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リアクション
時計塔
明人の電話を受けたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は満身創痍だった。
目の前には、邪魔をするセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)。二体のオリュンポスガードの相手をルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)がしている。
セリスは機晶魔剣インテルフィセレをアキラに向けて容赦なく振るう。
「くっ!」
アキラも七星宝剣でなんとか受け止める。
「そんな傷だらけの身体でまだ抵抗するか!」
セリスは叫ぶ。
事実、傷だらけのアキラの動きは痛みに支配されてお粗末になっている部分が目立つ。
セリスはインテルフィセレを七星宝剣から離すと、横に薙ぎ払う。
アキラは咄嗟に後ろに飛んでそれをかわすが、薄皮一枚切られていたようで身体にまた傷を一つ増やした。
オリュンポスガードも両手のマシンガンから遠慮無く鉛玉を吐き出し、銃口をルシェイメアに向ける。
ルシェイメアは弾幕から逃れるように走り回るが、もう一体のオリュンポスガードが白兵戦で正面に立ち、殴りかかってくる。
大振りで当たりこそしないが、足を止めて蜂の巣にするまでの時間稼ぎならば十分すぎるほど役目を果たしていると言えた。
「あうっ!」
マシンガンの弾が身体をかすめて白い肌から血が吹き出ると、ルシェイメアは再び的にならないように走り出した。
「やれやれ……邪魔をしないで頂きたいな」
マネキ・ング(まねき・んぐ)は防衛計画を展開すると、アキラたちの位置を把握して雷を落とす。
「させぬわ!」
ルシェイメアはアブソリュート・ゼロで氷の壁を作ると、雷を防いだ。
攻撃の隙を見計らってヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)がルシェイメアに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
言い終わるのとほぼ同じくくらいのタイミングでヨンはナーシングをかけ、ルシェイメアの出血を止めた。
「ありがとう……少し楽になったわ」
そう言ってヨンの頭を撫でていると、再びセリスが叫んだ。
「いつまで無駄な抵抗をしている気だ! いや……こんなものは抵抗とも言えないぞ!」
確かに、セリスが言うようにこの状況を抵抗と呼ぶにはいささか疑問があった。
その疑問を象徴するようにセリスには傷一つついておらず、アキラは対照的にボロボロ。当然のことだった──アキラたちは攻撃を仕掛けないからだ。
「……」
叫ぶセリスに対して、アキラは何も答えない。
それならば、と玉藻 御前(たまも・ごぜん)がアキラに声をかける。
「おぬしは、一体なにを考えておる?
まさか、わらわ達からこの時計塔を奪い、我が物にする気つもりかえ?」
その質問にアキラの表情が少しだけ緩んだ。
「こんなもの、使うべきじゃないよ。……みんなね」
アキラは今まで抜かなかった七星宝剣を抜き放つと、床を二度刀身で叩いた。
「……? おぬし、一体何を」
玉藻が訊ねるのとほぼ同時に──時計塔が大きく揺れた。
思わぬ揺れに玉藻とセリスが膝を着く。
「な、なんだ!」
「おぬしら! 一体何をした!」
二人が叫ぶと、アキラはよりハッキリと笑みを浮かべるとアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が突然目の前に現れた。
「光学迷彩……。まさか……!」
玉藻は何かに気付き驚愕を顔に浮かべ、アリスはニイッと笑ってみせる。
「お察しの通りデス! この時計塔に爆弾を仕掛けて、今一つ目が爆発しましタ」
「そういう事。早く逃げないと生き埋めだ」
アキラの言葉を聞いて、セリスは奥歯を噛みしめる。
「まんまと嵌められたわけだ……!」
爆音と共に時計塔が不気味に震え、床が傾き始める。
「まさか、まだやるなんて言わないよな?」
「心中するつもりはない……マネキ! 玉藻! 撤退するぞ!」
そう言うとセリスは堂々とした足取りで、時計塔を降りていった。
「さ、俺達も逃げよう」
アキラはふらふらの足取りで窓から飛び降り、アリスたちもそれに続く。
アキラは翼の靴、ルシェイメアは歴戦の飛翔術、ヨンは自力で飛行し、アリスはヨンにしがみつき、壁から火を噴く時計塔に目を向ける。
まるで血を吐くようにあちこちから爆発の火が漏れ、時計塔は徐々にその姿を瓦解させていくと──最後はあっさりとその姿を崩壊させてしまう。
こうして、時計塔は完全にその姿を消した。