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リアクション
終章 歯車となりて
深淵より深く、闇の中でそいつは息づいていた。台座に飾られる女を象った黒水晶を見下ろして、腐ったような笑みを浮かべている。
そんな彼のもとに足音が聞こえてきた。顔をあげると、そこにいたのは坂上 来栖。
彼女は、どこか不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「おやおや、来栖さん。今日はお疲れさまでした」
水晶を見下ろしていたネズミのような小男――モートはねぎらいの言葉をかけた。しかし、来栖の表情は変わらぬ。
「……一つ聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「いつだって貴方は黒水晶で美那さんを捕まえることができた。だが、それを容易にはしなかった。……今日のことは……あなたは全て、分かっていたんじゃないですか?」
モートは、押し黙った。
図星を突かれて黙ったのか。そんなことを訝しむ来栖。しかし、徐々にモートはあの怖気を誘う子どものような笑い声をあげはじめた。
「くく……ひひゃひゃひゃ。まさか……そんなことはありませんよぉ」
今度は、来栖が黙る番だ。モートは、狂ったように笑いながら続ける。
「そんなことはね。ひひっ……そんなことはありませんよぉ」
これ以上、追究するのは無意味か。
来栖は黙ったままモートに背を向けると、その場を後にしようとした。すると、その背に向けてモートの声がかかる。
「ああ、でもね……来栖さん」
「……?」
振り返った彼女を、モートの赤い瞳がじっと見つめていた。
「人の憎悪、怒り、復讐、恨み、不幸、悲しみ、絶望、涙……そんなものがね、私は大好物なんです。だから今日のは…………とってもおもしろかったですね」
ニタァ――と、およそ人とは思えない不気味な微笑を浮かべるモート。
私は、誰と共にいるのだろうか。そんな不可思議なことを考えてしまうほど、モートという存在に現実感は少なかった。
来栖は、努めて平坦な声で言った。
「そうですか……ま、どうでもいいことですね。私はあなたに協力し、ネルガルさんに近づけるのですから」
今度こそ、来栖はモートの前から立ち去った。
モートの目は、自然と台座の上の黒水晶のフィギュアに移る。かの、泉美那という存在であったものに。
「さて……貴方には、もう一働きしてもらわないといけませんねぇ」
不気味な笑い声は、いつまでも闇の中で消えることはなかった。
●
漆黒の中で声が蠢いていたその頃――南カナンの各地にある村や町にはある手紙が届けられていた。馬に乗った兵士が、一人一人それを確実に各所に手渡してゆく。
署名の印と代表者は南カナンの領主シャムス・ニヌア。そして、筆者は羽瀬川 まゆりだ。
そこには、こう書かれていた。
『あの美しき南カナンを、美しきカナンの国を取り戻すために――今こそ立ち上がるときだ』
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担当マスターより
▼担当マスター
夜光ヤナギ
▼マスターコメント
シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
当方初のシリーズシナリオ「黒と白の心 第1回」いかがでしたか?
まずは公開が遅れてしまったことをお詫び申し上げます。
本当に申し訳ございませんでした。
今回は、ある意味で南カナンの全容を知る情報公開作品としての一面もございました。
しかし、皆様のアクションを受けてその設定そのものも色々と加わったり変化したりしております。
ニヌアの騎士団“漆黒の翼”、そしてその騎士団長、シャムスの父親――。
変化する世界はリアクションの醍醐味。自分も皆さまのアクションを心待ちにしてワクワクしております。
これから南カナンは砦への攻略へと移るかと思います。本格的に戦いの始まりといったところです。
自分も、皆様と一緒に、カナンの世界を盛り上げていこうと一層気合を入れて頑張ります。
それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
ご参加ありがとうございました。