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リアクション
ここはタシガンの小島。シャンバラからコンロンまでの空の中間点にある。
情勢は日々移り変わる。
東西シャンバラに分かれた後に、さらに今度はタシガンは西側に協力することになったが、それも何かの戦局でいつ変わるかもわからない。
東と西。エリュシオンとシャンバラ。カナンに、そしてコンロンに……
今動かなければならない気がするけど。
「オレはどうしよう……」
雲海を眺めていたら、その雲の流れの模様が、人の顔になってにやりと笑った気がした。
――誰かを追わなければ、君は、自分で何かを求めて行動できないのかな?
誰かの声でそう聞こえた気がした。
そのとき雲を越えて心だけはコンロンへ飛んでいった。今動こうとしている歴史の波の中に漂ってみたい。
鬼院 尋人(きいん・ひろと)。
薔薇の学舎のパラディンとして、しかしタシガンと教導団の裏の取り引きという特殊な任務の護衛でこの空の島に就いた。
空を眺めながら、尋人はこのままここにはいられない、と思いを強めていた。
吸血鬼であるパートナーの西条 霧神(さいじょう・きりがみ)が、日々、ここで聞ける断片的な情報を拾ってくる。
獣人の呀 雷號(が・らいごう)は、必要なとき以外は口を出さずにただ尋人の傍に従っている。
教導団との交渉以来、タシガン空峡に関わりのあった空賊の商船などが、ぽちぽちと姿を見せ動きはじめていた。これはというと、一条アリーセ少尉が、空路ルートを無事確保できたことから、コンロン入口のクィクモとシャンバラ間での交易を復活させようという試みの始めであった。タシガンはその中継地点になる。教導団の空路第二陣が間もなく、この小島に到着する。それに付随し、幾隻かの、教導団の貿易に加わろうという商船もクィクモに向かう。
西条の仕入れてきた情報だ。
西条はさらに、尋人の腕を売り込み、商人らの船に雇ってもらう相談をし約束を取りつけていた。尋人は喜んでいたが……
雷號はそれを尋人に話はしなかったが、西条は尋人の女装メイド姿の写真等を商人や貴族ら相手の交渉に使用したという。「使えそうなものは何でも利用しましょう」と。尋人は勿論、純粋に騎士としての腕を買ってもらうことにこそ自身の意義を感じるだろう。だが、尋人はまた、薔薇の学舎の凛々しく美しい少年でもある。西条はそこを利用しない手はないと平然と考える。
「……尋人はそのままの姿がいい」
雷號はぽつり、呟いた。
しかし、西条の渡世術なくしては学舎の騎士という身分で自由に動くことは難しいのも事実ではあった。
「いや、乗せてくれる商船は案外楽に見つかりましたが、タシガンの貴族に話をつけるのは少々苦労しましたよ。ともあれ、小島の警備は私たちに代わって別の騎士の小隊が就くことになりますから、ここを離れることができます。まあ、少々退屈でしたからね。丁度よいでしょう」
西条の言葉に、尋人は喜んだ。
「騎士として……うん。それに、自身の意志で、オレは行くんだ」
さらに、同じこのタシガンで、教導団空路第二陣を待っている者がもう一組。
元・薔薇学生であり、【鋼鉄の獅子】に近頃加わった、城 紅月(じょう・こうげつ)である。経理科であり、【鋼鉄の獅子】補給担当である。
警察機構としてタシガンに駐屯していた教導団【鋼鉄の獅子】は、東西情勢の変化と、コンロン出兵のためこの土地を離れることになったが、紅月は前回の交渉後、経費など諸々の調整や取り引きを有利に進めるべく最後までここに残っていたことになる。
「先日、ここを発った我ら教導団の戦艦の機関部が損傷したと聞きました。その艦は戻されるでしょうが、「長期化することを懸念」しています。そのため、ドックの整備をするための資材、携帯の基地局の資材と資金を現地に送りたいのです」
被災地となる場合も考えて、衣料と薬、スキル持ちの医者二十人は欲しい。
紅月はそう考え、述べた。
「ふぉふぉふぉ……」
年老いた貴族は、しかし貪欲をさを湛えた目で、交渉団を見返してきた。そのときの目と同じだ。
見返りを要求するということ……通行税を払えば、貴族は最低限の補給をし後は静観するということであった。
「それ以上のものを望もうというのか。そうじゃのう。ならば、のう……」
前回、外交官を務めた水原ゆかりはその要求を想像しぞくっとしたが、水原は女性だった。だから、貴族の趣味を逃れ得た面もあった。だが紅月は。そうここは土地柄……
「そうじゃのう。ならば、のう。ふぉふぉふぉ。おぬしはなかなか……ふぉふぉふぉ」
紅月は内心、ぞくっとするどころかにやりとした。
紅月はもともと、その点において薔薇学生らしい薔薇学生。紅月はつまり……Okであった。
取引、は成立した。
その後、貴族の館の奥の部屋で何があったかはここでは描かれないが、紅月は最低限の補給に彼が望む分のプラスアルファを手に入れることができた。
「兄貴(ルース隊長)。待っててね。遅くなってごめん。
俺は獅子の補給部隊として、食糧とたのしみを皆に提供するからね。……持っていくレーションは日本、フランス、オーストラリア製。不味いのは却下! 一番うまいのは日本製!」
紅月のことをじっと見つめる、彼の剣の花嫁。レオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)。
昨夜、貴族との一件が終わったばかりだが……
「紅月……私は君のことが……痛っ!」
「レオン……だからっ、誘うなーーーー!」
「で、ですけど」
あの貴族と交渉になる……そう聞いたときは心配で離れなかったのだ。しかし、紅月が通行税になることで、取引が成立するとあって、黙って見送らないわけにもいなかった。
「そうだね。……悪かったよ。レオン」
「え、で、では」
「うん。クリスマスだし……さ(※本シナリオの特性で時間にひずみができています。)」
二人が夜を明かした翌日に、空路第二陣はタシガンの小島に到着する。