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リアクション
「やれやれ……」
アルブムが吹っ切れたのを見て、ニゲルは頭を掻きながらと呟いた。
東 朱鷺子(あずま・ときこ)はそれを見てクスッと笑う。
「案外、妹思いなんですね」
「出来の悪い奴ほど可愛いもんだろ。
……そんなことより、お前も行かなきゃ行けない場所があるんじゃないのか? 行けよ」
ニゲルが命令すると、朱鷺子は心配そうな顔をした。
「大丈夫ですか? お一人で……」
ニゲルは機嫌良さそうに大笑いをした。
「がははっ、笑わせるんじゃねーよ。ほら、さっさと行きな」
「はい……お気をつけて」
朱鷺子はニゲルに背を向けると、振り返らずに走り去る。
ニゲルが朱鷺子の背中を見送っていると──鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)が背後から奇襲を仕掛ける。
「ニゲル、覚悟!」
言うが速いか、偲は抜刀術『青龍』を仕掛ける。
氷を纏った白刃がニゲルの背中に真っ直ぐと伸びるが、
「おっと!」
ニゲルは刀の鞘を素早く握ると、振り向きざまに居合いを放つ。
「ぐっ……!」
刀身の衝撃が柄まで響き、偲は思わず顔をしかめて後ろに退る。
「残念だったな。俺は背後から襲われるのには慣れてんだよ」
そう言ってニゲルは刀を鞘に戻して、再び居合いの構えを取る。
「馬鹿にして……!」
明らかに誘っているニゲルの姿に触発されて偲も居合いの構えを取ると、再びニゲルの懐へと飛んで、抜刀術を見舞う──が、ニゲルの居合い斬りが偲の刀と腕をはじき飛ばしてしまう。
「おらおら! そんなんじゃ死んじまうぞ!」
ニゲルは抜刀したまま追撃するように刀を振り下ろす。
「くっ!」
偲は紙一重でその剣筋をかわすと、偲は一気に後退し──入れ替わるように七刀 切(しちとう・きり)が特攻し、ニゲルに斬りかかる。
切の自在刀にニゲルは刀を合わせ、押し返すように一歩右足を前に出した。
「見ねえ顔だな……誰だてめえ……」
「あぁ、ワイは今回の件とは全然関係ないただの観客だよ」
「そうかい……なら、観客席にすっこんでろ!」
ニゲルは鍔迫り合いから切を蹴り飛ばす。
切は逆らわずに後ろに飛び、地面に足が着くとそのままニゲルに向かって再び飛び込み、顔に向けて抜刀術を放つ。
まるでライトボクサーのジャブのように素早い抜刀が幾度となく続き、ニゲルは楽しそうにそれを自身の刀で受け止める。
「中々筋はいいが……」
ニゲルが言い終わる前に、抜刀された刀がニゲルの顔に向かい──歯で止めると、そのまま頭を振り上げて切の身体ごと放り投げてしまう。
「全く、化け物だねぇ……!」
切は壁を蹴って体勢を整えると、そのままニゲルから距離を取る。
「おいおい、もう仕舞いか?」
ニゲルはそのまま片手で刀を振り下ろし、切は刀を上段に構えて受け止める。
「胴ががら空きだぜ」
峰でも刀を支えたせいで守りが手薄になった胴にニゲルの爪先が突き刺さる。
切は顔を歪めながら刀を切り返すと、刀を横に薙いだ。
「っと!」
ニゲルは後ろにさがりながら意外そうな顔をする。
「へえ、あの蹴り食らって反撃するとは思わなかった。
まだ戦意は残ってるみたいだな。ま、せいぜい気合入れとけ。そしたら、いくらかは寿命が長くなるだろうしな」
「それはこっちの台詞だって!」
切はニゲルの気合いに圧されることなく、再び斬りかかっていった。