行されてたのって、ここじゃなかったかもなー」
 かわいい顔した少年の珂慧だが、性根はパラ実。パラ実の先輩にしか本当の情報を教える気はなかったのだ。
 そして珂慧が次に描いた絵は、暗闇に佇むピエロだった。
「先輩ッ!」
 パラ実の先輩、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)である。
「よお。白菊珂慧!」
 ナガンはふらふらとやってきて……ぶっちゅううううううう! 珂慧にキスをした。
 そして、表通路をゆらゆらと。
 妖しげな笑みをもらしながら、パーティー会場へと進んでゆく。

 パーティー・クルーズは今、地獄のクルーズへと堕ちていく。
 ここで、真一郎が調べたブルー・エンジェル号の重要な3つの部屋を再び整理しておこう。

◆ ブラックルーム(捕虜収容所)
拘束中:レキ、周、クロセル、壮太、ラルク、亮司、武尊
救助のために捜索中:アリア

◆ ピンクルーム(カップルのための部屋)
使用中:珠輝、つかさ
番犬?:わんこしいな
ムフフに向けて千鳥歩き中:未沙
酔った未沙が心配で(あるいは誘惑に負けて)付き添い中:レイディス

◆ ホワイトルーム(機関室の奥で、船底)
全てが謎に包まれている。