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第ニ章 闇は深く……3

「お前たちの好みの生徒を差し出そう。その代わり、今後、協力体制を取ってくれないか?」
 神門 月夜(かむど・つきや)は出会った吸血鬼にそう交渉を持ちかけた。
 しかし、吸血鬼はすぐにそれを断った。
「そのような交渉、乗る必要もない」
「なぜだ?」
 月夜の問いに、吸血鬼は顎である方向を指し示した。
「我々の魅力をもってすれば……あの通りだ」
 吸血鬼が示した先では、森の中に迷い込んだノア・トランティニャン(のあ・とらんてぃにゃん)が吸血鬼に魅了され、とろんとした表情を浮かべていた。
「やめて……僕は……」
 普段後ろで束ねている緑色の髪が、吸血鬼によってほどかれている。
「……この方が美しい。そして、真実を隠してはいけないな」
「あっ……」
 吸血鬼の白い手が、ノアの制服にかかる。
 イルミンスールの制服についているローブはすでに剥ぎ取られていて、吸血鬼の手は、ノアのウエスト部分から入った。
 そして、吸血は自らが語った『真実』を探り当てようとする。
「ほ、本当のこと言うから……」
 助けを求めるノアの声は、すぐに吸血鬼によって否定される。
「必要ない。むしろ、言わぬと意地を張っているがいい。それを突き崩す方が面白い」
 救いの道が閉ざされたノアは緑色の瞳に、絶望の色を浮かべた。
 しかし、窮屈そうに体の中を這う手が、ノアの肌を刺激すると、その瞳の色が徐々に変わり始めた。
「そ、そんなこと、しな……いで……」
 ピンク色の唇から出る言葉は否定の言葉。
 でも、ノアの体はその言葉に反し始める。
 僕は女の子が好きなのに、こういうことをされるのではなくて女の子にこうしたいのに……。
 そう思いながら、ノアは吸血鬼の手に落ちていった。
 
 西條 知哉(さいじょう・ともや)はそもそもは他校の生徒と行動を共にしていた。しかし、気づくと、パートナーのネヴィル・スペンサー(ねゔぃる・すぺんさー)と二人きりになっていた。
 腕試しに行きたいというネヴィルに促され、暇つぶしに来ただけのはずだった。
 それがこんな事態になるなんて……。
「ネヴィル!」
 知哉はパートナーの名を呼ぶ。
 森から植物のように生えた触手が、主である吸血鬼の命じるままに、知哉を拘束し、高いところに上げていた。
「くそ、なんだってんだよ!」
 ネヴィルの純白のドレスに吸血鬼の手が入れられても、知哉はそれを見ていることしかできなかった。
「……私だけでいいでしょう。知哉には手を出さないでください。っつ……」
 とろっとした液体の感覚を感じながら、ネヴィルは自分を襲う吸血鬼にそう語りかけた。
 元々はネヴィルが行きたいと言って来た森。知哉にまで危険を及ばせたくないと考えていた。
 吸血鬼はそんな願いなど聞かない。
 だが、今の吸血鬼は金色の流れる髪を持った美しい剣の花嫁に夢中で、平凡そうな知哉になど興味を示さなかった。
「それでいい……」
 ネヴィルは交渉の結果でなくても、知哉さえ助かればそれで良かった。
「……もっと、もっと強くならなければ」
 自分の弱さがネヴィルには恨めしかった。
 こんなことではいつか自分だけでなく、知哉まで巻き込んでしまう。
 吸血鬼の手が、そんなネヴィルの決意を嘲笑うかのように、指を這わせる。
「……くっ」
「ネヴィル!」
「見ないでくだ……さい。知哉……」
 知哉に自分の恥ずかしい姿を見られながら、ネヴィルは知哉を救うために吸血鬼が満足するまで、その恥辱に耐え続けた。
 
「これはこれは何と良い光景でしょうか……!」
 明智 珠輝(あけち・たまき)は知哉とネヴィルの様子を見て、震えるほどの喜びを覚えた。
「今までたくさんの破廉恥な光景を見ましたが……これはまた一味違っていいですね」
 パートナーを人質に取られて、抵抗できなくなった剣の花嫁。
 黒薔薇を手に入れるよりも面白い光景だった。
「ほぅ、そこではそんなテクニックを駆使するのですね。私だったらもっと××を重点的に攻めますね。ふふ」
 様子を眺めながら、珠輝はその様子を事細かに書にしたためる。
 後で、パートナーのリアに朗読してやるためだ。
 しかしその大事なメモ書きを、誰かがすっと後ろから取った。
「何を……」
 次の瞬間、珠輝の唇が塞がれた。
 ねっとりとした唇の感触に、反射的に驚いた珠輝だったが、すぐにそれに応酬した。
 珠輝の舌が相手の唇に入り、その中を舐めまわす。
 吸血鬼は自分に反撃してきた珠輝を迎い入れるように、珠輝の舌に自分の舌をからめて応えた。
 長い長いキスの後、珠輝は体を少し離し、その吸血鬼を見た。
「おやおや、私に似ていますね」
 珠輝と同じく、黒い服に黒いマントで、優美な雰囲気を醸し出していた。もっとも、どちらかというと、珠輝が吸血鬼に似た姿をしているのだが。
 珠輝は隠れていないほうの左目で、じっとその吸血鬼を見つめ、「ふふ」と笑った。
 優雅な動きで、吸血鬼の頬を撫で、甘く問いかける。
「吸血鬼さん……優しくしてね」
 その願いを吸血鬼が聞いたかは分からないが、吸血鬼はこの儚げな美青年の首筋にそっと唇をつける。
 噛まれるかと思った珠輝だったが、吸血鬼は珠輝の首筋から少しずつ上に行き、耳の方までじっくりと舐めていった。
「ふふ」
 珠輝が含み笑いを浮かべる。
 そして、自ら求めるように、吸血鬼と共に快楽の渦に陥って行った。