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蒼空サッカー

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序章 開催告知

 どこかから、クラシックの優雅な曲が聞こえてくる。
 放課後の百合園女学院。若葉も鮮やかな並木が並ぶ中に置かれた掲示板の前に水無月 良華(みなづき・りょうか)は立っていた。
 彼女の眼は、その中の一枚の文書に止まっている。
 文書は文字ばかりの地味なもので、ともすれば周囲の他の告知プリント――例えば「サークル会員募集!! 連絡は○○まで」「××研究会会合開催 見学歓迎」等――に埋もれてしまいそうなものだ。
 件名は以下の通り。
          「第一回蒼空杯サッカー大会開催 
               および参加者・実行委員ボランティア募集のお知らせ」
「ん? 興味有るの?」
 声をかけられて水無月良華が振り向くと、ちびっこい女の子がこちらを見て微笑んでいる。
「え……と、あなたは?」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)。おねえちゃん、サッカー好きなの?」
 お姉ちゃんとは自分の事を指しているらしい。
「嫌いじゃありませんよ。でも、ほら」
 水無月良華は眼を告知のプリントに戻した。
「最近のサッカーって、私の知ってるのとは全然違うんですねぇ、って」
 プリントの下に書かれているルールは、良華が思いもしなかったものだった。
 2キロ×3キロにもなる広大なフィールド、一度に二つ用いられるボール、オフサイドの撤廃etc――
 すると、ヴァーナーは、くすっ、と笑った。
「おねえちゃん、おねえちゃん。それはこの試合だけの特別ルールだよ?」
「え?」
「普通のサッカーは、戦闘したりとか魔法とかのスキル使ったりなんてしないよ。あ、でも、バーストダッシュとか、普通に使えそうなスキルはあるかな?」
「そうですよね。やっぱりこれって、ちょっと変わったサッカーなんですよね」
 誤魔化し及び照れ隠しに、良華もちょっとだけ笑ってみる。一瞬でも本気にした自分がちょっと恥ずかしい。
「で、おねえちゃんは出るの?」
「うーん……ヴァーナーちゃんはどうします?」
「この事みんなに知らせてから考える。だって面白そうだもの」
 そう言って、ヴァーナーは手に抱えている紙の束を掲げて見せた。
 それはサッカー大会の告知のプリントだ。味も素っ気もない紙面に少しでも彩りを添えるべく、カラー用紙にコピーしたものが数十枚。
「それ、これから貼っていくんですか?」
 頷くヴァーナー。
「あ、ちゃんと『貼っていいですか』って訊いて、『いいですよ』って言われたんだからね?」
「そう。偉いですね」
「うん、ボクは偉いんだよ?」
「それじゃあ私にも、偉いヴァーナーちゃんのお手伝いをさせてもらえませんか?」
「ありがとう! じゃあ、次はこっちの方ね……きゃあっ!」
 駆け出した直後、ヴァーナーは派手にすっ転び、手元のプリントを地面にばらまいてしまった。
「あぁ、もう、慌てるから」
「うぅ、痛いよぉ」
 良華はヴァーナーを助け起こしながらも、地面に散らばったプリントの文言が気になりだしていた。
       「2.第一回蒼空杯サッカー大会参加選手募集のお知らせ
          上記サッカー大会に、選手として参加する生徒を募集いたします。」
(選手として参加……)
 少し、胸が高鳴る。
 選手として参加――