空京

校長室

戦乱の絆 第2回

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戦乱の絆 第2回
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リアクション

 ヴァイシャリーの館内部・戦闘1

 どうっと、館の正面・扉を開けて、西側勢がなだれ込んできた。
 将官の1人が、時計に目を止める。
 浮遊要塞「マ・メール・ロア セット」の到着予定には、十分過ぎる程の余裕がある。

 時間はあるぞ!
 焦らずに、進め!
 
 目指すは、「最上階」。
 内通者達からの情報で、アイシャの居場所についてはとうに周知されている。
 西側は、アイシャ救出部隊、理子代王部隊、館外からの流れで戦闘に参加する部隊の、主に3つに分かれて進撃を開始した。
 
 ■
 
「みんなぁっ! あたしに、続けえ――っ!」
 剣を掲げて威勢よく中央突破を図るのは、西シャンバラの代王・高根沢理子だ。
 先兵たちが斬り開いた道を、勢いに任せて突っ走る。
 
 理子目掛けて、階上から矢が放たれる。

「危ない! 理子代王っ!」
 キンッ!
 剣で薙ぎ払うと、拓海はそのまま理子の脇を固めた。
「理子様、お怪我はございませんでしょうか?
 拓海! パワーブレスを!」
 フィオナ・ストークス(ふぃおな・すとーくす)は拓海の攻撃力を高めた後、理子の怪我をヒールで癒す。
「御身は、シャンバラにあっては大切なお方。
 さあ、理子様はわたくしどもの背に」

「拓海、フィオナ!
 私も加勢致しますわ!」
 度会 鈴鹿(わたらい・すずか)織部 イル(おりべ・いる)を伴い、理子の背後に立った。
「鈴鹿、どうやらただお守りに来ただけではないようだな?」
「ええ、拓海さん。
 私、理子様に、今一度ご再考を願いに参りましたの」
 呼吸を整えつつ、進言する。
「東のお友達から聞いたのですが……
 セレスティアーナ様を吸血しようとしたアイシャさんがあまりに辛そうだったので、
 セレスティアーナ様が止めさせたのだと。
 アイシャさんが代王様方の血を得て女王になれるとしても、
 本当にそれで良いのでしょうか?
 なんだか、アムリアナ様が二度と戻られないような……
 そんな予感もしてしまうのです」
「鈴鹿の言、お聞き届け願えないであろうかの? 理子殿」
 イルが畳み掛ける。
「アムリアナ様も御身同様、シャンバラにとっては大切なお方。
 吸血の件は、今一度待っては頂けないものだろうか?」
 理子の顔色を窺う。
 理子は困ったように笑って、だがはっきりと頭を振った。
「ジークリンデがそうしたいのだもの、余程の事があったんだと思う。
 私にはわかるんだ!
 それにあの聡明なジークリンデがよくよく考えての事なのよ?
 早まったまねではないと思うわ!」
 確かに、ジークリンデの考えと言われてしまえば、それはつまり、歴代きってのと謳われた「女王の判断」そのものなのだ。
 理子の考えだけならまだしも、反論のしようがない。
「では、私どもは、精一杯お勤めを果たさせて頂くだけですね……」
 2人はそのまま残って理子の盾となり、彼女と共に上階を目指すこととなる。
 
 彼等の傍に、【理子’sラフネックス】皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)皇甫 嵩(こうほ・すう)の勇姿。
「皆がお諌め致しましたのにも関わらず、理子様はお立ちあそばされましたですぅ。
 されど、私はロイヤルガード。代王を守るが『務め』……仕方ないですねぇ」
「殺気看破」で妨害勢力の存在を嗅ぎあてる。
「理子様のお通りですぅ! 退きなさいっ!」
 パワードレーザーで、必勝のスナイプ!
「理子様、危ない!」
 【理子’sラフネックス】アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)は「庇護者」で、アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)と共にダメージをカバーする。
「アクィラ、ようやりました! そのままお守りするのでございます!」
 嵩は「紋章の盾」で理子と伽羅への攻撃を防ぎつつ、指揮を執る。
「ロイヤルガードの推挙に、泥を塗る訳にはいかないしね!」
 アクィラは鼻先で笑う。
 彼は嵩の「根回し」により、伽羅を通して理子の「盾」役として護衛についていた。
「アカリ、逃げるなら今のうちだよ?」
「既に剣電弾雨が飛び交う中。
 貴官を代王陛下と二人きりにすることなど出来かねます」
 アカリはパワードレーザーの照準を定めつつ、冷静に答える。
「よう申しました、アカリ」
 嵩はホールの大階段を指し示す。
「ではいざ、敵陣中へ!
 理子様を、両代王をアイシャ殿と謁見させるのでございます!」
 
