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それぞれの里帰り

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それぞれの里帰り

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 入ってすぐ右手に階段、左手に和室、正面の扉の先には台所が。
  御剣 紫音(みつるぎ・しおん)はドアノブを握りて、扉を開いた。開いて見えたのは、これも期待通りのトイレだった。
「何一つ、期待を裏切らないな」
「おぃおぃ、あんまり荒らすなよ、この人数で家捜しされたら収拾つかないっての。…… そこは、扉を見れば分かるだろ?」
「風呂場、だな」
 伸ばした手を一度止めて。それでも開いた。十分に足も伸ばせない程の浴槽が座り込んでいた。
「悪かったな、小っさな風呂場で」
「いや、落ち着きのある、良い風呂場だ」
「それ、褒めてるか?」
 扉を閉めれば、ガラガラガラと。こちらもどこか懐かしい。
「あの…… 涼司くん」
 話を立ち聞いた事を気にしているのだろうか、この規模の家なら立ち聞きになるのは仕方がないだろうに。火村 加夜(ひむら・かや)は伏し目がちに訊いていた。
「あの…… ご両親はやっぱり、今日は戻らないのかな?」
「あぁ、明日の夜になるってよ」
「…… そうですか……」
「ん? どうかしたか?」
「あ、いえ、ただ、一度きちんとご挨拶をしたいと思って」
「挨拶? あぁ、要らない要らない、居ないのが悪いんだ」
「そういう訳には…… それに…… 会っておきたいですし、その、今後の為にも」
「今後?」
「あっ! いえ… その私… 何でもありません! 忘れて下さい!」
 焦ったままに、加夜は手提げの袋を山葉に突き出した。手土産として、フルーツを使ったジェラートを作ってきたのだという。
「お、おぅ、悪ぃな何か、気を遣わせちゃったみたいで。これは…… 冷蔵庫だな」
 小型の保冷箱に入っているようだが、この暑さだからな、早めに冷凍庫に入れるに越したことはない。それにしても……。
 加夜が顔を真っ赤にしてる事に、この男はなぜに気付かないのだろうか…。 山葉 聡(やまは・さとし)から事情を聞いていなければ、ただのニブイ奴なんだと思うだけだっただろうが。
 やはり、設楽 カノン(したら・かのん)の事で余裕がなくなっているのだろう。意識不明だった幼なじみが知らぬ間に目覚めていて、しかも自分の事を覚えていなかった。しかも覚えていないにも関わらず 『リョウジ』 という存在だけは大切な人と認識しているという。
 こうして事項を並べただけで、ツライ。俺も涼司の立場だったらショックだと思う。今回の帰省だって、気持ちを落ちつけようと考えての事なんだろうけど。
「山葉、せっかくだから、この辺、案内してくれよ」
「はぁ? 今着いたばかりじゃねぇか」
「いいだろ? 外で思いっきり羽を伸ばそうぜっ」
 こんな時は籠もれば籠もるほどウジウジするってもんだ。悩むのがバカらしく思える位に体動かして騒げば良い。
「ん、まぁ別に良いけどよ。外、暑いぞ」
「知ってるよ、だから行くんだよ」
「? また訳の分からんことを」
 冷凍庫にも、冷蔵庫にさえ物は殆ど入っていなかった。両親は旅行の前準備はしっかりするようだ。
「ま、確かに、この人数を飽きさせないだけのエンタメ性は、この家には無いからな。外、出るか」
 ………… エンタメ性? ま、まぁ良いだろう、準備が整い次第、というか必要な準備など皆無に等しい訳だから、すぐに皆に呼びかけて出発だ。
 童心が悩みを吹き飛ばし切るまで騒ぎ倒すのだっ!



 ………………………… って!!
「何でゲームしてんだぁああああ!!!」
 おぉ、紫音がツッコんだ。なかなかにダイナミックなツッコミだね。
 標的から目を離さずながらでも周囲の音は耳に入っていた。ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は冷静だった。
 目指すは山葉 涼司(やまは・りょうじ)、今まさにコントローラを握りテレビ画面に目をギラつかせている、その人である。
「なっ! なぜここで距離を」
「見せたるわ! 俺のスーパーコンボ−−−って! なんやっ!」
「ふっ、その技なら知ってるぜっ! 発動前に小突けば問題ない!」
「くっ、ほんなら、これや!」
「なにぃ! お前、それは…」
 白熱してるなぁ。でも、今なら。
「…… ねぇねぇ、山葉君」
「あぁ?! 何だ!」
「台所、見てきても良い?」
「あぁ良いよ、見て来いよ。うっ、お前、汚ぇぞっ!」
「何言うねん、こんなん常識やろ」
「それがアリなら、こっちだって!」
「…… ねぇねぇ、山葉君、二階の部屋も窓を開けて、空気の入れ換えをした方が良いよね?」
「あ? あぁ、そうだな… って! 何だ、その技っ!」
「知らんなら、死んどけや!」
「何だ?! 何だ何だ、その動きは!」
「山葉君…… の部屋の窓も開けておくからね」
「あぁ! あぁ? あぁ! 任せるぅ…… って、ちょっ、ちょっ、あぁ〜!!!」
 ミッションコンプリ−ト。
 ボタンを押す速さが更に上がっていた、というか殴りつけてるようだった。何を答えたか、なんて事は何一つ覚えていないだろう。
 了承は得た、後は、影のように消えるべし。
 部屋の隅で心配そうな瞳をしている火村 加夜(ひむら・かや)に、頷いて見せると、その顔がパァッと明るくなった。
「うぉおぉぉぉおぉぉぉ!!!」
「あっ、あぁああっ、あぁぁぁあああっ!」
「おぉっと、ここで社選手一撃決めました−ッ! これは大きい!」
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)の絶叫実況が入り、山葉君がうなだれた。それでもすぐに顔を上げて目を剥く辺りがゲーマー魂というものだろうか。
 とにもかくにも今のうちに。ルカルカたちは二階へと上がりますよん♪