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古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』

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古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』
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 『超々弩級航空戦艦“灼陽”』

 『超々弩級航空戦艦“灼陽”』は、鉄族の本拠地の役割を担う空飛ぶ船である。
 かつてはこの船のみで、鉄族の全人口と全施設を収容できていた。それがダイオーティガとの戦いにおいて船体の半分近くを喪い、今は着床し周りに滑走路や格納庫が応急的に設置されていた。

「“紫電”、“大河”、分かった事を報告しろ」
 “灼陽”の中心部、メイン制御室において、見た目十歳前後の少年が腕を組みつつ座っていた。“彼”はこの“灼陽”の人型デバイスである。“灼陽”内部では鉄族はほぼ、この人型デバイスを用いて交流している。“灼陽”はダイオーティガとの戦いの前は好青年であったのだが、戦いで損傷してからはこのような姿しか取れなくなってしまった。本人はその事をかなり気にしており、必要以上に偉そうな態度に出る癖がついていた。
「部下を飛ばして調べてみたンすけど、なんか出たみたいっすね。あの辺にあった壊れかけの建物直してるみたいっす」
 そして、“灼陽”の求めにどこか軽い調子で答える、見た目十代後半の赤髪の少年。“彼”は『超戦術戦闘機“紫電”』の同じく人型デバイスであり、戦いにおいては鉄族の精鋭部隊『疾風族』隊長として、龍族と熾烈な戦いを幾度となく繰り返していた。
「しーくん、報告はちゃんとしっかり、だよっ。
 ……彼らがどこから来て、何のために来たのかは分かっていません。ですが彼らの所有物の中には私達と似た機構のものもあり、戦う力も十分に備えていると思われます。また彼らの見た目もデュプリケーターに類似するものがあり、今後注意を払う必要があると思われます。
 ……ふぅ、こんなところですよ、よーちゃんっ」
 “紫電”の隣に立った、『超戦術爆撃機“大河”』が補足の報告をする。どこかほんわかとした雰囲気の“彼女”もやはり“大河”の人型デバイスであり、見た目は二十代前半といったところだろうか。他の二人が二人なので、この中では『お姉さん』に見える。
「…………、まぁいい。決して無視できぬ手合いという所か……。
 上手くすれば対龍族、対デュプリケーターに役立ってくれるやもしれんな。近い内に一度接触を……むっ」
 言葉を紡いでいた“灼陽”の動きが止まり、周りが何事かと騒然とする。
「フッ、フフフ……これは面白い。まさか向こうの方から直接、こちらにやって来るとはな。
 おい、出迎えの準備をしろ。“紫電“と“大河”も付き合え。……私が直接、判断を下してやろうではないか」


(……ここは……分かったわ、ここが“灼陽”ね。高度に電子化された船、ってイメージその通りだわ)
 目を開けたメニエス・レイン(めにえす・れいん)が、辺りを見回しここが事前に話に聞いていた“灼陽”内部であると推測する。
「メニエス様、複数の気配の接近を感じます。明確な殺意は持っていません」
 隣に控えるミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が耳打ちし、その報告を裏付けるように複数の足音が接近してくるのが聞こえてくる。
「来訪者、オレ達の言葉が分かるか? オレ達は鉄族、この天秤世界の住人……ま、そんなところだ。
 あんたを“灼陽”様の下へ連れてくるように命令を受けた。話が分かったなら付いてきな」
 やがて現れた、一見して人間と同じ、けれど身体の線がはっきりと分かるボディスーツのようなもので全身を包み、赤い瞳が特徴的な鉄族の者が二人に向け、聞き取ることの出来る言葉で話しかける。
「ええ、では有り難く案内を受けましょう」
 丁寧に受け答えつつ、メニエスは彼らの態度から自分が最初の鉄族との接触者である可能性を推測する。
(いいわね、好都合だわ。一足先に鉄族と組んで情報を得る事が出来る。私の力も龍族や契約者相手なら十分通用する。
 ……ふふふ、やはり天はあたしに味方しているわ! 見ていなさい……次こそ、次こそはあたしが奴らを出し抜いて勝ってやるわ!)
 膨れ上がる感情を表に出さぬよう努力しつつ、メニエスはミストラルと共に、鉄族の案内を受けて“灼陽”の下へ赴く――。