 理子は護衛の者達に守られ、安全にアイシャの部屋を目指した。
 彼女達の脇をすり抜け、次々と「アイシャ救出部隊」の本隊が大階段を駆け上がって行く。
 
 ■
 
 先陣切って行くのは、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)だ。【龍雷連隊】の協力者として、先制攻撃を仕掛ける。
「どいて、どいて、どいてえええええええええええええええええええっ!」
 どごんっ!
 館脇に小型飛空艇ヘリファルテが突っ込む。
 そのままフルスロットルで特攻!
 東側の何人かが犠牲になったようだ。
「だからどいてって、言ったのにぃ!」
 ロートラウトはプウッとむくれると、怪我人を救出してから、エヴァルトと共に大階段を目指した。
 どけどけどけえええええええええええ! と叫ぶのは、エヴァルトの方。
 彼は二振りの槍を、時には両手で、時には連結してランサーのように振り回し、道を切り開いていく。
「行くぜ、切り込み隊長・エヴァルト様のお通りだぜっ!
 死にたくない奴は、近づくんじゃねえ!」
 東側の兵士達がうなりを上げて向かってくる。
 エヴァルトは舌打ちすると、演出用の「精霊の知識」を使いつつ雄叫びを上げた。
 
 パラテッカァァァ!!
 
 肩装甲部から火術が放たれる。
 それだけで、周囲に立つ兵士達の足は止まった。
「先に行け! 敬一」
「……恩にきるぜ、エヴァルト」
 同じく、協力メンバーの三船 敬一(みふね・けいいち)白河 淋(しらかわ・りん)は片手を上げると、彼の脇を抜けて駆けた。一礼して、西側勢が続く。
「いいさ。そのかわり、アイシャの吸血には意見してくれ!
 現女王の安全も守られるのかどうかって、な!」
 
「アイシャ、か。
 会えたら、自己紹介の一つでもしておくか……」
 敬一は大階段を前に、最上階を見据えた。
「龍騎士団とその手先ども、か。
 東の生徒と、出来ればやりあいたくはねえがな……」
 エヴァルトの派手な立ち回りが、単なる「けん制」に過ぎないことを知っている。
 敬一は「弾幕援護」を使うと、一気に大階段を駆け上がろうとした。
「これで、まともな殴り合いも出来ねえだろ?」
「油断大敵ですよ! 三船さん!!」
 
 ガッシャアアアアア――ンッ!
 
 吹き抜けの天井から、豪華なシャンデリアが落ちてきた。
 留め金に、巧妙な細工の跡がある。
 淋はサイコキネシスを解除すると、敬一に駆け寄った。
「誰かが仕掛けたね? トラッパーかしら?」
 
 ♪ ……ラ……ラララ……
 ♪ ラララ……ララ……
 
 悲しげな歌声が流れてくる……。
「み、三船さん、足に力が……っ!」
「聞くな! 『悲しみの歌』だ!
 誰が歌ってやがる!?」
 
 その歌い手、アルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)はホールの踊り場で、遥か階下の西軍達を見据えて独唱していた。
「けれど、所詮は多勢に無勢。
 『悲しみの歌』もボク1人だけじゃ、限りがあるよね」
 でも、歌い続けるよ!
 東側の、龍騎士団様達の勝利を信じて……
 彼女の傍らには、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の姿。
 彼女のトラッパーは既に敬一達に看破されている……。
 
 歌声が止むのと同時に、西軍は(大した妨害がなくなったせいもあり)再び勢いを増した。
 だがそこには、館内最強の兵士達――ヘクトル団長率いる「第七龍騎士団」総勢20数名が、侵入者達をナラカへ屠らんと待ち構えている。
 
 ■
 
「だが、我々は退く訳にはいかんのだ!
 行くぞ!」
 【龍雷連隊】松平 岩造(まつだいら・がんぞう)隊長殿の一喝で、隊員達は果敢に龍騎士達に対して攻撃を開始した。
 龍騎士――とはいえ、「第七龍騎士団」の隊員達は契約者とそのパートナー。「神」ではない。
 そうはいっても、彼等の闘気は「龍騎士」を彷彿とさせる。
 関羽レベルの強さはゆうにある、ということだろう。
 だが、関羽とて「無敵」ではない。
「つまり、勝てない相手ではない、というだ!」
 岩造は結論付けると、連隊を鼓舞する。
「相手は有象無象いる訳じゃない。
 たった20数名だぞ!!」
 
 誰か! 先陣を務める者はおらんのか!?
 
