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リアクション
白百合団の突撃より前に、断続的に研究所に攻撃を加えているパラ実生の姿もあった。
研究所側にて、ヴァーナーは白百合団員と協力者を集めて、最終的な団としての方針を話していく。
「白百合団と協力してくれる他校の方は研究所の人もころさないように、手や足を攻撃します。もう攻撃しているパラ実の人たちとも協力するです。ラズィーヤおねえちゃんをとおして、助けてくれるパラ実の人たちもいるそうです。パラ実の人がどう攻撃するかはおまかせです。でも研究所の人でもなるべく治療してたすけるです」
ヴァーナーは紐やロープを取り出して、皆に見せる。
「つかまえた人はもってきたこの登山用ザイルとかロープでしばったりするです。おわったら、鈴子おねえちゃんにほうこくして、ヴァイシャリー軍にひきわたしちゃうです」
「今回の攻撃は、研究所で襲われたことと、ヴァイシャリーにキメラが送られていたことが判明したための自衛目的ですわ。すでに入手した情報によると、かなりの数のキメラがまだ研究所内にいるようですわ」
セツカが補足していく。
「キメラへの手加減は考えない方がいいだろう」
そう意見したのは、ヴァーナーの友人でもある早川 呼雪(はやかわ・こゆき)だ。
「そうですね。……戦う事が元々私の役割。全力を尽くします」
ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)がそう言う。戦闘型の機晶姫であるユニコルノはキメラは勿論、人であっても敵の命を奪うことに躊躇いはない。
だが最近は、少女らしさも芽生えてきている。
ヴァーナーや白百合団の優しい百合園生達への考慮は行うつもりだった。
「研究所で暴れているキメラは指揮者をどうにかしないとダメそうですわ。けど、指揮者なしで飛び立っているキメラを帰還させる方法はありそうですわ」
「そうです。しょうこの品とかも集めるです」
それからヴァーナーは補佐として付き従っている下級生3人に目を向ける。
「3人は、みんながあぶなくならないようにちゅういするです」
「はいっ」
「うん!」
「わかりました」
3人には、連絡係や資料運び、周辺への警戒を任せることにする。
「それでは、さくせんかいしです!」
ヴァーナーが言い、白百合団員と協力者達は気を引き締めて研究所へと向う。
「ボク、おじちゃんのお嫁さんになる〜」
研究所側の木陰にて、イリィ・パディストン(いりぃ・ぱでぃすとん)はモヒカンの鬘を被った状態で、ちょろちょろ走り回っていた。
「そ、そそそ、そ、そうなんだ。な、ななな、な、なな慣れると……い、いいね?」
モヒカンアリスのニニ・トゥーン(にに・とぅーん)は何故か焦り気味だ。
「これ、もっともっと〜」
イリィはモヒカンが気に入ったらしく、ニニにもっとくれとせがんでくる。
「カツラならね、カツラならいいんだけどね……」
ニニの頭のモヒカンは地毛だ。
悔しく思いながら、モヒカン10個セットをイリィに渡す。
「どお? 似合う〜?」
イリィは捕らえられている所員の下に走って、モヒカンを頭に乗せていく。
「く……っ」
皆、屈辱的な顔だった。
「あーっ。お菓子の人だよぉ? 回復ぅ?」
お菓子を運んできてくれたことのある所員を見つけて、イリィはモヒカンと一緒にヒールも施して回復してあげた。
「それにしても……」
捕らえた者を見張っている織田 信長(おだ・のぶなが)は怒り気味だった。
研究所に乱入中の南 鮪(みなみ・まぐろ)が羽交い絞めにしたり、姫様抱っこしたり、体を撫でくり回しながら連れてくる所員は今のところ皆、若い女なのだ。
別に女でも構わないが、なーんも知らない事務員や受付嬢ばかりで大した情報は得られはしない。
「ヒャッハー! こいつも所長の居場所知らなかったぜ〜!」
その鮪がまた女性を捕まえて戻ってくる。
今度はそれなりの年齢の女性だが、どうやら掃除婦らしい。
「もう女は要らぬ。所長と白衣を着ている者だけ連れてこんか!」
信長は鮪にそう命じる。
「ヒャッハー! それじゃ、所内で研究じてくるぜ!」
何だか変な言葉を残して、鮪はまた研究所に向っていった。
「キメラを止めるです!」
ヴァーナーは白百合団員を引き連れて、正面から研究所に突入していく。
「ヴァーナーは守るの」
ヴァーナーのパートナーの1人、クレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)が、ペットの犬、バフバフに乗っかって、ヴァーナーに続く。
早速飛び出たキメラに、奪魂のカーマインを連射して援護していく。
