リアクション
第7章 ヴァイシャリーへの帰還
一夜が明ける。
朝の光を浴びて白く輝くヴァイシャリーの街が、白鳥の泳ぐ先に見えていた。
デッキでは、フェルナンがまぶしそうに街を見つめていた。その横では琴理が背中を船縁に預け、白鳥の後をしぶしぶながら追う、黄色いアヒルを眺めている。
「まさか、校長が男性だったなんてね。あなたは知ってたの?」
「何が秘密なのかは、私……俺も知らなかったんですよ」
「そうなの?」
「ええ、驚きました。まぁ、これで彼女──いえ、彼も少しは楽になるならそれでいいのですが」
フェルナンの狙いの一つは、賭博場の事件を百合園生に解決させること。
そしてもう一つは、桜井静香のラズィーヤに縛られないようにすることだった。
そのために彼は二つの計画を進行しようとした。
まずオークションによる借金返済だ。これについては失敗してしまった。
次に桜井静香が、借金の他に握られているらしい弱みだ。
ただ、もしその秘密が彼にとって非常に重要なこと、話しにくいことならば、不特定多数に広まるのは不本意だ。受け入れてくれそうな周囲にだけ明かされればそれでいいと、そんな理由でヴァイシャリーから離れるために、わざわざ“船”の旅を企画したのだった。
「ラズィーヤ嬢がしっかりしてくれるのは良いことなのですが、あのまま一方的にいじられ続けるのは可哀想ですからね。お二人にとっても地球人にとっても、良いこととは思えませんし」
「それからあなたにも、ね」
「早く独立して、一人湖畔の別荘でのんびり昼寝でもしたいものです」
「お疲れのところ悪いけど、私を働かせた約束は覚えてるわよね?」
「承知してます。アップルパイでも何でも焼きますよ。アイスクリームも付けましょう」
食べ物の話だと分かったのか、琴理のポケットから、うさぎの着ぐるみのゆるスターが顔を出す。その頭をフェルナンは指先で撫でながら、呟く。
「駆け引きのないお茶会なら、俺はいつでも歓迎ですよ」
スイートルームでは、小さなベランダから、静香とラズィーヤの二人が、街を眺めていた。
「……静香さん」
「なぁに、ラズィーヤさん?」
「来月から、静香さんのお小遣いを増やすことにしましたわ」
「え? ええっ?」
唐突な申し出に目を白黒させる静香に構わず、ラズィーヤは言葉を継ぐ。
「それから、我が家でお料理教室も開くことにしましたの。朝早い時間もありますけど、校長として参加してくださいます? ……つくったものはお弁当としてお昼にいただくんですのよ」
「いいけど、あれ? それってラズィーヤさんの発案?」
「いいえ、白百合の園に咲く黒百合さんの発案ですわ。全く、今回は皆さんに踊らされてばかりな気がしますわね。静香さんも性別まで話してしまったそうじゃありませんの」
彼女は静香に目を向ける。性別を明かしたとはいえ、ピンクにフリフリの付いた女装は健在だ。
ラズィーヤとしては、自分だけのお楽しみ──それと知ってもドレスが似合う大和撫子──が知られて、ちょっと面白くない。
「……あのね、僕、自分でお金を返すよ。ちゃんと自分の手で稼いだお金で」
「今回は静香さんの勝ち、それは認めますわ」
ラズィーヤは、静香のほっぺたを突っつきながらため息をついた。
「静香さんは可愛らしくて、皆さんに愛されていますものねぇ……」
「──あ、運河だよ!」
静香は突かれながら、嬉しそうな声を上げた。
もうヴァイシャリーの街は、すぐ目と鼻の先だ。
二泊三日の湖での小旅行は、貯金箱がなくなったり、賭博で百合園生が捕まっていたり、湖賊の襲撃があったりで、トラブル続きな船旅だった。
静香の性別についても、それを知った百合園がどう反応するか不安要素は多い。ラズィーヤはいいと言ったが、校長職を続けることだって、受け入れられるか不安がある。
──だけど、来て良かった。
静香は、そんなことを考えながら、旅行鞄を取りに部屋の中へと戻っていった。
「桜井静香の冒険〜帰還〜」へのご参加、ありがとうございました。
無事観光客船はヴァイシャリーに戻ってくることができました。
今回の帰還時の湖賊との戦闘に関しては、敵船との船同士の戦力差があったため、敵船の機動力を如何に奪うかが重要なポイントとなっていました。しかも、逃げることも掌捕も考えた上で致命的なアヒル破壊を避けられた方もいました。勝利できたのは、皆さんの工夫されたアクションのおかげです。
特に三回続けてご参加いただいた皆様、大変お疲れ様でした。避暑のつもりが、最終回のリアクションをお届けしている現在、こちらの季節はすっかり秋も深まってしまいましたね。
船旅によってパートナーとの関係を新たにされた方、惜しくも目的を達成できなかった方、それぞれいらっしゃいましたが、楽しんでいただけたのでしたら幸いです。
さて、少しだけ重要なお知らせです。
全三回の船旅により、百合園の桜井静香校長に転機が訪れました。
まとめておきますと、
・実性別が男の子だとバレました。
・静香の実家には莫大な借金があることが明らかになりました。静香が節約していたのはそのせいです。
・実家の借金は、ラズィーヤが肩代わりすることになっていました。しかし条件は、「卒業まで男とばれずにとして校長職を続ける」ことだったのです。
・静香は自由に使えるお金が、ラズィーヤから貰える中学生並みのお小遣いだけでした。しかし、ぶたさん貯金箱騒動で、神倶鎚エレンさんのラズィーヤへの交渉により、ラズィーヤから貰えるお小遣いがアップしました。中学生並みから高校生並へ。
・同じく神倶鎚エレンさんの交渉により、ヴァイシャリー家でお料理教室が開かることになりました。朝の会に静香も参加して、毎日とはいきませんが、お弁当を持参するようになります。お小遣い節約になりますね。
次に、PCさんについてです。
桐生円さんについては本文にあります理由の通り、停学処分とさせていただきます。
「有沢が発表する」「百合園が舞台」の「次回シナリオ」(実質、次回の有沢発表シナリオ)は、参加されてもほぼ描写無し(停学処分を受けている描写)という扱いになります。また、今後百合園体制側には警戒される存在となります。ちなみに、これらは“現在のところは”他マスターへは影響しません。
次回予告ですが、今回のリアクションの結果を受けて開かれることになった「お料理教室」をやってみたいと考えています。
その後は、申し訳ないのですが、私事により、マスタリングにしばらくお休みを頂くことになっています。お休みの間は、キャラクタークエストやその他のかたちで「蒼空のフロンティア」と関わっていく予定です。
では、宜しければ、また次回でお会いいたしましょう。