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【学校紹介】空京大学へ行こう!

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【学校紹介】空京大学へ行こう!

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 3.研究棟
 
 
 本校舎から少し歩くと、似た様な形の「箱モノ」が立ち並ぶ施設にぶつかる。
 各学部の研究棟群だ。
 短期間で建てた為だろうか? 効率を重視する空大らしく、外見からはどの棟がどの学部のものなのか、見当もつかない。
 そうした次第で、大抵の者は入り口のプレートを確かめて入ることになる。
 
 ■
 
 その一棟――医学部研究棟の研究室にて。
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はこともあろうか、「マッサージ屋」を開いていた。
「見てみろよ! この最新の設備、真新しい機材!」
 ラルクはぐるりと室内を見渡す。
 そこには、低周波器や、治療台を改造したマッサージ台等が所狭しと置かれていた。
「見学に来た奴は、この暑さの中だ! 疲れてんだろ?」
 窓の外を眺める。
 空は青く、ギラギラの太陽が地を照りつけている。
「スポーツ医学を駆使して、マッサージをしてやるよ。日頃の疲れも夏バテも、これで一気に解消だぜ!」
 ラルクはひたすら室内で待ち続けた。
 だが、宣伝不足だったようだ。
 客は1人も来ない。
「うーん、勘のいい奴なら1人くらい来たってよさそうなもんだけどよぉ。そういう訳にもいかなかったか……」
 仕方なく、ラルクは自分の肩コリを最新の設備を使って治すのであった。
 だが後日、誰が見たのか「医学部の研究室に行くと、気持ちの良いことをしてくれるらしい」という謎の都市伝説が空大に広まることとなる――。
 
 ■
 
 その頃。
 文学部研究棟のシャンバラ現代文学研究室で、石井 美沙(いしい・みさ)は「研究発表会」を開いていた。
 が、やはり客は来ない。
 宣伝不足のようだ。
「仕方がないでございます! こうなったら、ヤケでございますわ! 皆様! 私の詩(うた)を聞くでございます!」
 マジックペンをマイク代わりに握りしめて、絶叫。
 かと思いきや、キャップを取り去り、サササササーッとホワイトボードに文字を殴り書きして行った。詩のようだ。
 
 いしゆ いしい いしいみさ
 さみしい さりしい いしいみさ
 みしみぞ みしみし いしいみさ
 いみしん いみしの いしいみさ
 
 さあ! このなぞ、だれがとけるかな? いえ――いっ!!

 
「やっぱり、私は『天才』でございます!」
 額の汗をぬぐいつつ、美沙は満足そうに自分の作品を眺めるのであった。
 もちろん、「両手の位置は腰」で。
 
 ■
 
 美沙がホワイトボードを前に自画自賛していた、ちょうど同じ頃。
 社会学部研究棟文化人類学研究室――別名コミュニティ【さくらんぼの会】では、会長の藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が品評会を開いていた。
 その名も――。
「干し首・『さくらんぼ』・『だんご』の類の研究発表を兼ねた品評会、ですよ。うふふふ……」
 優梨子はお嬢様然とした容姿に、血生臭い笑みを浮かべる。
「さくらんぼ」・「だんご」……って、ひょっとして、アイテムでパラ実生が好むという「あれ」ではないので?
「ええ、そうですね」
 優梨子は平然と言いきって、まだ作品の乗っていない展示台の上に手を置く。
「そして、本日は作品と出展者の方もお呼びいたしましたのよ。もうすぐパートナーの蕪之進が、先生方をお呼びして下さると思いますわ」

 そして彼女の予告通り、まもなく宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)は作品を手にした首狩族達を研究室へと案内した。
「お嬢のいう通りにしたけどよぉ」
 蕪之進はびくついたまま生気がなく不気味な首狩族達をちら見する。
「いくら根回ししたからって、大荒野の蛮族だろ? 大丈夫なのかねえ……」
 自分の首まで取られてはかなわん、蕪之進は忍び足で遠ざかる。
 だが、彼の心配など分からぬかの如く、優梨子は作品を展示し終えたばかりの首狩族達に、作品は得票制であることを告げたうえで。
「ああ、そうでした! お約束の賞品ですね……」
 自分の首に手を当てる。
「私の首を狙って立ち会いができる権利、とでも言ったら、どうでしょう?」
 
 おおっ!
 