 岩造の一言で、同連隊の夜月 鴉(やづき・からす)ユベール トゥーナ(ゆべーる・とぅーな)が進み出る。
 先刻まで、アイシャについて尋ねていた新人隊員2名だった。
「俺達、2人!
 アイシャのため、精一杯頑張るぜ!」
 せやっ!
 鴉は果敢に龍騎士に向かって行く。
 だが相手は歴戦を経てきた、ツワモノだ。
「腕比べじゃ、勝てねえってか!?」
「だが、3人が相手なら!
 加勢するぞ!」
 岩造とファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)が加わる。
「じゃ、あたしは皆をサポートするからね!」
 はっ! ユベールはヒールで3名の傷ついた体を癒す。
「無念。3対1では、我も叶わぬ。
 契約者の力とは、かくも侮れぬものか……」
 龍騎士はドウッとその場に倒れた。
 はあはあはあと肩で大きく呼吸を繰り返す。
 その鴉の方に岩造は手を置いて。
「よくやった、新人。この調子で、次も叩くぞ!」
「は、はい! 隊長!」

 水渡 雫(みなと・しずく)ローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)はひたすら武力行使で正面突破を図ってきた。
「アイシャさん、アイシャさんを助けるです!」
 特技「白兵武器」とガントレットで、階段を駆け上がって行く。
 ローランドはそんな雫をヒールでサポートしつつ。
「他に方法がなかったのかねぇ?
 これではアイシャ君に会う前に、水渡雫が死んでしまうよ?」
「で、でも!
 あ、あたしは頭が悪くて……他に方法なんか……っ!!!!」
 最後のビックリマークは、踊り場に龍騎士が立っていたから。
「いざ、勝負!」
 きえいっ! 剣を一閃。
 2人はサッと飛んでかわすのが精いっぱいだ。
 雫は半泣きで、頭を抱える。
「えーん、ローランドの杞憂が当たっちゃいました!」
「だが諦めるのは、早いぞ!」
 雫に前に、2つの影。
「誰?」
「俺は瑞江 響(みずえ・ひびき)。これは、パートナーのアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)
 言い終わらぬ内に、2人は臨戦態勢に入った。
「アイシャの所へ行きたいのか? 加勢する」
「!? あなた達も、アイシャさんに会いに来たのですか?」
 雫は立ち上がってガントレットを構えた。
 3対1――龍騎士は雫達の前に敗北した。
「アイシャさんは最上階らしいです」
 雫は上階を見上げた。
「さ、急ぎましょう」
「いや、俺は……まだだ」
 響は首を振る。
「約束を果たさなくちゃいけない」
「約束?」
「ああ、セレスティアーナとあわせてやりたい。
 アイシャの事、教えてやらないと……どこに居るか、知っているか?」
 雫達は頭を振る。
「分かったら、1番にお知らせしますね?」
「助かる、じゃあな!」
 そのまま響はアイザックに守られつつ、階段を降りて行った。

 すれ違いざまに、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)
 ふわりと、空間から浮かび上がるように現れた。
「『光学迷彩』も、ここまでかねぇ? 龍騎士達相手じゃ通じないだろうし……」
 戦闘を避けるようにしつつ、銃型HCを時折操作している。
 何してるんです? 雫が声をかけた。
 瑠樹は面倒そうに片手を上げる。
「館内構造の地図を作っているんだよ。
 必要だよねぇ? こういうのも」
 あ、と雫の手が止まる。
 そういえば、自分に館内構図を教えてくれた西側の者達は、そういう奴等が動いているからこそ分かるのだ、と言っていたことを思い出したのだ。
「あ、ありがとうね!
 キミのそれ! とっても助かってるよ!」
「そいつはよかったねぇ」
 ニッと、一瞬眠そうな笑みを向ける。
 作業に戻る。
 彼の後ろで、倒れた味方をせっせと回復させているマティエの姿がある。