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リアクション
【File1・行動を開始せよ】
P.M. 12:21
蒼空学園は創立より何度も危機に陥ってきた。
それゆえ。件のメールが送られ、植物モンスターが暴れ出してからの行動も早かった。
三十分と経たないうちに、大半の生徒達は既に逃げるか立ち向かうかし始めている。
中には冷静に状況を考える者もいた。大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)とレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)はそんな部類に入る。
「このメールのネット探偵Aって、ここまでこまかいことまで知っとるのに何で教えてくれただけなんやろうな?」
「そうですね。どうにも胡散臭い……もとい、ワケありげな感じはしますね。動けない理由があるのかもしれませんが」
「なんにしても、犯人についてもなんかもっと知っとる筈やな。僕らはメールがどこから送られてきたか調べようや」
そう決め、ふたりは廊下を駆けていく。事件を解明へと導く為に。
P.M. 12:33
廊下を走ってはいけない、という校則は破られるためにある。
そんなエセ格言を証明する勢いで、ルルナと幻影少女も別館校舎の三階廊下を思いっ切り走っていた。
それに続く形で橘 舞(たちばな・まい)とブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)も共に避難中である。
「やれやれ。春美さんとお昼を一緒するつもりが、とんだことに巻き込まれたわね」
「謎は全て解けたわ」
「……はじまったばっかでなに言い出すのよ」
舞はブリジットお得意の迷推理が始まるのを予感しながら、一応耳は傾ける。
「さっきのメール内容を見ても、探偵Aのメッセージは不自然よ。そもそも怪人奇獣面相が侵入した事を誰がいつ気づけるの? 変装の名人が潜入直後に即バレしてるとかありえないし、仮に事実なら誰に変装しているのかも探偵Aは知ってるはずよ」
「まあ、そう言われるとそうかも」
「なのに、なぜ何も言わないのか……それは、探偵Aこそが怪人奇獣面相本人だからよ。おそらく怪人はアンキラの花が目的で学園に潜入しているのよ。探偵Aの情報でアンキラの花目指して大勢の人間が集まる。偽情報で花を持っている第3者を怪人と思わせ、本物の怪人は、野次馬に紛れてアンキラの花を奪取するつもりなのよ」
「確かに、あり得ないとは言わないけど」
「ルルナの持ってるのがアンキラの花なら、もっともらしく受け取ろうとする者が現れたら、そいつが怪人よ」
間違いない、とばかりにうんうんと頷くブリジット。
得意満面の彼女を見ながら、舞も考えてみる。根拠や証拠がゼロの推理を信じたわけではなかったが、それを元に思考するだけはしてみるようだ。
(ルルナさんの持っている花がアンキラの花だったら……少なくともルルナさんは怪人さんじゃないってことですよね。あ、でもそれ以前に、探偵Aさんが偽者なら、アンキラの花の特定に関する情報もあまり当てにできないかもしれませんね)
可能性を挙げていけばキリがないともわかっていた。
ただ、ルルナの持つ花束を調べれば可能性のひとつを潰すことはできる。
しかし前を走るふたりが偽者である可能性もまだ残っている以上、不用意に協力を求めるわけにもいかず。
どうにも歯がゆいことばかりだった。
そうした彼女達の考えを知らないルルナと幻影少女は、まだあまり事態を把握できていないようで困惑しながら足を動かし続けている。
「それにしても、どうして急にモンスターが襲ってきたんですか?」
「ワタシにもわかりません。ああもう、せめて校長先生がいらっしゃってくれれば」
やがて彼女達は下への階段に到達しようかというところまで来たが、
そこでまさに獲物が来るのを待っていたかのように、消防車のホースほどの太さのツタが、廊下の窓を突き破って伸びてきた。
ガラスの破砕音と甲高い悲鳴が廊下に轟くが、ツタのモンスターはなんの躊躇もなしに定めた標的たる少女達めがけて襲い掛からんとした。
しかし。容赦ないその攻撃は容赦ない火術の炎によって、一気に焼き尽くされた。
ツタがブスブスと焦げ、樹液の甘臭いにおいが漂う中、階段上から下りてきたのは火村 加夜(ひむら・かや)だった。
わずかに遅れて神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)とレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)、山南 桂(やまなみ・けい)の三人も下りてくる。