「……なるほど。お前と他の“契約者”という者たちは、別の世界からこの世界にやって来た。目的は鉄族と龍族の戦いに決着をつけること」
「そう、後々ここを訪れるやつらは言ってることはバラバラかもしれないけど、根本は“戦いの終結”。貴方達が龍族との戦いに勝ちたいのなら、上手く利用することね。
 ……あたしは、鉄族が勝つ為に協力させてもらいたいと思っている。後、デュプリケーターについても興味があるわね」
 “灼陽”と対面したメニエスは、自身と契約者が別の世界から流れこんで来ている事、その主な目的を伝えた上で、鉄族に協力したい旨を告げる。
「龍族との戦いを優位に進めるには、まずデュプリケーターから受ける障害を排除する必要がある。貴方達も何度かデュプリケーターと戦っているはず、その記録から彼らがどこから湧いてくるか予測つかないかしら?」
「ふむ……。“大河”、西の区域での戦闘記録、用意できるか? 渡してやれ」
「あ、はい、分かりましたぁ。じゃあえっと、メニエスさん、私に付いてきてくださぁい」
「ありがとう。あ、後、貴方との連絡手段も確保してもらえると嬉しいのだけれど」
「…………、いいだろう。“大河”、チャンネルとコードネームをお前の方で割り振ってやれ」
「えぇえ、わ、わたしがですか〜?
 うーんうーん……じゃ、じゃあ、コードネームは『FEARFULOR』で。持っている端末からこのコードネームで、よーちゃんへの連絡が出来るようにしますねぇ」
「……“大河”、いい加減私をそのあだ名で呼ぶのは止めてもらおうか。今はこの姿だが本当は――」
 “灼陽”が言い終わらない内に、“大河”とメニエス、ミストラルは制御室を出ていってしまった。
「……なぁ、“灼陽”サマ。随分と優遇措置じゃないっすか? 大丈夫なンすかね、あいつ」
 頭の後ろで腕を組みつつ、“紫電”が訝しむ様子で去っていった者たちの方へ目を向ける。
「概ね、何かを企んでいるに違いなかろう。そこは彼女も言っていたではないか、「上手く利用することね」と。
 彼女も、自らの利害が一致するからこそ、あのような申し出をしてきた。まずはお手並み拝見、といこうではないか。彼女の言う通りなら、明日以降来訪者がここを訪れる事もあろうしな。……戦力次第では、龍族の拠点を一つ攻めてみるのも悪くなかろう」
「ふーん、そんなもンすかね。ま、また作戦があるってンなら、喜んで参加するっすよ」

 ……そして、メニエスの発言した通り、翌日になると続々と、異世界からの来訪者が接触を図るのであった――。


「フハハハ! 鉄族の長・“灼陽”よ! 我ら秘密結社オリュンポス、諸君ら鉄族の戦いに全面的に協力しよう!」

 居並ぶ鉄族の面々を前にして、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は少しも怯むことなく自信ありげな態度を見せる。
「秘密結社オリュンポス……あれほどの機能を備えた要塞を起動させられるか。なるほど、かなりの技術を持っているようだな」
「ああ、『機動城塞オリュンポス・パレス』はオリュンポスとこの天才科学者である俺が完成させた。
 我らの世界独自の技術である【機晶技術】……この力、欲しくはないかね?」
 メガネを光らせ、ドクター・ハデスが指をパチン、と鳴らして命じれば、モニターの一つに天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が映し出される。
「すみません、チャンネルを無断で使わせてもらいました。
 他の契約者が龍族と接触しようとしているという情報もあります。龍族がパラミタの魔法技術をものにする前に、是非機晶技術を獲得し、龍族が態勢を立て直す前に決着を付けるべきかと」
 自分たちと同盟を組めば、自分たちが保有している機晶技術を提供すると発言した十六凪が、“灼陽”に決断を迫る。
「“灼陽”殿、どうか同盟のご決断を」
 オリュンポスの参謀を務め、今回ドクター・ハデスに鉄族との同盟を薦めた十六凪の言葉には、言い知れぬ“重み”が込められているようだった。
「……もしここで、私がお前たちとの同盟を結ばぬ、と言ったなら、どうする?」
「ふむ、それは考えていなかったが……。もしそのような事になれば遺憾ではあるが、我らオリュンポスの裁きが下るであろう」
 映像が切り替わり、機動城塞オリュンポス・パレスの主砲発射口が怪しく光り始める。決して小さくはないかの要塞から放たれる一撃は、いかな“灼陽”といえど無傷では済まないだろう。
「……ここでお前たちを敵に回すのは、得策ではないな。分かった。鉄族はお前たちを同志として受け入れる」
 “灼陽”の同盟締結を告げる言葉に、ドクター・ハデスが高らかに笑う。
「フハハハハ! オリュンポスおよび、この天才科学者である俺が諸君に協力する以上、もはや龍族との戦いは勝ったも同然だ!
 どれ、まずは手始めに、“灼陽”の修理を手伝ってやろう。旗艦がいつまでも地べたに這いつくばっていては情けなかろう。元の姿を取り戻させてやる」
 ドクター・ハデスの申し出に、“灼陽”が興味を惹かれた様子で食いつく。
「本当に出来るのか?」
「無論だ! 我らオリュンポスの技術の前に、不可能はない!
 聞いたな十六凪、今から我々は“灼陽”の修理を行う! お前たちも指示に従い行動せよ!」
「「「ハッ!!」」」
 十六凪と、秘密結社オリュンポスの戦闘員たちに命令したドクター・ハデスが、目論見通りに事が運んだことに満足した笑みを浮かべる。
(ククク……まずは我が野望、天秤世界の征服に一歩近付いたな。
 鉄族と手を結び、龍族を早期に撃滅する。その後鉄族と天秤世界を確固たるものにしつつ力を蓄え、然るべき時に鉄族をも滅し、天秤世界の覇者となる……。
 我ながら壮大、素晴らしい計画よ! さあ、俺の天才的な知識を存分に披露してやろう!)