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学園鬼ごっこ!!

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学園鬼ごっこ!!

リアクション


第一章 
「さてさてぇ縲怩ヘじまりましたね縲怐I」
 報道志望の羽入 勇(はにゅう・いさみ)は、一眼レフカメラを構えて生徒に声をかける。
 体育館に集まった生徒たちを駆け回り、カシャカシャとシャッターを切りながらインタビュー。
「今のお気持ちはっ!?」
 さっそく突撃インタビューに巻き込まれたのは、のんびりオーラの漂うメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)
 勇が構えるカメラの、まんまるのレンズに写ったメイベルの瞳もまたまんまるで、微笑みながら意気込みを話し出す。
「最後まで逃げ切れるように頑張るのですぅ」
 おっとりとした口調で言い終えるマイペースな発言に、
「おう! 最後まで逃げ切ってみせる。 喧嘩上等だぜっ!!」
 威勢のいい声で同意し、レンズに割り込んだのはトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)
 勝負事は負けられないのが心情のトライブに圧倒されながら、その情熱にカメラのシャッターを二、三回切る勇。
「えっと、隣のお兄さんは?」
 今度は対照的に落ち着き払ったメガネの少年。御凪 真人(みなぎ・まこと)の真面目そうな表情がレンズに収まる。
「ぼくは、そうだな。前田さんの言い分がもっともだと思うので、風紀側に力を貸そうと思います」
 真人の意見は冷静ながらも力強く、これもまた勇を圧倒する。
 なにより、意見の食い違った二人が並んでしまったことに一瞬の気まずさを感じる勇だけれど、
 その場の空気がギスギスしていないのはそれぞれの信じる道があって、それを表す戦い方が、今回のイベントには揃っているからだ。
 お互いの生き方を表す戦い。
 自由と規則の聖戦。
 ……なーんて。シリアスなサブタイトルが記事の一面に、というのもいいな。とか思いながら勇はシャッターを切る。
 すると、一同が集められた体育館に蒼空学園の校長である御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が壇上に姿を現した。
 その瞬間、場の空気がぴたっと静まりカンナに視線が集められる。
「いやぁ、威厳があるというか、世界が違うといいますか本当カンナ会長は神秘的ですね」
 しみじみと影野 陽太(かげの・ようた)は言う。
 カンナの姿は同じ場にいるというのに、それを見つめる陽太の瞳は遥か遠くのものを見ているよう。
『英雄になりなさい、話はそれから』いつかカンナに言われた言葉を陽太は思い出していた。
 カンナのいう『英雄』
 それがどんなものなのか今の陽太には想像もつかなかったけれど、少しでも近づけるようにと陽太は今、ここに立っている。
「今回は皆知っての通り、鬼ごっこをしてもらうわ。詳しくは、彼に頼みました。
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)お願い」
 パチンと指を鳴らすと校内放送が流れ出す。

【あー、こちらは放送室。
 今回の鬼ごっこのルールを説明するぜ。皆耳をかっぽじってよーく聞け。
 まず、風紀委員側には一人ずつペイント弾が配られる。これは一般生徒に当てるためのものだ。
 このペイント弾が当たった時点で生徒側は試合終了、リタイアとなる。
 そして、今回カンナ校長が校内にしかけをほどこした。一筋縄ではいかないんだぜ。
 あと、これは忘れちゃいけねぇ。
 今回の事の発端であるのは、風紀委員の前田千鳥嬢。
 このお嬢さんの思い人である、ゆ……】


 ボカっ!!!!!