「危なかったですね。もう大丈夫ですよ」
加夜はそう言って若干震えているルルナに駆け寄って手を握り、にこりと、安心させるための笑顔を向ける。
「は、はい。ありがとう、ございます」
幸いルルナも、震えてはいるが腰が抜けるような事態には陥らなかった。
なのでこのまま一気に下まで駆け下りようとする加夜だったが。
階段に足をかける前に、ぴくりと鼻の方が敏感に動いた。彼女の超感覚が、この下からもさっきの甘臭さを感じ取ったのだ。
「この下は、たぶんさっきのモンスターが大勢待ち構えてます。こっちへ!」
そうして加夜の指示のもと、再び廊下疾走が再開される。
とはいえ窓から見える向かいの校舎や中庭などにも、ツタがかなり侵食している様子で、どこなら安全とも言いがたい状況でもあったが。
「これは、またツタがあちこちに、ジャングルのようです」
そんな風景を走りながら眺めつつ桂はしみじみと呟いた。
翡翠のほうは併走する幻影少女に軽く会釈をして、
「さてと、久し振りに会う事になりますが、まだ居たんですねえ……元気でしょうか?」
「む。ちゃんと元気してますよ。あ、でもワタシもう死んでるから元気も何もないんですけど」
「なんですかそのゴーストジョーク。するとなんですか? もしかして別にこれ以上傷を負ったりすることはないとか?」
「ああ、いえ。人間のように生活している以上は、普通に怪我したりもします。ワタシの場合は身体の回復にかける魔力が底をつきると、本当に成仏してしまうんですけど。そうならないように……」
「おいおい。話はそのへんにしようぜ」
やがて廊下の突き当たりまで足を踏み入れたところで、レイスが話を切った。
これから懇切丁寧に説明しようとしていた幻影少女は、やや不満そうに頬を膨らませながらも、目の前の光景を見て自重した。
そこは現在工事中の大教室で、扉もまだ設置されておらず、鉄パイプやセメントなどが置かれているだけの筈だった。本来ならその部屋の非常口から外へ出られていたかもしれないが。
しかし、肝心のその非常口から大小様々なサイズのツタモンスターがうねうねと這い出してきて、どこの植物園かというほどに地面を埋め尽くしていた。
これではどう考えてもこいつらを片付けなくては進めそうになく。
「後方は、お任せ下さい。護りますので、お二方、無理なさらずに」
いちはやく頭を切り替えた桂はそう告げて、ルルナ達を後ろに庇うように位置どる。
「しかし、またすげー状態だな? 下がっていろよ」
レイスはそう呟いて、守るように前へと出る。
その動きに呼応するようにして、鞭のようにしなりながら向かってくるツタ達。
単調な攻撃にレイスは軽く笑みすら浮かべながら、軽くジャンプしてツタを避け、そのまま部屋を駆け抜けながら翼の剣を振って次々ツタを切りまくっていく。
時折切られたツタがイレギュラーバウンドして味方のほうに跳ぶこともあったが、それは桂が雅刀で弾き飛ばしていった。
翡翠はパートナーの連携に内心喜びつつ、それでも油断しないよう手袋をはめ、マシンピストルを手に後方からの支援攻撃を怠らない。
時折地面からにじりよってくるツタの対策として、床に軽く氷術を放ち足止めもしていくという念の入れようだった。
「植物ですが、二人共無理しないように、しつこそうですねえ」
だがそれでも翡翠は、心配を欠かさない。
なにしろ何度切り捨て銃弾を喰らおうと、後から後からツタは伸びてきているのだから。
「だー次から次へとうっとうしいな!! 元を立たないと駄目か? これ」
レイスがぼやきながら戦いを続けるなか、舞とブリジットは挟みうちにならないように、後ろに気をつかいながらどこかへ電話をしている。
そして、ルルナと幻影少女の一番傍に陣取ることになった加夜は、時折氷術で援護をしながらこの機に聞いておくことにした。
「ふたりとも。今回の事件にはアンキラの花っていうのが関係してるみたいなんですけど。ここへ来るまでに見かけませんでしたか?」
加夜はそう言って、メールで知った花の特徴をそのまま教えるが、
「うーん。ルルナは、そんな花しらないです。もちろんこの花束の中にもないよ」
「ワタシも見てないですね。それにワタシは花とかあまり詳しくないので、目にしても気づかなかったかも」
両者ともにあまり良い答えは返ってこず、落胆する加夜。
彼女は素直なので、発言について特に疑うこともなく。
今はモンスターの警戒に集中する事にするのだった。
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