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尋問はディナーのあとで。

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第二章 魅了されし者

 時は刻一刻と進むが、牢獄の中では時間の流れを感じる事は出来ない。
 今は昼なのか、夜なのか――それすらもわからない空間。そこはブルーローズの牢獄。抜け道もなければ希望も見つからない。蒼く冷ややかな牢獄である。当然、そこでは目を覆いたくなるようなおぞましい光景が密かに行われている。牢獄の端に存在する説教部屋で……。
 禍々しい儀式に誘われた九匹の子羊。そして、中央のベッドに目隠しされ、両手両足をベッドの足にロープで大の字に縛られた二人の乙女はサクリファイス(生贄)である。


 ☆     ☆     ☆


 リナ達が傭兵を連れて、ブルーローズの牢獄に入ってきたのは二時間ほど前だった。だが、入ってきたと同時にセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が飛び掛った。
 セレアナと一緒に装備を奪われ、衣服も最低限の物しか身につけていない状態で監禁されると言う屈辱を受けた二人は、見張りを倒し脱出しようと思ったが、リナの命令に絶対服従なのか、見張りは何をやっても人形のように反応しなかった。反応のない以上、脱獄は出来なかったので、一人一人確実に仕留めていくしかない。
「リナ様。ここは我々にお任せを……。」
 分厚い鎧で武装した衛兵達は、手にした長さ五十センチほどの鉄の警棒を横に振り払う。
 だが、素早く懐に入り込んだセレンフィリティは、掌底で敵の顎を打ち抜く。武器もなく、正面から分厚い鎧を打ち抜くのは不可能と感じた彼女は、人体の急所を責めたてる。どんなに守っても急所は急所、【壊し屋セレン】の呼び名は伊達ではない。傭兵の落とした警棒に取ると、敵の兜を殴りつけ視界を奪う。
「……伊達に教導団歩兵科出身じゃないわよ! あたしは!!」
 その横で戦いをしていると思えないほど、素っ気無い表情で敵の攻撃を避わすセレアナは、セレンフィリティよりも過激だった。腕を決めたら折る。首を決めたら折る。華麗な動きで敵を倒し、目的のリナに迫る。

 だが、『サディスティック・リナ』の首を狙っていたのは、セレンフィリティだけではない。ブーツを履けば二メートルに達するであろう、百八十を超える長身の雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だ。彼女は牢屋の中で何をするわけでもなく、リナとの対峙を待っていたのだ。
 名前、お嬢様、執事。その噂を耳にした時から、リナリエッタはイラついていた。
『みんなが言わないなら言ってあげる。一言、ムカつくのよ!』
 それ以上の動機はいらなかった。『私がムカついたのだから、警察も裁判官も要らない。』幼い頃から帝王学を叩き込まれた、リナリエッタらしい行動である。彼女はゆっくりと腰をくねらせて、【悪疫のフラワシ】を発動させると未知の病原体を周囲にばら撒いた。これでリナ達を弱らせて、スキル【物質化・非物質化】で隠しておいたブツで勝負をつけようと言うのだ。
「リナ、私とタイマンしなさい! この世界に血が似合う女王様キャラは、この私エロスティック・リナ様一人で十分だからね!」
 リナリエッタは取り出したのは、作戦通りの黒薔薇の銃だったが、リナと執事はフラワシの影響を感じさせる事なく、突如現れた武器に驚いた様子もなかった。
「あら、貴女もリナって言うの? それは楽しそうね。」
 リナは素早くと鞭を振るうとリナリエッタの利き腕を襲う。リナリエッタはそれより早く、引き金を引くが何故か弾は出ない。
「うそっ!? いやあああぁぁぁっ!!!」
 そこへ鞭による激しい痛みと炸裂音が響き、リナリエッタは倒れてしまう。

「よぉーし、このチャンスに乗じて、あの変態お嬢様をシメるわよ……ぐえっ!?」
「馬鹿、ここは逃げるに決まってるでしょ。遠くから援軍が来ているのが聞こえないの。」
 暴走するセレンフィリティの首にラリアットを食らわせ、冷静なツッコミを交えながら廊下に躍り出るセレアナ。
「なんで邪魔するのよ。あたしはあのお嬢様を教育して……やばっ、逃げるわよ。セレアナ!」
「あの二人を逃がすな!」
 廊下まで衛兵らが追ってきたので、セレンフィリティらは逃げ去っていく。


