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リアクション
――そして、スキー場の山頂付近では……
「てめぇか、さっきから妙な雪だるまを麓に送り込んでる元凶は」
小型飛空挺から眼下を見下ろすジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)は、山頂に聳え立つ巨大雪だるまに向けて不敵な笑みを浮かべた。
「どうやら、小雪だるまもテメェも麓を目指してるみてぇだがな……」
僅かづつではあるが、巨大雪だるまが麓を目指して前進していることを見抜いたジガンは――
「俺がここで、微塵も残らねぇようにぶっっっっ壊す!! ヒャッハァアアアアアア!!」
一気に小型飛空挺から飛び出すと、巨大雪だるまの喉元を目掛けて一撃を叩き込む。
だが――
「チッ……意外とやるじゃねぇかっ」
ジガンの攻撃は、巨大雪だるまが体表に作り出した小雪だるま達の雪球射撃と、ブリザードの連携攻撃によって阻まれてしまった。
「その氷で覆われた額の石が、テメェに力を与えてんのか!? だったら……ぶっ壊す!」
獣のような勢いで雪原を蹴って駆け出すジガン。
巨大雪だるまも、負けじと小雪だるまを出現させて行く手を阻む。
「なめんなぁああ!」
シールドを前面に押し出しつつ、トマホークによる連撃で小雪だるまを砕いていくジガン。その姿は、まさに砕氷船そのものだった。
しかし――
「チッ……いつの間に」
密かに背後へと回り込まんでいた小雪だるまの雪球射撃によって、ジガンの足が一瞬止まる。
そして、巨大雪だるまはその隙を見逃さず、ブリザードによる一撃を彼に向かって放った。
さすがに、ジガンの顔に焦りが浮かぶ――が。
「ジガン、伏せてください!」
瞬時に、聞こえてきた声のとおり体勢を低くするジガン。
すると次の瞬間には、最大級の火術がブリザードを飲み込み、彼の身は守られた。
「相変わらず一人で無茶苦茶やりますね、ジガン」
そう言って現れたのは、スノーモービルに乗った、パートナーのノウェム・グラント(のうぇむ・ぐらんと)だった。
「フンッ……この雪だるまどもを蹴散らせるんなら、多少の怪我は気にしねぇよ」
「ですが、ジガン。もう少し回りを見てください!
巨大雪だるまの頭部に誰か埋っているようですよ」
ノウェムが指し示した巨大雪だるまの頭部には――意識を失ったレオンの姿が見えていた。
「先ほど、教導団からスキー場で任務にあたっていたレオン・ダンドリオンからの通信が途絶えたと連絡が入りました。おそらく、雪だるまに埋っているのはレオンです」
「そんなもん、俺の知ったことじゃねぇ――ぜっ、おらぁあ!!」
再び襲い掛かってきた小雪だるま達をトマホークで粉砕すると、ジガンは前進を再開した。
「とりあえず、後ろは任せるぜ。ハッハアァ! 雪が何ぞ、氷が何ぼ! オラオラオラァ、達磨ども、どーしたよおおおおおお!? 砕く壊すブチコロオオオオオオオォォッス!!」
雪だるま=殲滅。という考えのジガンは、レオンのことなど忘却の彼方へと追いやり、アドレナリン全開のまま巨大雪だるまへと突っ込んで行った。
「ウラァア!! どうした、コノ程度のザコだるまで俺を止めるつもりか!? あぁ!?」
「ジガン、くれぐれも無茶はしないでくださいっ!」
ノウェムの心配を他所に、ジガンが巨大雪だるまに向けて前進していると――
「お前が温泉を邪魔する元凶か? ふむ……強い魔力を感じるな。ただ大きい雪だるま、というわけではなさそうだな」
静かな怒りを纏った夜薙 綾香(やなぎ・あやか)と――
「もーう! せっかくマッサージチェアーを堪能してたのにぃ……早く、暖かいお部屋に戻りたいよ〜!!」
あまりコノ場に留まりたくない様子のパートナー、ヴェルセ・ディアスポラ(う゛ぇるせ・でぃあすぽら)が現れた。
実は綾香は、少し前まで誰もいなくなった混浴露天風呂で一人ゆっくりとしていたのだが……
『ふぅ〜、やはり寒い時は温泉に限るな……この、熱いくらいの温度がたまらんな――って、なんだ? 女湯が妙に騒がしいな?』
ふと、静寂の中に僅かな違和感を聞き取った瞬間――
