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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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 千代の方は、湾岸伝いにボーローキョーへと移動していた。
 ボーローキョー。
 コンロン山から溢れた亡霊たちの築き上げた都……
 文化を形成する亡霊? 千代は思い馳せつつ歩く。私の知る限り、亡霊とは苦しんだり、未練を残し死んだりした者たちの、彷徨える霊……そう、私がこれまでの戦争で目にしてきたような……
 戦乱で亡くなった霊たちが都を築き、暮らしているなら、彼らは争いを好まない者たちのはず? どういう暮らしをしているのだろう。あるいは、戦争を起こす者たちを恨み、亡霊たちは争う者たちに仕返しをしようと考えるだろうか。ボーローキョーでも亡霊たちが戦の準備を始めていたりするのだろうか。
 わからない。でも、戦火拡大を防ぐ鍵はここにこそあるのかもしれません。
 ボーローキョーに近付いた千代は、しかし、肩を落とす。
「どういうこと……ここでも、また……」
 ボーローキョーの民なのか。手や足や首のない亡霊や、骸骨らが数多入り交ざって、争い合っている。
 同じだ……
 千代は、その場に膝をついて崩れ落ちる。人間たちの争いと同じ。亡霊同士が戦? どうしてなの。
 しかし、どうやら様子がおかしい。
 千代にも襲い来る亡霊たちを避けつつ駆けていくと、一方の亡霊たちは防戦しつつ、「争イヲヤメヨ!」としきりに叫んでいる。
 亡霊たちの反乱? 違う。
 千代は見た。上空に、赤い皮膜を張った恐ろしい骨の翼を広げ、呪文を唱えている女の姿を。無論、さき、宇都宮が遭遇しその名を言った、牛消皮アルコリアである。
「はっ。ネクロマンサーなの? 亡霊たちを操っているの……許せない!」
 女の周りを、更に、妖しい二種の翼が旋回し、亡霊たちを煽っている。
「勝利に未練持つ者、志半ばで倒れた者、何かを守れなかった者……立ち上がれ、今一度機会を与える!」
 青い影の翼。
 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)。その姿が具現化する――比較的新型の機晶姫。尖った耳と青の水晶の付いた尻尾を持つ。格闘用の装甲を持ち脚部と右腕にブーストの取り付けが可能。(機晶姫の取扱説明書より)
「わたくしたちに従いなさい!」
 赤子の髑髏で固めた骨の翼。
 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)。その姿が具現化する――もともとはイルミンスールの禁帯出書庫で見つけられ魔道書。地球上の言語で書かれていない。ナコトにとって、善とはアルコリアであり、悪とはそれに仇なす全てである。命令が無ければ武力で物事を解決しようとする狂犬じみた思考回路をしている。(とある魔道研究書より)
 地上から、争い合う亡霊たちの真ん中で、千代が声を限りに叫ぶ。
「戦乱で、苦しい思いをして果てていった亡霊たちを再び、戦乱に駆り出そうなんて、許せません!」
 私の本気お見せしますわ! 千代はエルトリッジ&カーマインの二丁拳銃を取り出した。亡霊を操る女に狙いを定めたが、二つの旋回する翼が邪魔をする。
「くっ……撃ち落としますよ!」
「やめておけ……ボク相手にその腕では、弾を無駄にするだけだ」「ふっ……くく……あははっ!」
 ああっ。千代の持つ一方の拳銃が地面に落ちる。操られる亡霊が、千代にまつわりついてきたのだ。
 千代は振り切り、もう一方の拳銃を女に向けて撃ち放った。
「きゃはは、無駄よ!」
「魔鎧……!」
 翼の女の前にボンデージの少女(ラズン)が現れ、それを止めた。
「行くよ。私たちに従う者は、東へ!」
 女は骨の翼を大きく広げ、二つの翼を従え、東の方角へ飛び去っていく。
 多くの亡霊や骸骨たちが、めいめいの武器を取ったままそれに従い、ぞろぞろと向きを変え歩き始めた。
 自我を保っているのか、従った亡霊らとそれまで争っていた方の亡霊たちは、無言でその場に立ち尽くした。千代は、残った拳銃を力なく地に落として、膝を折った。何故か、涙が出そうになる千代。どうしてなの……それに私には何もすることができないの……
 千代の周りを、亡霊が取り囲む。
「私は、もう戦うことはできないわ……」
 亡霊たちは無言だ。
「女。何ヲ求メ、我等ノ都、ボーローキョーへ来タ」
 亡霊たちの後ろから、一際大きな異形が現れる。
 誰。亡霊たちの……王?