 ☆     ☆     ☆


「クスッ、逃げられちゃったけど、ここにはまだたくさんの獲物が残ってますわね。シャドウ捕らえなさい。」
 シャドウの目の前には男? もしくは女がいた。その只ならぬ雰囲気にシャドウは足を止める。捜査のプロの意見を伺うとすればそいつは、
『十代から三十代、もしくは四十代から六十代で、女性だと思われるが、男性である可能性も否定できない。』
 何とも言えぬ恐ろしさを醸しだしていた。
「どうしたの。シャドウ?」
 その禍々しさに慄いたシャドウにリナは尋ねた。それも無理はないだろう。異端の行為……シャドウの予想の斜め下の下を行う【相手】がそこにはいたのだ。
「さぁ、いばら(荊)の館の女王よ! オレを打ってくれ! 罵ってくれ! 完膚なきまで痛めつけてくれ!!」
 天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)は全裸になると、床に頭を擦りつけ、平伏していた。低く、より低く、徹頭徹尾なまでの美しい土下座。昔、双子の妹がいたような気がしたが、そんな事はどうでもいいぜ! まさに全面降伏であった。しかし、当然の如くリナには通じない。ガン無視と言うか、汚らしい虫を見るような視線で見られてしまう。
(あぁ……その冷酷な視線……我が生涯、鬼羅星!)
 天空寺はその場に蹲ると、仁義を通すように感涙を零したと言う。

「次はっ!?」
 リナが声を上げると、目の前に扇子を持った神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)が立っていた。紫翠は扇子を大きく広げると、口を覆いながら小声でボソッと呟く。
「初めまして……友達いないんですか? ……中には、色んな趣味の人いると……思いますけど……ふふ……」
「ほう……」
「あら、紫翠がこちら側につくのなら、わたくしもこちら側につきますわ。不本意ですけどね。」
 続いて、紫翠のパートナーのレラージュ・サルタガナス(れら・るなす)も、リナ側に翻る。
「牢獄から逃げたり、館の中に隠れている人がいたら捕まえてきますよ……ふふ……」
「リナさん。鞭うちの趣味は……人を選びますから……別の趣味見付けた方が良いですよ。相談に乗りますし。」
 二人は抵抗なくリナの隣に立つ。
「う、裏切り者ぉーーー!!!」
 後ろで誰かの声が響いたが、それが誰なのかはわからなかった。

「いやぁ〜、それにしてもなかなかのサプライズだな。このホテルは。」
 それまで様子を伺っていた神子山 大元帥(みこやま・だいげんすい)は周囲を見渡しながら言った。
「この凝ったデザイン。部屋も趣があるし……」
「何を言っている。そこの男。痛い目に遭いたいのか?」
 リナは神子山の方へ、鞭を向ける。
「痛い目? 痛い目には遭いたくないな。出来れば楽しい事がいいのだが?」
 どうやら、彼は状況を理解してないらしい。この状況をアトラクションか何かに来ている物だと勘違いしているようだ。
「……連れて行きなさい。衛兵。」
「ん? ん? どこに連れて行ってくれるのだ? 食事は出るのか?」
 神子山は衛兵によって、説教部屋へ連れられていく。


 ☆     ☆     ☆


「さて、残りは十人。二人ほど隠れているようだけど、この私の目を誤魔化す事は出来ないわよ。さぁ、降伏して、この私に跪きなさい!」
 リナは鞭を大きく振りかぶると床に叩きつける。様々な想いはあるものの、武器も逃げ道もないこの状況では降伏せざる得ない。そして、九人が次々とリナの元に降った。

 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)
 白石 忍(しろいし・しのぶ)
 リョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)
 リタ・ピサンリ(りた・ぴさんり)
 ベネデッタ・カルリーニ(べねでった・かるりーに)
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)
 皆川 陽(みなかわ・よう)

 ただ、二人を残して……。その二人とは風間 宗助(かざま・そうすけ)とパートナーの小鳥遊 アキラ(たかなし・あきら)である。心配性のアキラは、何かをしようとする宗助が心配でしょうがなかった。だが、その心配をよそに宗助はツカツカとリナに歩み寄るとこんな事を言ったのだ。
「リナさんは友達をつくる為に秘密を求めていると聞きました。僕なんか友達になれませんか? 友達なら、秘密くらいお教えしますよ。」
「……う、五月蝿い! 黙れ、黙れ! 私はお前みたいな偽善者が一番嫌いなのよ!! とりあえず秘密を吐きなさい。話はそれからよ! シャドウ、こいつも連れて行きなさい!」
 リナはシャドウに命令し、シャドウはそれに従った。その時、宗助は不思議に思った。――リナの表情と奇妙な間である。

 紫翠とそれほど違う事を言ってはいないのだが、宗助と紫翠に対するリナの態度は明らかに違った。気になってよく見ると、紫翠とレラージュはどことなく魅入られた表情を見せている。どうやら特異な条件が重なると、リナにテンプテーション【魅了】されてしまうようだ。たとえば、自身の心にリナと仲良くしたいと言う意思があったり、ある神のいたずらなのだろうか。