First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
ガレー船の通路は狭い。否が応でも敵に会う。甲板から階段を降りた三人は、一路火薬庫に向かっていた。
赤髪のシャンバラ人マリア・ペドロサ(まりあ・ぺどろさ)が先頭に立ち、ランスで道を切り開く。傷ついた彼女に最後尾の雨宮 夏希(あまみや・なつき)から“ヒール”が飛ぶ。
「大砲があるってことは、きっと火薬庫もあるはずだ」
シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)の推測は正しく、船倉の一つは火薬庫となっていた。鍵はランスで扉ごとぶち破る。
シルバはその中に“爆炎波”を放つ──下手をしたら、船は木っ端微塵に砕け、沈んでいただろう。
しかし幸いなことに、湖賊は遠洋航海する必要もなく、最低限の火薬しか積んでいなかった。故に彼らが吹き飛ばされ、轟音と共に部屋が弾け、船壁がぶち破られて、煙を上げるだけで済んだのだった。
「け、けほっ……」
通路で煙に巻かれ、つい盾を通した左手で顔を庇いながら、ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は咳き込んだ。盾の表面からガンガンと衝撃が伝わってくる。吹き飛んだ木辺がぶつかっているのだった。
「お、お姉様、ご無事ですか? やっぱりこんなことをしなければ宜しかったのでは……」
「言ったはずですわよ。もとの持ち主に返すにせよ、学院で役立ててもらうにせよ、ここに置いておくのは下策ですわよ」
「相手はこっちから略奪しようとするような奴じゃん。手柄を立てれば、その分貰うのが戦場の慣わしってもんじゃん」
姉と呼ばれたジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)に続き、アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)が賛同する。
「もう、あなたはいつもそうやって……ここは昔でもないし地球でもない、パラミタですのよ」
ジュスティーヌは諫めるが、マッセナは聞いてもいない。どうやっても自分のものにしたいと考えているからだ。
「そうですわよマッセナ。これは一石二鳥……いえ、三鳥も四鳥にもなる作戦ですのよ」
爆破の理由は分からないが、船が沈むほどのダメージではなさそうだ、と判断し、ジュリエットはその作戦を続けるよう指示した。
三人は今までカタパルトやバリスタでの遠距離戦に、侵入する生徒を後方から銃で支援をし、後続として船に乗り込んできた。甲板は任せ、下に潜り込んだその目的は、金目の物だ。ついでに、ガレー船の漕ぎ手が奴隷だったら解放もしようと思っていたが、残念ながらそうではなかったらしい。
「どこかしらね〜」
爆発で混乱する通路にまばらにある扉を、ジュスティーヌが盾になっているうちに、ジュリエットとマッセナが解錠していく。そのうち船長室らしい比較的広い部屋を見付けることができた。
いかにも宝箱といった風情の木箱をちょちょいとこれも解錠すれば、中にはお約束のようにまぶしい宝飾品や金貨が詰まっている。三人はそれを軽い順からポケットに突っ込んだ。
「……これが因果応報というものですわ、おーっほっほっほっほ」
「これ貰っちゃ駄目駄目?」
「駄目ですわよ、ラズィーヤ様に許可を取って、これは校長に捧げるんですから」
ラズィーヤはそれを軍に渡すことを提案し、後に軍から得た報奨金の一部を静香に渡すことにしたのだが、それはまた後日のお話である。
一方、白鳥の上でも迎撃戦が行われていた。
「略奪か意趣返しか……どうやら後者でございますかな。遠距離から船体を攻撃するべきと思いましたが、こうなっては乗り込みを防ぐほかありません」
バリスタで矢を打ち込んでいた皇甫 嵩(こうほ・すう)が、アヒルを睨む皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)に進言した。
「そうですねぇ。とにかく敵正面戦力を少しでも削ぐのですぅ」
元々護衛のつもりで船に乗り込んだ伽羅だ。ここで戦わなければただの無駄飯食いになると、軍人らしく張り切っている。
嵩はうんちょう タン(うんちょう・たん)に、
「うんちょう殿には、“破壊工作”をお願いするでございます」
大砲と衝角、舵機。これらを破壊すれば大分有利になる。うんちょうはあい分かったと返事をして、ショットガンを手にまだ残っている大砲を壊しにアヒルに移った。逆に橋を渡って来ようとする湖賊は嵩が船縁からランスで突く。
伽羅は別の橋の近くで不慣れな弓を携えつつ、中空にティーポットを取り出し、熱湯を湖賊に浴びせかける。
同じく教導団の比島 真紀(ひしま・まき)も、乗り込みを防ぐために雷術を放つ。湖賊達はカトラスが引き寄せた電撃に武器を思わず取り落とした。サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は彼女の横でアサルトカービンで支援する。
二人とも、湖賊といえどむやみに傷つけるつもりはない。無力化した彼らは、その辺に転がっているロープで手足をまとめて縛っていく。
「拿捕したいとフェルナンは言ってたけど……帆はぼろぼろになっちまったな」
「幸いマストは残っているであります。こちらの予備があれば、後からでも張れるかもしれませんな。それから、漕ぎ手さえいればたいした距離ではありません故、ヴァイシャリーまで連れて帰れるでありましょう」
さっきの火薬庫の爆発はちょっと気になるが、と思いつつ、サイモンに真紀が答える。
ウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)は橋の真正面に立って、ランスで後衛を守りつつ、湖に湖賊を振り落としていく。パートナーのフェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)は横でメイスを構えながら、傷つくウェイルにヒールをかける。
「せっかくの旅行なんだから邪魔するなよなっ」
「そんなこと言って、放っておけないのがウェイルらしいね。ちょっと嬉しいな」
百合園生も、他校に負けてばかりもいられない。
秋月 葵(あきづき・あおい)とエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)も橋を守る。
「『白百合団』の名の元に、器物破損および略奪行為の現行犯としてあなた方を拘束します」
ちなみに、白百合団はあくまで百合園の自治組織なので、外での逮捕権はない。
「わわっ、マカロンちゃん駄目だよっ!」
葵は、突然ポケットから顔を出したゆるスターを慌てて押し込む。その隙を突いて、カトラスの斬撃が襲いかかる。避けたは良かったが、身体の動きに遅れてついてきた長い髪の一部が切り取られて舞う。
「よくも私の大切なものに傷を……許さない……貴方達全員……完全消去(デリート)します」
エレンディラの目つきが変わる。葵の髪を切り取った、赤バンダナの湖賊に容赦なくランスを突き出し、転んだところを追い打ちをかけるように上から突き刺していく。
「エレン、ストップ! ストップ! それ以上したら湖賊さん死んじゃうから〜」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は和泉 真奈(いずみ・まな)の祈りによる神の祝福を受け、メイドながらハルバードを携えている。と言っても、全員と戦う必要はない。ロープを使って乗り込んで来る相手に向けて、“子守歌”を歌えば、彼らはたちまちに眠りに落ち、湖の中に転落していった。
──生徒達の奮戦により、やがて立っている湖賊の姿が見えなくなると、ミルディアは大きく息を吐き出した。
「何とか終わった、かな? まぁこのメンバーだけで真っ当に対応できただけでも巧く行った、って言っていいかな?」
「湖賊も何とかなりましたね。しかし、恒久的な対策を取らないと、後々大変なことになりそうですね……」
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last