それに合わせて、高台にて朱 黎明(しゅ・れいめい)も動きだす。
ラズィーヤを通して、百合園に連絡を入れおり、自分達が敵ではないことを白百合団員達も把握しているはずだ。
C級四天王として集めた舎弟数百人を前に、黎明は指示を出していく。
「闘いが終わった後には、浴びるほどの酒を奢りましょう。百合園生に恩を売っておくのも悪くはないでしょう。彼女が出来るかもしれません」
黎明の言葉に、パラ実生達は陽気な声を上げていく。
所長の言葉が真実ならば、キメラの数は数千から数万。
まともにやり合っては敵わない。
しかし、それだけ数がいるのなら、何かしらキメラを操る方法があるのではないかと、黎明は考えた。
協力予定のD級四天王ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が内部に潜入し、その方向を見つけ出すまでの間、外でキメラを抑え込むのが黎明と舎弟達の役目であった。
白百合団の補助も努めるつもりだ。
舎弟には3つの指示を出す。
「キメラとはまともにやり合わず、遠距離から弓や銃で攻撃し動きを狭めて下さい。そこを私が狙撃します」
舎弟達は遠距離用の武器を取り出していく。
「仲間や白百合団員で重傷を負った者を見つけた場合は、手を貸して逃がして下さい」
研究所からは時折女性の悲鳴が響いてくる。……白百合団員ではないようだが。
「そして、とても大切なことですが……ひとり、ひとり、自分の命を最優先に考えてください」
舎弟達が雄たけびのような声を上げる。
そして、黎明達の遠距離攻撃が始まった。
人数が多いため、幾つかのグループに分かれて、研究所のキメラを狙っていく。
「そろそろうちらもいきますかね」
白百合団が正面から突入して数分後、ナガンも舎弟達と動き出す。これまでのピエロの格好ではなく、男装し、スーツを着てネクタイを締めている。
舎弟達にも同じような格好をさせている。
ナガン達は搬入口から中へと入っていく。
従業員達の多くは鍵のついた部屋に篭っている。
廊下にもキメラが数体放たれている。現場で指揮をしている者はおらず、勝手に暴れまわっていた。
まず、アンデットのグールをけしかけて、キメラの動きを封じる。
続いて舎弟に銃を構えさせ、合図を送り、援護をさせながらナガン自身がショットガンで止めを刺す。
この方法で1匹ずつ確実に倒せば、こちらは殆どダメージを受けずに倒せそうだった。
「よし、こっちだ」
ナガンは舎弟達と廊下を進んでいく。
目指すは黎明に聞いている所長の部屋だ。
「……あの部屋か。ご丁寧に所長室って書いてあるな」
銃でドアノブと鍵を撃ち抜いて、強引にドアを開ける。
「ひっ」
中にいたのは、白衣を纏った壮年の男達だった。
「どなたが所長サン?」
「も、もういない」
「オレ達が来た時には空飛艇で逃げた後みたいで……っ」
「ま、そうだろうな」
くすりとナガンは笑みを浮かべる。
自分がここに到着する前……白百合団が作戦を結構する前にかなりの時間が流れている。
疚しいことがあるのなら、早々に撤退していて当然だ。
「それじゃまあ、研究資料でも出してもらいましょうかね」
ナガンと舎弟達は男達に銃を向けた。
もう1人、白百合団の突入に合わせて、研究所に忍び込もうとした者がいた。
「おんなじことを考えとる人が沢山いるみたい……?」
搬入口から突入した集団などを見ながら、その人物橘 柚子(たちばな・ゆず)は、そう呟いた。
「ギィー」
奇声に顔を上げれば、空へと翼を持った奇妙な生物が飛び上がっていくところだった。
「飛び立っていかはったな……」
そして飛行系のキメラと共に、研究所から飛び立つ人物を姿を目にする。
1人、ではない。
護衛のような男2人と共に、北の方へと飛んでいく。
ヴァイシャリーに向っているキメラとは別方向……。
「逃走、やろうか」
すぐに、空飛ぶ箒に乗って、追いかける。
接触するよりも、行き先を掴んだ方がいいかもしれないと考え、柚子はかなり距離をとって、低空飛行で後を追う。
……飛行時間十数分。
到着した先はキマクにある木造の家だった。
周辺の家より頑丈な造りのようではあるが、特に目立つ建物ではない。
無論、通行人達は何事かと集まってきているが、何の説明もせずに1人がキメラを庫の方へと連れて行き、残りの2人は正面玄関から中へと入っていった。
「組織の拠点やろな」
柚子は地図に場所を記しておく。
そしてその地図と研究所から訪れた者達がこの建物の中に入っていった旨、手紙に記して、百合園女学院のラズィーヤ宛に送るのだった。
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