 首狩族達の顔に急に精気が戻った。
 かと思えば、票を集めるため、研究室の外へと飛び出してゆく。
 こうして、「神出鬼没な首狩族」達は空大の新たな観光名物となるのであった。
 
 ■
 
 同じ頃――。
 何も知らない湯島 茜(ゆしま・あかね)はスキル「根回し」を使い、ひとり空大福祉学科の「監視役」共を説き伏せていた。
「だからぁ、ただの展示会だってば!」
 構内にわらわらと蠢く影――首狩族の姿を指さしては説明する。
「え? 文化人類学研究室だよ!
 だからぁ、現地の人を呼んで伝統芸能の実演をしてもらうけど。
 あくまで展示と発表だから、心配ないってば!」
「はあ、展示と発表ねぇ……」
 ぽりぽり、監視役達はスキルのせいもあって引き下がる。
 それに首狩族達は手にしているのは、票集めの壺だ。
 何らおかしなことはない。
「まったくもー、これだから、エリートって言う奴は石頭で嫌になっちゃう!」
 ぷーっと膨れ面で研究室への帰り道、パートナーのエミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)に会った。
 彼女は『だんご』を作って、作品の展示に来たところだった。エミリーは【さくらんぼの会】の会員なのである。
「それにしても、律儀だねえ……」
 余程大切なものなのだろう。綺麗な布にくるんである。
(『だんご』ね……エミリーは食べ物ではないと言っていたけど)
 そう、茜は【さくらんぼの会】の活動については知らない。
 蛮族の伝統文化を守るボランティアくらいの感覚だ。
 そして、無知は事件の発端になる。
 研究室について間もなくのことだ。
 エミリーが布から「だんご」を取り出して展示した。
「え? エミリー……これって、人の首なんじゃ……」
「うーん、極めて惜しいです、茜さん」
 ハッと振り返る。
 武器を手にした優梨子が茜の後ろに立っていた。
「では、実演で研究発表とかえさせて頂きます。茜さん、御覚悟!」
「じょ、冗談じゃないよっ!」
 茜とエミリーは「ナラカの蜘蛛糸」をかいくぐり、優梨子の魔の手から逃れた。
「仕方がないですね」
 優梨子は残念そうに溜め息をつく。
 が思い直して蕪之進に構えた。
「では、発表材料になって頂けますか?」
「でぇ! お嬢! そりゃねぇよ!」
 だ、旦那方ぁー! 蕪之進は首狩族達に必死になって取り入る。
 彼らのとりなしもあり、蕪之進は無事に難を逃れた。
(根回しって、大事だぜぇ……)
 優梨子でなく、自ら首狩族の根回しに出向いたことを、蕪之進はこの時ほど良かったと思ったことはない。
 
 ■
 
 その頃、別室では何も知らない天宮 春日(あまみや・かすが)空野 功(そらの・いさお)と共に、ぼんやりと「さくらんぼ」の作り方の説明を聞いていた。
「『さくらんぼ』って、なんだろうね〜? 伝統芸能って聞いたけど」
 春日は功をのぞき込む。
 その髪型はポニーテールではなく、二つ結びのおさげだ。
(功は気づいてくれるかな?)
 今日の私、「乙女モード」なんだけどなぁ……。
 けれど、功は発表者の説明を熱心に聞いているだけだ。
「ほんと、功は真面目だよね〜。ま、そういうところが好きだけど」
 最後の語尾は小さい。
 功は聞いてないのか、さっと手を上げて。
「すみません、以下の点が少し気になったのですが……」
 発表者に質問する。
「では、『さくらんぼ』とは2つつなげたもので、『だんご』とは3つつなげたものなのですね」
「そうです」
 研究員は冷静に頷く。
「…………」
「他に質問が?」
「……あ、いえ。何でもないです」
 一瞬春日の無邪気な面を見て、功はノートに目を戻した。
(さすがに『さくらんぼ』の材料は……って。春日の前ではやめておいた方がいいか)
 今の講義から察するに……と、功は青くなる。
(そういやあ、さっき会長さんが「実演」するとか言っていたな。なあーんか、嫌な予感がするんだが……)
 サッサと立ち去った方が良いのだろうか?
 功は顎先に手を当てて、苦悩する。
 その様子を、何も知らない春日は勉強熱心だ、と勘違いするのであった。
 (空大進学したら、功のこんな日常が見られるのね〜。何だかワクワクしちゃうな!)
 