 鈍い音が響き、言葉の途中で放送は途切れてしまう。
「まぁ、細かいことはいいわ。とにかく鬼ごっこをすればいいのよ。いいわね」
 カンナは何事もなかったかのように生徒に言い聞かせたが、あの『ボカっ』は牙竜が殴られた音だった。
 カンナのパートナーのルミーナ・レバレッジが牙竜を静止させた音だ。
 体育館にいた誰もがそれにうすうす気付いており、普段手荒なことはしない生真面目なルミーナの一撃音をまじまじと聞いてしまったため、一同は揃ってゴクリと唾を飲んだ。
「以上よ。それでは皆、頑張りなさい」
 そんな生徒に目もくれないカンナはステージを後にする。
 すると、生徒は思い思いに準備を開始した。
「はい、どうぞ。これをつけてくださいね」
 大きなカゴに入れられたゴーグルをパートナーのヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)と共に生徒全員に配っていく蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)
「はいはーい、これつけてねー」
「……って、これすごい本格的なものを使うんだね」
 駒姫 ちあき(こまひめ・ちあき)は受け取ったゴーグルの重圧感に驚き、路々奈に突っ込む。
「当ったり前じゃない。ちゃんと事前にサバゲ部から強奪……こほん、借りてきたんだから」
 そう誇らしげに胸を叩く路々奈に、ちあきはここぞとばかりの笑顔を作った。
「嬉しい! 私を野蛮な男子から護るためにこんなものまで借りてきてくれるなんて!」
 ゴーグルを配っていた腕をとり、思い切り胸を押し付けるちあき。
「……え? あ? あの、『君のため』ってわけでは……」
「路々奈ちゃんだっけ? 私、あなたになら、撃たれても構わないかも!」
 と、ダメ押しの一言。
 押し付けられたバストの不自然な柔らかさに違和感を覚え、路々奈は気付く。
「あ! 君。もしかして……、おと……」
 その瞬間、路々奈の口を押さえるちあき。その力強さが全てを物語っていた。
「みなさんの、目が傷付いてしまったら大変ですしね……」
 ヒメナは、笑顔のままさりげなく助け舟を出す。
「そうよ、ヒメナの言うとおり! みんな、安全第一だからね!」
 あくまで『みんなの安全』を強調して、ちあきから離れる路々奈。
 その間をふさぐように、ヒメナがカーチェ・シルヴァンティエ(かーちぇ・しるばんてぃえ)にゴーグルを配った。
 
「はい、君もちゃんとゴーグルつけるのよ」
「……ふわぁ……あ?」
 あくびをし、目尻に少しの涙を浮かべながら黒霧 悠(くろぎり・ゆう)は気だるそうに路々奈を見る。
「あ、俺そーゆーのいいから。あんまやる気出ないしなー。誰かに指示されて何かをするってのが」
 またひとつ、あくび。
 そんな悠の様子に腰に手をつき呆れる路々奈であったが、「まぁ、いいわ」と一言。
「でも、とりあえずゴーグルはするのよ」
 そう言うと、半ば強引に悠の手にゴーグルを握らせる。
 全員にゴーグルを渡し終えると、手首で額の汗を拭く。
 あくまで借りてきたと言う路々奈だが、「あとで、なにか菓子折りでも持ってかなきゃね……」と独り言を呟いた。

「カンナ様主催の鬼ごっこだなんて!
 しかも、きっかけはバカップルで有名な千鳥ちゃんと勇介君ときたもんだっ!
 今回はラブラブ記事が書けちゃいそぉっ!」
 カメラのレンズを念入りに磨きながら、勇はこれからのことに思いを馳せていた。



■■■

「ぜってぇ風紀委員に従ってやるか!」
 千鳥の思い人である勇介が体育館を抜け、そう吐き捨てると
 金髪・細眉・柄シャツに派手なアクセサリーを身に着けた瀬島 壮太(せじま・そうた)が勇介の肩に自分の腕を組ませる。
「なっ、全力で逃げ切ってやろうぜ。ついでに俺の技でちょいと遊んでやるかな」
 その言葉には気合にくわえて、余裕すら感じとれる。
「誰も俺の邪魔はさせねぇぜ!」
 独自の改造制服を身にまとい、はなっから規則というものを守る様子のない支倉 遥(はせくら・はるか)もそれに続く。
「人間、他者から縛られるなんてあってはならないと思うんですよね」
 その言葉に遥のパートナー、ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が口を開く。
「ならば、校長の指示に従って鬼ごっことやらをやることは矛盾してると思うのだが」
「まぁ、でも追う人がいるのなら逃げる。それが男ってものですよ、ベア」
「分からない」
 ベアトリクスが首をかしげると、その二人を見て伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)は自分には関係ないといった様子で無言を突き通した。
「ま、面白けりゃなんでもいいんじゃねえの」
「……」
 楽観的な壮太の意見は考えるベアトリクスにはあまり響かない。