『!? なぜ温泉に雪だるまが!? いや、それより……雪だるまが入ると、湯がぬるくなるだろうが!』
混浴にも大量の小雪だるまが現れ、綾香は戦うことになってしまった。
そして――
『ヴェルセ、ちょっと雪だるまの元凶を燃やしに行くぞ!』
『へ? どういうこと!? ねぇ、どういうことなの!? ねぇっ!?』
小雪だるまの襲撃から、どこかに元凶がいると判断した綾香は、ヴェルセを無理やりに近い形で拉致して山頂までやって来たのだった。
「ふむ……小雪だるまの数が多いうえ、あの教導団の生徒が共闘に応じるようには見えんな」
先に戦っていたジガンは、狂ったように目の前の小雪だるまを破壊しているので、綾香が近づけば巻き込まれることは確実だった。
そして、気づけば綾香たちの周りにもいつのまにか小雪だるまが出現していた。
「しかたない……ここは、あの手でいくしかないようだな。ヴェルセ、出番だっ!」
「へ?」
あまりの寒さに、アイスプロテクトとディフェンスシフトを自分にかけていたヴェルセだったが……彼女は、突然背中を綾香に押された。
そして――
「ちょっ、アヤカ!? 何するのさ…って、うわぁああん!? ゆ、雪だるまが〜!」
ヴェルセは、小雪だるまの群れへ囮として放り込まれたのであった。
「頭部から魔力を感じるな……あの氷で覆った魔法石が原因か」
囮によって、小雪だるまの襲撃が誘導された瞬間――
「だったら、その顔ごと蒸発させてくれる!」
炎の聖霊とファイアストームを巧みに利用した一撃が、巨大雪だるまの頭部を包みこむのだった。
「ふん……不届きな雪だるまめ。おとなしく蒸発するんだな」
綾香の放った最大級の爆炎によって、巨大雪だるまの頭部はみるみる溶かし尽くされていく。
だが――
「な、何だとっ!? 自己修復しただと!」
綾香は目の前の光景に驚愕した。
炎に包まれ頭部が溶けた巨大雪だるまだったが、氷に覆われた額の魔法石が輝くと――一瞬にして雪原に激しい吹雪が舞い荒れて、その雪が巨大雪だるま頭部へと集まり、溶けた頭部が修復したのだった。
しかも、どうやら実際の雪だるま作りさながら、取り込んだ雪の影響で巨大雪だるまの装甲はさっきよりも分厚くなっているようだ。
「くっ……」
綾香が攻撃の手を止めた隙をついて、巨大雪だるまのブリザードが放たれる。
「どうすればいいんだ、これじゃキリがない!」
ブリザードを間一髪で避けるが、綾香には反撃の手段が思い浮かばない。
――と、そこへ。
「大丈夫。勝機はあるわ」
綾香は、背後からの声に振り返ってみると、そこには魔鎧に身を包み【ヒノカグツチ】を手にした紅凛が立っていた。
「今見た限りじゃ、この巨大雪だるま……自己修復の時は、力を使うせいで攻撃も防御も止まるみたい。だから、胴体をある程度破壊してワザと修復させれば、額の魔法石を狙う隙ができるわ」
意外と冷静に状況を判断していた紅凛に、魔鎧化していたブリジットは関心する。
「それに、私達は数的に有利なはずよ。ほらっ」
紅凛がそう言った直後――
「紅凛さん! 私も戦います!」
「お姉さま、援護射撃なら任せて♪」
機晶モービルに乗って現れたのは、パートナーの天音とイヴ・クリスタルハート(いぶ・くりすたるはーと)だった。
「どう? 私達と、あそこで雪だるまを砕いて笑ってる変人の目的は、あの巨大雪だるまを壊すことで一致してるみたいだし……協力してみない?」
軽い調子で提案してくる紅凛。
そして、綾香の答えは――
「まぁ……そうだな。互いに協力したほうが、有利だろうしな」
論理的に考えるまでもなく、共闘を選んだ。
「そう、それは良かったわ!」
綾香の答えに、パァっと笑みを浮かべた紅凛。
だが――
「それじゃあ、麓でも被害が出始めてるみたいだし……チャッチャと終わらせて、温泉にでも行きましょう? あんた結構可愛いし、湯船の中でじっくりと仲良くしたいわ」
何故かその笑みに、綾香はゾクリとした寒気を覚えた。
そしてソレと同時に、なんとなくこの人と一緒に温泉に入ったら、とんでもないセクハラが待っていると、本能的に悟ったのだった。
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