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リアクション
クィクモ近海。こちらは今、些か、騒がしい海になっているが。
雲海を、様々な形の、種類の、魔物たちが流れてくる。討伐に出ている獅子の艦がそれを縫って飛ぶ。
「マックス?」
月島が、マクシミリアン・フリューテッド(まくしみりあん・ふりゅーてっど)に問いかける。魔鎧は、静かに頷く。
「この辺り……? 近いか」
マクシミリアンは、魔物の群れに混じっていたところを、戦闘中に月島と感応し契約することとなった。彼が何故、魔物と共にあったのかはわからない。しかし、契約したことで今、魔物を敵として認識しているようである。どの辺りに魔物の巣窟となっている島があるのかも、その位置がわかるらしかった。雲海に分け入るごとに雲が濃さを増してくる中で、月島らにとってさいわいなことではあった。
「雲賊らは姿を現す気配もないらしいな。一気に叩くか」
島の影が見えた。
「あれだな?」
再び、魔鎧は頷く。
麻上 翼が、光条兵器のガトリング砲をぶっ放す。巣から飛び出してくる魔物たちが吹き飛んだ。また、出てくる。もう一発、更に二発、と撃ち込む。
「レイヴ・リンクス候補生! 行けそうか?」
月島も、機関銃を構えつつ言う。
「はい!」
後方から、レイヴの小型艇が速度を上げてくる。レイヴが訓練を受けていた、海中を行くSDVのごとく雲海を突き進んでいく。
「くっ」
船の周りに続々と魔物たちが寄り付いてくるが、後方からの援護がそれを弾き飛ばしていく。
レイヴは無事、小島に上陸すると、勿論、ここにも待ち構えていた魔物を蹴散らして安全を確保した後、上陸地点を確保にかかった。
「赤外線マーカーを設置……Ok!」
後方の船に待機していた龍雷連隊の隊員たちが上陸を開始する。月島たちが引き続き、援護を引き受ける。
「島の内部へ!」
レイヴは先頭に立ち、魔物の巣窟に入り込んでいった。
後方の船では、
「私たちは、付近の魔物の排除と、雲賊への警戒を続行する! ……レイヴ候補生。大丈夫か?」
やがて、十数分は経っただろうか。
月島たちの見守る先の小島で、爆発が起こった。
「……」
月島は、黙って様子を見入る。魔物たちの攻勢は先ほどから止みつつあった。翼は、不安げな表情だ。
来た。小型艇が戻ってくる。最後に、レイヴ候補生の小型艇の姿を見とめた。
「無事だったか」
「巣の奥に、爆薬を設置し、巣ごと爆破してきました!」
「ご苦労だ。何か、変わった様子などは?」
「いえ。とにかく凄い数の魔物でしたが、人語の通ずるような相手もなく、ただ雲海に屯するやつらの根城になっていたのだと……特大級の魔物もいましたが、連隊員らと共同し仕留めました」
「それは、お手柄だな。松平部隊長に報告するといいだろう」
「ええ!」
「ここの任務は完了だな。上層部へは私から報告をしておこう」」
レイヴも、これで胸を張って隊長のもとへ帰れる、と思った。
一方、ヒクーロ方面に向かった部隊。これを率いるレーゼマン少尉は、ルース部隊長よりその方面の魔物の排除を言い渡されている。だがこちらは、雲賊との関わりが取り沙汰されている。クィクモ近郊より簡単とはいかないであろうと思われた。
「射撃部隊構え……てぇーっ!」
ヒクーロに近い空まで部隊を進めると、急激に数を増してきた魔物が船に寄ってくる。弓と銃の波状攻撃を繰り出すレーゼマン。
「フフフ……このレーゼマンの部隊が、魔物なぞにやられるわけはないのだよ!
クルツ!」
「へーへー。堅物君は指揮に集中してろよ。ちゃっちゃっとやってくるからさ」
「ふん、チャラ男が。手を抜くんじゃないぞ。衰えたとは言え、お前の腕には期待しているのだ」
「……」クルツは、銃を持って射撃部隊に加わる。射撃の腕は元々あいつの方が上なんだが……まあ期待されちゃやるしかねえか。
「クルツ! 敵を抜かせるな。ええい、近付かせてしまった敵には、鴉兵を出せぃ」
「へーへ……ったく一匹や二匹で。あぁ、かわい子ちゃんらも行ってしまったしな。面白くねぇぜ?」
レーゼマンの船でヒクーロ付近まで来た孔中尉と真白隊員は、船を下りすでに街の方へ向かっていた。
「いいか。今回は様子見だ! 不用意に追ったりするな?」
レーゼマンは部下らに呼びかける。孔中尉。真白。彼女らが調査を終えるまでの時間稼ぎになればいい。
「レーゼマン少尉!」
「何だ。どうした!」
何? レーゼマンは隊員の指差すヒクーロの方角を見る。
「おお!」
船が来ている。教導団の武装飛空艇に劣らず重装した豪壮な船だ。
「ヒクーロの飛空艇団か!」
「おいそちらの飛空艇よ! 我らヒクーロの空で何を許可なく戦闘を行っている?!」船はこちらにそう呼びかけを送ってくる。「貴様ら、何しにここへ来たのだ。それ以上、街へ部隊を近付ければ砲撃を行うぞ」
「ま、待て。私たちは……」