「ふーきいいんってのから逃げるゲームなんだよな?」
 そのあとに続いて、体育館をパートナーとあとにしたレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)
 よく分かっていないながらも気合十分なレイディスに藤原 すいか(ふじわら・すいか)が話しかける。
「面白いこと言うのですね」
 レイディスの言葉にすいかは淡々と答えた。
「レイちゃん、レイちゃん。私も実はその“ふーきいいん”なんですよ」
「お! 早速、ふーきいいん登場だなっ!」
「あ、でも私、一般生徒を撃つ気はないですよ。狙いはカンナ様ですから。ね、イーヴィちゃん」
 そう言うと、パートナーのイーヴィ・ブラウン(いーびー・ぶらうん)にペイント銃を渡す。
「ちょっと! 突然、渡されても困るわよ」
 いつもいつもイーヴィは何だかよく分からないうちに、すいかに物事を押し付けられる。
「だいたいね、カンナ様相手っていうのが無謀すぎるのよ」
「いいじゃないですか。せっかくの機会です」
 すいかとイーヴィの会話はいつまでも続いていく。
「まーなんかよく分からないけどペイント弾に当たらないようにすればいいんだよな」
 すいかとイーヴィを横目にレイディスはひとり気合を入れた。
「っしゃあ! いくぜぇ!」
 
 そんなレイディスを心配そうに見つめる美人朝野3姉妹。
 長女の朝野 未沙(あさの・みさ)が目を潤ませて、口を開く。
「レイちゃん、レイちゃん、心配だよぅ。今回もきっと無茶するんだわ。心配だよ」
 続いて次女・朝野 未那(あさの・みな)と三女・朝野 未羅(あさの・みら)も続く。
「だよねだよね! もうお兄ちゃんったらすぐ無理するんだからー見てられないよ縲怐v
「私達でレイディス様をお守りいたしましょう」
「そうね! 誰かに狙われたり、怪我をしてはいけないもの! 未那ちゃん、未羅ちゃん用意はいいわね?
 ただし、レイちゃんにも楽しんでもらわないと意味がないからすぐペイント弾を打っては駄目よ?」
 未那と未羅は頷き、早速朝野姉妹はレイディスを護る(?)ため出発した。


■■■

「よろしくね、前田先輩。おさぼりさんにはお仕置きけってーだよッ!」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)のパートナー、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が千鳥に抱きつく。
「そういうことです。我らは貴公を風紀に限らず全面バックアップします」
「???」
 巽の言葉がよく分からないといった様子の超鈍感少女・千鳥だったが、今回の気合は十分で目がメラメラと燃えていた。
(これで、勇介もきちんと学校に来るようになるわっ!)
「ちどりん、がんばろうねっ! 私もミニスカだからちょこっと風紀に反してるかもだけど応援するよっ」
 さすが蒼空学園一のアイドル。小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はきゅっと手を握り溢れんばかりの笑顔で意気込む。
 たしかにそのスカートは短すぎるので御凪 真人(みなぎ・まこと)は心の中でそんなことを思っていた。
「前田さんの話はもっともだと思いますので、俺は一般生徒側を叩きにいきましょうか」
 真人は頭の中で作戦をねり、1人でその場を離れた。
 
「わっかいよねぇ……まったく」
 千鳥たちを遠くで眺める佐々良 縁(ささら・よすが)がしみじみと言うと
「あなたも若いでしょう」
 と縁のパートナー、孫 陽(そん・よう)が相打つ。
「あははは」
 縁の渇いた笑いと共に、前田千鳥をとりまく風紀委員……千鳥応援部隊が出発をした。