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リアクション
エレベーターを経て、最上階に着いた明人とエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)。
二人は交渉の場に指定された首領の部屋に入り、アウィスと対面を果たしていた。
周囲には強面の男達が数十人と控えていたが、アウィスは男達に止まるように手で合図を出すと、両手を広げ、わざとらしく歓迎の意を示した。
「ようこそ、ようこそ。こんな地獄の果てまでよく来てくれたよ。物好きな客人だ。お茶でも飲むか? そんなもん置いてないけど」
喉を鳴らすようにアウィスは笑うが、二人の表情は少しも崩れない。
「……せっかくだ。少しゆっくりしていけよ。これでも見ながら」
アウィスは二人の反応に気分を害したのか、つまらなそうな表情を浮かべながらモニターの電源を入れ、廃墟前のライブ映像を流した。
地獄のような光景だった。
怒号。
悲鳴。
血飛沫。
発砲音。
ここまで匂いが届きそうな血の色。
そんな映像が流れて、アウィスは嬉しそうに笑い……二人の表情は怒りに歪む。
「うんうんうんうん、とりあえず俺様が見たい表情が見れて満足。さあ、本題に入ろう」
アウィスは、自分の真正面にある三人掛けのソファーを勧める。
だが、二人は座るつもりは毛頭無く、その場で声をかけた。
最初に声を発したのはエリシアだった。
「まずは質問がありますの。よろしいかしら?」
「っひは。いいぜ、どーんと来なよ」
「まずは、このペンダントの使い道をお教え願えるかしら?」
「おいおい、今さらその質問かよ。どうせ知ってんだろぉ?
ま、いいか。大型機晶兵器の時計塔を動かすためだ。そのペンダントはそれの鍵なんだよ。次は?」
「わたくしたちの身の安全の保証はありまして?」
「っひは、お前らの振る舞い次第じゃねぇの?」
その答えに腹の底からむかっと怒りが湧くが、エリシアは我慢して次の質問をした。
「どうやら、なにか怪しげな行動をとっている第三勢力があるようですが……その対抗策は考えているのかしら?」
「あっひゃっひゃっひゃ! それマジで言ってんの!?」
アウィスは腹に両手を当て大笑い。
「いくら反旗を翻そうがたった二十人程度じゃないか。それに対して我らコルッテロは百七十八人! いくら腕が立とうが勝てる道理がないだろう!」
ひとしきり笑ったあと、アウィスは「さーて」と言い、目尻の涙を拭いた。
「それで、質問は終わりか?」
「……いいえ、最後に一つ」
「まだあるのかよ。ほれ、さっさと言ってくれ」
「これは、個人的にお聞きしたい事なのですが……」
エリシアは先ほどまでとは違い、厳しい表情を浮かべた。
地獄のような光景が映る液晶を指さす。
「あなたは……あそこで死んでいく部下を見て、なんとも思わないんですの?」
声はわずかにだが、怒りで震えていた。
それとは対照的にアウィスは心底不思議そうに目を丸くしていた。
「別に? なんとも? 逆に聞くけど、俺様がなんと思ってたら満足なんだ? ああ、可哀想な部下達が敵に無残にやられていく。俺様はなんて不甲斐ないボスなんだ……ってか?」
壊れたオモチャのような甲高い声でアウィスは笑った。
心底楽しそうに。
今世紀最大のジョークでも聞いたように。
「あなたは……!」
エリシアは怒りでそれ以上言葉が続かない。いや、目の前の異常な人間を前にして次の言葉を考えられなくなったと言った方が正しいだろう。
そんなエリシアを見て、アウィスはまだ笑いが収まりきらない状態で問いかけた。
「例えばだ。お嬢ちゃんが、露天でキャンディを買うときに手放したお金のことを思って泣いたりするのか? 泣かないよな? そりゃそうだ。欲しいものを手に入れるための必要経費だって分かってるんだからよ」
「人の命とお金を一緒にしないでくださいな」
「ああ、これは失礼。人の命とお金じゃ釣り合わないな。どう考えたって金の方が重い」
そう言って、アウィスは大笑い。
そしてピタリと笑い声を止めると、いつの間にか上を向いていた視線を戻して二人を見つめる。
「お嬢ちゃん。こうなることを俺様達は全員、覚悟をして今ここにいるつもりだ。
……まあ、そんなことはどうでもいい。ここらで意味もない会話は終わりにしようぜ。お互いにとって、長引けば損しかねぇはずだ」
今度は子供のように目を輝かせて、そう言ってくる。興奮しているのか声もうわずっていた。
「計画の鍵を渡すかどうか。そちらさんの総意を教えてくれよ――彦星明人」
答えは決まってるようなもんだがな、とアウィスは付け加えた。
全員の目が一斉に明人に向く。
「ああ。僕たち、特別警備部隊の総意は――」
明人はペンダントを握りしめ、一言一句しっかりと言い切った。
「――この鍵を、渡さない」
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