 その後、功は発表が終わるのを待って、研究室を後にした。
 彼の決断力の速さにより、最悪の事態は回避できたようだ。
 
 ■
 
 工学部研究棟の研究室では、裏椿 理王(うらつばき・りおう)神代 明日香(かみしろ・あすか)が見学に来ていた。
 2人の目的は、もちろん空大の代名詞たる「スーパーコンピューター」である。
 
 が――。
「研究発表会はないみたいですぅ〜……」
「だな」
 と、理王は明日香の言葉に舌打ちする。
(これだけ有名な研究室なのに、研究発表をする「主催者」が1人もいなかったとは! 大誤算だったぜ)
「でも、研究室をのぞくことは出来るのですね?」
 理王の表情を読み取ったらしい。
 明日香は研究室の外にある「見学はご自由に」の看板を指さす。
 研究員はいないが、スーパーコンピューターに触れることは出来そうだ。
 
 2人の後から、少し遅れて機材を抱えた桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)が研究室に入っていく。
 
 屍鬼乃の目的は、「スーパーコンピューター」におけるデータ送信妨害の有無やセキュリティーシステムのチェックだった。
「よし! これで端末から機材につなげて……と」
 キーボードを操作し、次々とテスト項目を打ち込んで行く。
 オールクリア! 一部の隙もない。
「さすがは空大ってことか! テスト用のスパコンでも性能は空京一だぜ!」
 おーい、と契約者の理王に成果を報告する。
「ま、予想通りといったところだが……」
 理王は、屍鬼乃をさがらせて、「もうひとつの実験だ!」と称し、勝手に端末をいじくりはじめた。
 内蔵されたテスト用のデータを操作し、ある結論を導き出そうとする。
 誰にも知られてはならない、秘密の実験で。
(「今年のミス空大予想」、これしかないだろ!)
 テスト用とはいえ、そこは空大だ。
 いい加減なものであろうはずがない。
 俗なデータで、あえて空大生のレベルを試す。
(……などと意気込んでみたはいいが、こりゃなんだ?)
「?」を頭の上に浮かべて、理王は首を傾げる。
(数字と公式とアルファベットと暗号の羅列……このデータが、「今年のミス空大予想」の結果だと!?)
 余りにマニアックすぎて、頭の感覚がついて行けない。
「だが、これは第六感で察するにだなぁ……」
 困り果てて窓の外に目を向けた時、空飛ぶ箒に乗った宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)と目があった。会釈。
「知的だ……」
「? どうした? 理王」
「いや、何でもない」
 咳払いを1つ。あの女が、あのデータの持ち主ではないのだろうか? と思う。
 理王は頬をあからめつつ、祥子のスタイルとデータを脳内で合致させるのであった。
(空大……こいつは、侮れないぜ!)

 一方――。
 明日香は空いているテスト用のスーパーコンピューターをいじっていたが、何のことやらさっぱり訳が分からなかった。
「これは、どなたか詳しい方に助けを呼ぶよりほかはないですね……」
 ふと見ると、廊下に人影がある。
「パルメーラ・アガスティア……さん?」
「うん、そうだけど? どうしたの?」
 パルメーラが明日香の元へタタッと駆け寄る。
 なぜ、このタイミングに? とも思うのだが。
「うん、さっきから研究室に来る人、みんな助けを呼びに来るんだ! だから、ひょっとして、って思って」
「なるほどですぅ〜」
 明日香はパルメーラからスーパーコンピューターについての簡単な説明を受けた後。
「サインもらってもよいですかぁ〜?」
 ペンとメモ帳を差し出した。
「うん、いいけど……あたしのでいいの?」
 目を丸くする。
 けれどサラサラとパルメーラはサインをして、研究室を出て行った。
 なんだかんだと忙しいらしい。
「でも、あの子ってパラミタ人なんですよね? 一応」
 明日香は素朴な疑問を口にする。
「何語でサイン書いたですかぁ〜?」
 さあーてさて、期待の入り混じった目で、そろそろとメモ帳を開く。
 そこには、何と!!
 ……ただの「日本語」が書かれてあった。
「『パルメーラ・アガスティア』。ま、あの年齢の方にしては達筆な字でございますぅ〜」
 しかしパルメーラの年齢って、いくつでしたっけ? 魔道書だし、と明日香は首を傾げるのであった。
 
 ■
 
 研究室の展示や発表は力を入れているところが多いので、閉門の時間まで部屋の明かりが消えることはなかったようだ。
 協力者の方も、参加者の方も、遅くまでお疲れ様でした。